梅雨入り前後の河川敷

2010.Jun. 9, 13

暦の上では水無月に入ったが、天の水は一向に減らない今日この頃。狙いたいものはたくさんあるのだが、まずは今年の目標のひとつである、河川敷の草地環境に生息する、赤いオサムシを狙うことに。

実は昨シーズンの5月下旬に密かにトラップ採集を試みたが、不発。その前にオサ掘りでも挑戦したが、出てきたのはヤコンオサムシばかり。そう簡単に出会える虫でないことは、十分思い知っている。それでも、甲虫屋のはしくれとして一度はお目にかかりたい虫である。生息環境のイメージを改めて臨む今年は、どうだろうか。


2010 Jun. 9 (トラップ設置)

午前9時、河川敷に到着。夏至まであと日の、厳しい日差しが降り注ぐ。昨年まで存在しなかった灼熱のアスファルト道を進み、吟味した場所に、淡々とトラップを設置していく。

肝心の設置場所は、「生息条件に合致する環境が存在する場所」。種によって微妙に異なる生息環境を想像して実践することが、一見すると単調に思えるトラップ採集の一番の醍醐味なのだ。

日が高くなり、遮るものが何もない河川敷は灼熱の状態に。ひとまず、今日持ってきた120個のコップを、すべて埋めてしまわねば。淡々と機械的にトラップを設置していくが、季節の推移を把握することは忘れない。


キクスイカミキリ

6月だというのに、まだ春のカミキリが残っていた。

カラムシには、見慣れた食痕がすでについていた。食痕の主はこの暑さを避けてどこかに隠れているのだろう。

2時間ほどでトラップ設置を終え、帰途につこうと思ったら、道端の草むらでガサゴソと音がした。


クサガメ

水辺とは反対方向へ、懸命に歩いているところだった。非常に臆病で、ずっと縮こまったまま。実家にいるカメとは大違い。持ち上げて観察してみて、「臭亀」と呼ばれる理由を実感した後、とりあえず、水辺へ。

水辺にそっと置くと、ゆっくりと頭を伸ばした。そして、周囲を確認して猛ダッシュ(少なくとも、そのつもりらしい)。

だいぶ御老体だとは思うが、余生を懸命に生きてほしい。

せっかく水辺に来たので、砂地も少しだけ探索。


オサムシモドキ

大きな石をひっくり返したら、1匹だけ鎮座していた。実は、初採集。「白足袋」と形容される脚がポイント。


コニワハンミョウ

周辺視野で影を捉え、5分ほど追跡して最後は飛びついて手づかみ。実は、これも初採集。カミキリ屋の盲点といわれる、河川敷にいかに通ってなかったことか。

このあたりで正午になり、翌日の仕事に響かないように帰途につく。

蛹粉に、一味唐辛子をトッピング(獣対策)。さて、4日後には狙いのオサムシは落ちているだろうか。


2010 Jun. 13(トラップ回収)

今日は、梅雨入りの日。前日までとても良い天気だったのだが、土曜が出勤日だったので仕方ない。朝から弱い雨が降る中、設置場所へと向かう。

最初のポイントで、いきなり抜かれたコップを発見。おそらく、設置時に近くにいたカラスの仕業だろう。プラコップは虫が壁面を登りにくいという利点があるが、光を反射して目立ってしまうという欠点がある。そして、カプサイシンは獣には効くが、鳥類には効果がないのだ・・・。

だが、被害に遭ったのはほんの一部だけだった。なんとなく役割分担を決めて、作業を開始。雨とともに風も若干吹いているので、回収に専念。

一応、少しだけ撮影したトラップの中身はこんな感じ。


オオヒラタシデムシ & オオクロナガオサムシ


ダンゴムシ & オオヒラタシデムシ & ヤコンオサムシ


オオクロナガオサムシ & カンショコガネsp.

今回の常連さんは、オオヒラタシデムシ。河川敷の掃除人として何でも食べ、繁栄を極めているらしい。成虫だけでなく、幼虫も大量に入った。近縁のツシマヒラタシデムシも期待してたが、残念ながら混じってなかった。

一方、オサムシは少なめ。オオクロナガオサムシとヤコンオサムシが少々。ヤコンはオサ掘りで得られた数よりはるかに少ない。

雨と風は、少し強くなったり弱くなったりを繰り返す。コップの中で息絶えている成虫は、すべて回収。生きているものは、必要な数を確保した後はすべてリリース。採集方針に沿って、機械的に河川敷を歩いて行く。

途中、食痕があったカラムシ群落をチェック。


ラミーカミキリ

>某テレビ番組で紹介されて、ちょっとした人気者らしい。異国の地である日本ですっかり定着し、もう100年以上になる。こんなに派手な種類でも、生態を知らないとなかなか見つからない。

11時過ぎ、トラップ回収完了。

今回の成果

ここまでの展開でわかるとおり、狙っていたセアカオサムシはついに出会えず。時間はかかっても必ず展足して後世に残すから、成仏を・・・。

荷物整理が終わったところで、図ったように雨が止む。うらめしそうに空を見上げてから、河川敷を後にした。


今回も、草原の赤いオサムシの姿を拝むことはかなわかなった。このエリアではそう簡単に絶滅しないだろうから、また挑戦すればいいだけ。今回のトラップで採れた虫の顔ぶれを見ている限り、生息環境を見抜く力を、もっと磨く必要があるのかもしれないが。

梅雨に入ったこの日、丘ではアジサイが綺麗に咲き誇る。狙った虫は今日も採れなかったけど、もっとずっと大切なものを、ようやく手に入れた。それが、今日一番うれしかった。

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