蘭嶼之旅

2010.Mar.20-28

「海の向かうでまた会はむ。」

阿波国の現代版竹取物語から、一月半余り。日向之翁ことToki氏は、弥生一日に日本を飛び出し台湾へ渡った。一方、武蔵之翁ことGenkaは、異動を控えて年度末の業務繁忙期に突入した。

異動先では長期休暇の取得が困難ということが判明していたので、あの約束を果たすには、異動直前のこの1週間しかない。職場の業務はいつものように同時並行術を使って片付け&委託、引越し準備は予定だけ立ててとりあえず後回しにして、悩み多き日常の中で心のバランスをとりながら、メールを駆使してToki氏と連絡を取り指示を仰ぎながら準備を進めてきた。

今回の行き先は、蘭嶼(Lanyu)。台湾本島の南東に位置する、周囲40kmほどの小さな島である。かつての呼称である紅頭嶼は、コウトウキシタアゲハなどにその名を残す。海流の通り道に浮かぶため、興味深い昆虫が多く生息するという。

そして、Toki氏に遅れることちょうど20日、初の国境を越えた採集旅行への期待で頭の中を一杯にして、桜の便りが届き始めた日本列島を飛び立った。


“夢追い人はゆく 名前はいらない 国境越えて・・・・・・”

飛行機の中では、たまたま聞いたMAYの「WONDERLAND」が頭の中で流れ続ける。

“・・・その先はParadise 未来というWonderland ・・・・”

現地はすでに初夏の陽気で、早春の日本から行くとまさに虫の楽園。

“・・・確かなるタマシイ さがしにゆくWonderland ・・・・”

日常の悩みで揺らぎつつあるものを、再確認するためにも。

“・・・目に見えない世界 もうひとつのWonderland ・・・・”

普通の人には見えないものを、これから見に行くのだ。

15:20(現地時間、以下同じ)、台北の桃園国際空港に到着。時計の針を1時間遅らせて、時差の修正は完了。荷物を受け取り、バスに乗って台北市内へ向かう。

17:00、台北駅に到着。当たり前のことだが、都会だ。

Toki氏との待ち合わせまでには時間があるので、ちょっと周辺を探索。


紅姫縁椿象
Leptocoris abdominalis

芝生の脇のコンクリートで、台湾初の昆虫を発見。日本語読みすると「ベニヒメヘリカメムシ」。

ふと幹に目をやると、おびただしい数の幼虫と成虫が群がっていた。

薄暗くなって撮影も難しくなってきた頃、地下鉄に乗って集合場所へ。

どんなに夢と希望に満ち溢れた状態であっても、心のダメージは皆無ではない場所で、待ち続ける。

やがて、Toki氏が変わらぬ姿で現れる。寮に行って荷物を置いて、夜の市場へ。

自炊するよりも安いということで、このあたりは良く来るらしい。

名前は忘れたが、気候に合った一品でおいしかった。

その後、Toki氏の研究室へ。

研究室に飾ってあったポスター。今回の最大の狙いは、このカタゾウムシたちである。すべて採集禁止種なので、全種をカメラに収めるのが目標。そして、これに擬態したカタゾウカミキリには何としても出会いたい。

寮に戻って荷造りをして、いよいよ旅の始まり。

蘭嶼へ渡るには、台東空港からの飛行機がほぼ唯一の交通手段。時間と予算の都合上、まずは夜行列車で台湾東部を南下していく。

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