3月22日(月):3日目
朝9時、Dongさん一家と宿泊客が集まって朝食。飛魚(fei-yu)というのは聞き取れたが、あとの魚は不明。こんなところで刺身を食べることになるとは驚きだった。
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身支度を整え、バイクに乗って出発。よく晴れた空の下、昨日の帰りに下見しておいた登山口へ。
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11時、登山開始。はるか遠くに見える尾根にあるという、巨大な天水池が最終目的地。
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南国の日差しに照らされながら土の道を登っていくと、無数の小さな青い影が地面すれすれを飛び交う。
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八星虎甲蟲
Cosmodela batesi
日本にもいるヤツボシハンミョウで、名前もそのまま。
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やがて、道は原生林の中へ。湿度が一気に上がり、虫の気配があちこちに感じられる。
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琉璃突眼虎甲(蘭嶼亞種)
Therates alboobliquatus kotoshonis
メダカハンミョウの一種で、この島の固有亜種。登山道脇の草上に非常に多く見られる。突如現れた人間に驚いて地面から飛び移っているようだ。
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登山道の脇には枯枝もそこそこあるので、適当にビーティングをしてみる。
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紅頭刺胸瑣天牛
Sciades botelensis
蘭嶼固有種。日本にもいるクロオビトゲムネカミキリの仲間。
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台灣銹絨毛天牛
Acalolepta rusticatrix formosensis
ビロウドカミキリの仲間の蘭嶼固有亜種。八重山諸島にいるアナバネヒゲナガカミキリに雰囲気が似ている。
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粗天牛亞科的一種
Lamiinae gen. sp.
フトカミキリ亜科ということはすぐわかるが、その先は自信ない。
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しばらくすると、先を歩いていたToki氏が立ち止まり、姿勢を低くして何かを観察しているかと思ったら、いきなり網を振った。
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この木に、何がいたのか。
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こんな食痕を残す虫がいたことを教えてもらう。どうもToki氏はこの虫の情報を覚えて狙っていたらしい。図鑑には「個体数多くない」とあり、ホストの情報も載っていなかったが、八重山諸島での経験を生かして見事に見つけ採りをするとはさすがだ。これで本種の珍種度は暴落間違いなし。
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ということで、さっそく私も真似をする。
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蘭嶼細角天牛
Serixia botelensis
蘭嶼固有種。日本でいえばイシガキイトヒゲカミキリに近い仲間。
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どれくらい歩いただろうか、ふと後ろを振り向くと海が見える。正面に浮かぶのは小蘭嶼。目と鼻の先にありながらずっと無人島なのは、水の確保が困難だから。
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目的地まではまだまだあるので、ビーティングを続行しながら登っていく。
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蘭嶼刺角虎天牛
Demonax angulifascia
蘭嶼固有種らしい。日本でいえばトゲヒゲトラカミキリと同属。「台灣天牛圖鑑」には未掲載の種類だ。
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やがて、平坦な場所に出る。ここを抜ければ、目的地はもうすぐそこだ。
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そして、目的地に到着。ここが、雨期になると大きな池になるという空間。
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試しに朽木を取り除いてみると、タニシの仲間が出てきた。
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ここまで到達した証として、Toki氏と交互に記念撮影。「ここで灯火やったら360度全方向から飛んでくるんだろうな」などというToki氏に自分はついていけるのか戸惑いながら、ちょっと遅めの昼食にする。
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そして、出発前に池の周囲を少しだけ探索。
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紅紋沫蝉
Cosmoscarta uchidae
アワフキムシの一種。斑紋変異が多いらしい。気配には敏感で、手づかみは慣れないと難しい。
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林縁の草の隙間に潜りこんでいる大きな虫。森林性の種類は清潔なので、迷わずつかんで引きずり出す。
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麻 虫廉
Rhabdoblatta sp.
種名はわからないが、蘭嶼固有種らしい。これを美しいと思うか否かは、固定観念を捨て切れるかどうかにかかっている。
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さらに、地面にも何かいないかと石をひっくり返したりする。だが、巻貝の残骸ばかりでほとんど何も出てこない。
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八重山蠍
Liocheles australasiae
唯一出てきたのが、このサソリ。小さいながらもしっかりと威嚇してきた。
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この後、帰り道も同じようにビーティングしながら下って行くのだが、さすがに一度叩いたところなので虫は少なめ。あまり粘ることなく、下山。
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森の中を抜けると、強烈な日差しが降り注ぐ。
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登りとは別の道があったので、そこを進みながらビーティング。
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椿象的一種
Pentatomidae gen. sp.
カメムシの一種。頭部がまるでクワガタムシのような、不思議な形。
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南洋長擬歩行蟲
Setenis sulcigera
日本でいうユミアシゴミムシダマシの仲間。夜行性のはずだが伐採木を歩いていた。
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かなり大きく、重量感もある。
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16時頃、登山口に到着。正面奥の尾根筋にうっすらと登山道が見える。Toki氏は「チョウを採りたくなった」といって網を持って草むらに消えたが、私は荷物を置いて一休みしつつ、周辺の環境を観察するだけ。早春から一気に真夏へ来てしまい、思ったより体力を消耗しているのだ。
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どのくらい時間が過ぎた頃だろうか。右手の林の上に何か黄色い影が飛んでいるのに気づく。どうもチョウのようで、徐々にこちらへと近づいてくる。その目立つ黄色は、モンキチョウとは明らかに違う、ホログラムのような怪しい輝き。
少し近づいたところで、そのチョウの全体像が視認できた。黄色いのは後翅だけで、前翅は黒っぽい。しかも、かなりの大きさ。この瞬間、何が起こったのかがわかった。
「キシタアゲハだ!」
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まさか遭遇できるとは思っていなかった、この島を代表する巨大なチョウが、悠然と登山道を横切り、反対側の林へと姿を消していった。あまりに突然のことに、カメラを構えることすら忘れてしまった。
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その後、戻ってきたToki氏にキシタアゲハのことを告げてしばらく待ったが、再び姿を現すことはなかった。果たして、滞在中にもう一度チャンスは訪れるのだろうか・・・。
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夕食後、今度は灯火採集へ。Toki氏とともに、再び奥深い山の中へ。
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19時頃、ライト点灯。
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各自ライトを持って周辺を散策したり、長竿で木を掬ったりして虫の飛来を待つ。
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しばらくして、徐々に虫が集まり始めた。そのほとんどが鱗翅目で、日本の南西諸島でよく見るものも混じる。
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青尺蛾的一種
Agathia sp.
日本でいうチズモンアオシャクと同属。
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甲仙黄縁野螟
Cirrhochrista kosemponialis
日本にもいるコウセンポシロノメイガ。
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野螟的一種
Glyphodes sp.
ツトガ科ノメイガ亜科の一種。南西諸島でも見たような、見てないような・・・。
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野螟的一種
Agrioglypta sp.
これもツトガ科の一種。日本でいうイカリモンノメイガに近いみたい。
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夜蛾的一種
Noctuidae gen. sp.
ヤガ科の一種。このあたりは難しい。
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佩夜蛾
Oxyodes scrobiculatus
日本でいうクロミミモンクチバらしい。
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圓端擬燈蛾
Asota heliconia zebrina
日本にもいるシロスジヒトリモドキの亜種。
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そして、甲虫はわりと少ない。
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姫扁鍬形蟲
Dorcus parvulus
ヒメヒラタクワガタと名前がついているが、ヒラタとの類縁はわからない。これはポツポツ飛来する。
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五星白天牛
Olenecamptus bilobus
南西諸島でおなじみのイツホシシロカミキリ。長竿で掬っても得られた。
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そして、珍種とされる虫も飛来する。
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蘭嶼刺薄翅天牛
Megopis formosana lanhsuensis
蘭嶼の固有亜種。日本でスピニの愛称でおなじみのトゲウスバカミキリの仲間。先にToki氏の元に飛来し、また来ないかと期待してたら飛んできた。
「台灣天牛圖鑑」では”稀少”とされている、珍種。日本では材採集で羽脱待ち、まだ成虫すら拝んでいないというのに、台湾で先にお目にかかれるとは思わなかった。
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厚角金龜的一種
Bolbelasmus sp.
南西諸島にいるトビイロセンチコガネの仲間。ハエのように飛んでくるという話だったが、確かにそんな感じ。日本で採る前に、台湾で採集することになろうとは・・・。私はこの1匹だけであったが、Toki氏は南西諸島で眼が慣れており、複数採集していた。
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日付が変わる頃、バッテリー切れの前に撤収。夜の森を抜けだし、帰途についた。
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