裏山のオサムシ

2010.Mar.6

本日は、二十四節季のひとつ、啓蟄。虫偏のつく生き物たちが土の中から這い出してくるという日である。平地では冬季採集もそろそろ終焉を迎えようというところで、大阪のアキラさんを裏山のオサムシ掘りに案内することになった。最近オサムシに興味を持ったというトカゲ屋さんということで、摩耶山のマヤサンオサムシというものをぜひ見てみたいという。オサ掘り、トラップセンスともに自信がないので少々不安なのだが、ある種の異文化交流を楽しみにしながら、雨が降る街中へと出発した。


集合場所はJR三ノ宮駅。アキラさんとマッキャンさんの二人と、10時過ぎに無事合流。挨拶もそこそこに、昼食を買ってバスに乗り込む。採集道具として事前にお知らせしていたピッケルや手鍬はなかったそうで、代わりにトカゲの採集に使う小型のスプーンのような道具を見せてもらう。まあ、行けばなんとかなるかな。

時間節約のため、ケーブルカーで一気に山の中腹へ。あいにくの雨で、窓ガラスは曇っている。マッキャンさんは、この山に何度も通っているそうで、普段はケーブルなど使わないらしい。

山の中腹、虹の駅に到着。街の上には雲が広がり、展望はきかない。

雨具を着用し、いよいよ昨年マヤサンオサムシを採集したエリアへ。

11時、ポイントに到着。ここは昨年、えいもんさんと一緒に採集した際に掘り当てた場所。もともと個体数はそれほど多くないことに加えて、イノシシが多い山なので掘り起こしによって斜面の状況が変わりやすい。さらに、雨の影響で乾いた崖も湿った崖も一見すると同じに見えるという状況。私のオサ掘りセンスでは少々不安ではあるが、とにかくやってみよう。荷物を置いて、オサ掘りのコツを説明してから探索を開始する。

掘りながら、私はアキラさんからトカゲ採集のコツを少しだけ教わる。やはりオサ掘りとはだいぶ勝手が違うらしく、普段見向きもしない場所でも潜んでるという。

雨は相変わらず降り続ける中、めぼしい斜面を見つけては掘っていくが、予想以上に苦戦を強いられる。それは、私のイメージに合致する場所がなかなか見つけられないから。

「越冬場所≠採集可能場所」

オサムシそのものは広い林内に点々と越冬しているはずなのだが、掘れる場所、発見できる場所となると限られる。オサムシ屋としての力量が上がるにつれて、「越冬場所≒採集可能場所」となるのだろうが、そうなるには修行が足りない。

11時40分、ようやくイメージに合致する場所を発見。地形、土質、方角、植生、樹木の空間配置、風の流れ、天敵の痕跡、・・・・・

科学的に表現するには数多くのパラメーターに分解する必要があるのだろうが、虫屋はそれらを総合的にとらえて「雰囲気」「気配」という感覚的なもので表現する。オサムシ屋ではどういう言い回しをするのか知らないが、>カミキリ屋では土場などで「木をかじる音がする」と言ったりする。


セミの幼虫

これが無事にいるということは、モグラなどの天敵が侵入してない証拠。期待が高まる。

そして、その瞬間はあっけなく訪れる。


マヤサンオサムシ♂

落ちたと思ったら、すぐに歩き出した。オサ掘りで歩き出すといえばゴミムシ類で、オサムシはおとなしく縮こまっているものだが、さすがに啓蟄となると活動準備が整っていてすぐ歩けるらしい。

アキラさんのところへ行き、採れたことを告げて進呈。マッキャンさんもやってきて、初めて見るマヤサンオサムシを観察。金属光沢の美しさに驚いてくれたようで、私としても嬉しい限り。

そして、二人を採集場所へ案内。言葉で語るより、実物を見てもらった方が早いはず。そして、再び探索のため散らばる。

発見した斜面の残りの部分を掘ってみるが、出てくるのはムカデとクモのみ。アキラさんのところへ行き、掘っている斜面を見る。どうもオサ掘りの感覚とは違うなと思っていたのだが、どうやらこれがトカゲ掘りの視点らしい。オサ掘りの際にトカゲを掘り出すことはたまにあるのだが、両者の接点はそう広くないように感じる。

初めてのオサ掘りにはやはり適切な採集道具が不可欠なので、手鍬をアキラさんに貸して、私はナタで朽木割りをすることに。

それでも斜面は気になり、フラフラと歩いていると良い雰囲気の場所に出る。アキラさんが掘ってる場所から約10mほどの位置にある。ナタでは掘りにくかったので、手で崩してみる。


マヤサンオサムシ♀

本日2匹目、当たる時は手でも掘り出せるものなのか。

アキラさんに進呈した後、その斜面を掘ってもらうことに。だが、追加は得られない。掘り手が私に代わっても、結果は同じ。関東のエサキオサムシだったらここまで苦労しないのだが、どうもこの山でのオサムシ越冬場所の好みがよくつかめない。

その後、私の後をアキラさんがついて回り、オサ掘りのコツを盗んでもらうことになったが、残念ながらイメージに見事に合致する場所には出会わなかった。

アキラさんが掘り出した、ヤスデの一種。悪臭がするそうだが、あえて試そうとは思わなかった。

(後日、ミドリババヤスデと判明(アキラさん同定)。)

昼過ぎになり、マッキャンさんの案内で摩耶山の神秘的スポットへ。先週は右足に竹片が残っていたため若干の違和感があったのだが、もう除去してもらったので斜面徘徊もまったく問題なし。バランス感覚や足場固定能力もほとんど衰えていなかった。

訪れた場所は今まで見向きもしておらず、少々不気味な印象なので、一人ではまず訪れることがなかっただろう。好きな人には非常に面白い空間なのだろうと感じた。貴重な体験をありがとうございます。

その後、少しだけオサ掘りを再開したものの、結局追加は得られなかった。もう少し採れると思っていたが、そう甘くはなかったか・・・・。

16時、ケーブルカーで山を降りる頃には雨はすっかり止み、虹の駅からは大阪湾を一望できるまでになっていた。

とりあえず、1ペアでも見つけられて良かった。今度はぜひ、初夏のトラップで再挑戦を。

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