蘭嶼之旅


3月21日(日):2日目

朝6時、台東駅に到着。

夏の陽気だ。

駅前でタクシーに乗って、台東空港へ。予約していた第2便をキャンセルし、始発便に乗ることに。

プロペラ機に乗るのは今回が初めて。飛行機=ジェット機というイメージではなんとなく不安になるが、考えてみれば第2次世界大戦の戦闘機はプロペラ機だったな・・・。

乗客定員はわずか18名。操縦士2名に命を預けて、出発。

相当揺れながらも無事に離陸し、台東県の景色がどんどん小さくなる。夢の島で思い切り、虫の世界に遊んで、5日後には再びこの景色を見る。この時は、そう思っていた。

約20分間の不安定な飛行の末に、蘭嶼空港へ到着。日本を出発してから21時間、ようやく夢の島にたどりついた。

空港前のロータリーには多数の車が止まっている。その半分にはナンバーがないところをみると、この島には道路交通法が適用されないらしい。

空港の外壁に、蘭嶼の昆虫第1号を発見。サルハムシの一種だろうが、種名は不明。

まもなく、今回お世話になる民宿のオーナーであるDongさんが車で登場。荷物を積み込み、出発する。


魚飛浪民宿

空港から1kmほど離れた漁人村にある。

建物は現代風で、きれいに管理されている。

島内の移動手段は、スクーター。風を切って自由自在に走るのは、南の島に最適である。2004年の与那国遠征以来、実に6年ぶりとなる。

ここで、改めて蘭嶼について確認。

台東の南東約90km、フィリピンからの海流の通り道に浮かぶ火山島。

面積45㎢、与那国島の約2倍の大きさ。道路網は非常に単純で、主要道路は周遊道路(約40km)と、紅頭村~気象観測所~野銀村を結ぶ道路のみ。島の内部は500m級の山々が連なり、海岸沿いを除いて急峻な地形が広がる。

山に入る道は限定されているので、まずはToki氏が事前に目星をつけていた場所へ。周遊道路に沿って北上し、急斜面に沿ったつづら折りの小道を登っていく。

目的地に到着。夏の陽気の中、虫の気配があちこちから感じられる。

アワブキ系の花があちこちで咲いている。

>写真を撮っているうちに、Toki氏が歓声を上げる。

「カタゾウいた~」

今回の旅の大きな目的が、はやくも見つかった。台湾の保育種(採集禁止)に指定されているので、網膜にしっかり焼き付けつつ、カメラを構える。


大圓斑硬象鼻蟲
Pachyrhynchus sarcitix

前胸に3つの紋、上翅会合部に2つの紋があるのが特徴。漆黒の体に浮かぶ鮮やかな水玉模様が、実に見事である。大きさも想像以上で、日本のシロコブゾウムシより一回り大きい。なんと幸先の良いスタートなのだろうか。

撮影終了後、周囲から漂ってくる虫の気配を感じながら、探索開始。

南の島での採集の基本は、ビーティング(叩き網法)。その基本であり、極意でもあるのが、

「叩く前に、よく見ること」

面倒なようでも毎回実践していくと、寄主植物や生息微環境が見抜けるようになってくる。そして何より、叩く前に見つけることができれば、生態観察をすることができるのだ。


草蝉
Mogannia hebes

道路沿いの至るところで鳴いている。南西諸島のイワサキクサゼミは未見のため、初めてのクサゼミとなる。


ヒメカタゾウムシの一種

各種の葉上で、無数に見られる。青色系と黄色系の2タイプがいたが、別種か雌雄差かは不明。


白斑*椿象
Playnopus melanoleucus

(*=厂の中に萬)

これは目視ではわからず、叩いて落ちてきたもの。ネット上で画像を見た際、「カタゾウムシ擬態だ」と直観したもので、実際、網の上での動きがカタゾウムシに良く似ている。

カタゾウムシ、自力で目視発見。夏の日差しに耐えかねて、葉の影で涼んでいるところだろうか。動き出す気配が感じられなかったので、観察はすぐに終了。

南の島のススキといえば、ウスアヤカミキリ(Bumetopia spp .)。普通は、ひたすらビーティングをすることで得られる。

でも、じっと見ていると虫の姿が浮かび上がってくる。


蘭嶼超扁條天牛
Bumetopia stolata

ウスアヤカミキリ属とは思えない、ものすごい迫力。和名をつけるとしたら、「蘭嶼オバケウスアヤカミキリ」としたいところ。この後、同じ方法で数個体発見することができた。

葉の影から、視線を感じる。


蘭嶼大葉螽斯
Phyllophorina kotoshoensis

まだ幼虫だが、特徴的な前胸で簡単に識別できるツユムシの仲間。直翅目唯一の台湾保育種(採集禁止)。

イヌビワに残る謎の後食痕。驚きの正体は、数日後に明らかになる。

林縁の目視&ビーティングだけでは飽きてくるので、花掬いもしてみよう。Toki氏は絶好のポジションに咲いたアカメガシワで多数のカミキリムシを得ている。私は、点在するアワブキ系の花を掬っていくことにする。

花掬いの基本も、「掬う前に、よく見ること」。さあ、花の上で動く長い触角は、どんなカミキリムシだろうか。


大林氏大緑天牛
Chloridolum ohbayashii

アオカミキリ族特有の、柑橘系の香りが漂う。同時期・同所的に発生する蘭嶼緑天牛C.lanyuanumらしき個体も採集したが、区別点とされる後腿節の黄褐色部の広さは、並べてみるとよくわからなかった。


黒胸山天牛(黒胸金翅天牛)
Lachnopterus socius

上翅はオレンジ色の微毛で覆われており、別名の通り黄金のビロウド状の輝きを放つ。台湾本島には分布せず、蘭嶼以外ではフィリピンに分布する。


蘭嶼小緑花金龜
Gametis forticula kotoensis

日本のコアオハナムグリ類と同様、花掬いで無限大に得られる。斑紋には個体変異が見られるので、それなりの個体数を採集。

採集に夢中になっているうちに、雲が湧き立ち、山頂を覆う。スコールが降り始めたところで、観光に来ていた台湾人カップルとともに下山。

二人のお勧めの店「牛肉麺」へ。考えてみれば朝から何も食べていないので、一気に体力が回復する。

ひとまず民宿に戻り、雨が上がったところで探索再開。

島内の様子を一通り見ておきたいというToki氏の後を追い、周遊道路を走る。途中で立ち寄った脇道では、狙いの虫が待っていた。


圓斑硬象鼻蟲
Pachyrhynchus tobafolius

前胸に4つの紋、上翅会合部には紋がないのが特徴。

P.sarctixよりもやや小さいが、水玉模様の美しさは変わらない。

単独でいる個体も発見。

雨上がりということもあり、結構活発に歩き回っていた。

周遊道路に戻り、島の南半分を制覇することに。天気は相変わらず、今夜の灯火採集が心配だ。

この島にはヤギが多い。人を恐れず道路を歩いているので、運転には気をつかう。

海岸線には、奇妙な形をした岩が多いことで有名で、奇岩めぐりが観光の定番。


帽子岩(兜岩)

解説板の英文は「ヘルメット岩」となっていた。


龍頭岩

なんとなく、そう見えるような気がする。


放射性廃棄物貯蔵場

のどかな島の暗い側面でもある。

明日の目的地への入り口を確認し、民宿に戻る。

夜は、近くのレストランへ。驚いたことに、昼間の台湾人カップルと再会した。夜はここくらいしか食事場所がないらしい。積極的に話すToki氏に比べ、私はただ聞いているだけであった。

夕食後は、灯火採集。Toki氏が重量オーバーで超過料金を徴収されながらも持ち込んだ、最新式のライトトラップセットを持って出発。スクーターの鍵が手違いで回収されてしまったため、二人乗りで目星をつけたポイントへ向かう。

気温は低く、風も強い。条件はかなり悪いが、とりあえず点灯。

あまり虫が来ないので、森に向けて光を照射。

さらに、樹冠へ照準を変更。

しかし、片手で数えるほどの鱗翅目が飛来したくらい。1時間ほどで雨が降り出し、撤収を余儀なくされた。まあ、明日があるさ。

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