蘭嶼之旅


3月26日(金):7日目

島を脱出するほぼ唯一の手段である航空機が、天候不良により欠航。このような事態は頻繁に発生するため、空港には独自のルールが定められている。それに基づいて行動しないと、島からの早期脱出は不可能。ということで、朝7時頃に空港へと向かい、シャッターが空くのを待つ。

椅子に座って待っていると少しずつ人が集まってきて、順序よく並んでいく。そして、シャッターが開くと同時に、カウンターへ直行する。


空席待ち受付表

朝から並んでいた順番で、名前を書き込んでいく。欠航便に予約があったとしても、優先権はない(支払い済みの代金は有効)。1人で4名分まで名前を書き込むことができる。

予約済搭乗客の手続きが締め切られて空席数が確定した後、受付表の順番で係員が名前を呼んでいく。字が判読できない場合や、2回呼んで返事がなかった場合は、即座に権利失効。

無事に名前を書き込み、天候の回復を願いながら空港の周辺で待機。チャンスは1日6回のみ、その瞬間を逃してはならない。

空港の外は、相変わらずの曇り空。気温も一気に低下しており、夏から春に逆戻りしたような感じ。

これまで蓄積した疲労を取り除くため、お地蔵さんになって眠る(Toki氏撮影)。Toki氏はまだ体力に余裕があるらしく、徒歩で空港周辺を探索していた。

定員18名の小型プロペラ機には、安全運航のため厳しい飛行基準がある。有視界飛行のため曇っていてはダメだし、少し風が強いだけでもすぐ欠航になる。そして、この時期の南西諸島を経験している虫屋ならよくわかると思うが、その基準を超える日は結構な頻度で訪れる。前日まで天気に恵まれて採集に熱中できたのは、実は珍しいことだったのだ。

9:25発第1便、欠航。

10:50発第2便、欠航。

11:35発第3便、欠航。

無情にも、時間ばかりが過ぎていく・・・。

13:40発第4便、欠航。

全便欠航の雰囲気が漂い、空港の待合室も閑散としてきた。

ようやく体力が回復してきたので、私も空港周辺を散策することに。しかし、風がけっこう強いため、ほとんど何も見つからない。空港の裏手の斜面の上には榕属が点々と生えているので、蘭嶼縱條長鬚天牛 Epepeotes ambigenusを目当てに藪こぎする。

そして、林縁のこの株に来た時、今まで見たことない影が目に飛び込む。強風のため撮影は断念し、左手を伸ばす。


蘭嶼黄星天牛
Psacothea hilaris botelensis

東アジア一帯に分布し、各地で少しずつ分化を遂げた本種。ここ蘭嶼に分布する個体群も固有の亜種とされている。日本ではごくありふれた存在であるが、この島で見たのは今日が初めて。これが、この日ほぼ唯一の収穫。

そして、再び定位置に戻って眠りにつく。やがて、Toki氏が戻ってくる。

Toki「しかし、よくそんなに眠れるね・・・」

Genka「ストレス状況ではいくらでも眠れる」

そして、キボシカミキリを見せると驚いた様子でまたどこかへ消えてしまった。

絶望を感じさせる灰色の空と、透き通った美しい浅瀬。仕事に穴を開けないためには、明日がタイムリミット。もう賭けるしかないと思いながら、宿へと戻る。

夜、日本へ状況を伝えるためにメールをする。携帯電話が使えないため、職場へは昆研主体の特殊経路を使用。

To: D氏  Subject: help me

Nihongo dekinai no de roma ji de shiturei shimasu. ima taiwan no ransho shima(Orchid Island) ni imasu. hikouki ga tobanai no de shima wo dasshutu dekimasen. nihon ni modoru no ha nichiyoubi ni narukamo shiremasen. konokoto wo tugi no hito keiyu de tutaete moraeruto arigataidesu.

(以下省略)

父には容赦なく英文で。

Dongさん「2人とも早くから並んでたから、明日はもっと早い時間から人が並ぶと思うよ」

明日は台東の地を踏むことができるのだろうか・・・。

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