南紀のコブ探し

2010.Jun. 30

飛翔能力を失って、豊かな森に住むことを選んだセダカコブヤハズカミキリ。河川や海峡などにより隔離され、長い年月を経て地域ごとの特色が現れてきて、現在では10亜種に分類されている(2007年出版「日本産カミキリムシ」より)。そのうち、分布域の狭さ、採集難易度、造形美で1,2を争うと言われているのが、

ナンキセダカコブヤハズカミキリ
Parechthistatus gibber nankiensis

今年4月に大阪に移り住んだことで、ようやく射程圏内に入った本種を、地元和歌山のなぎさんのご案内のもと、探しに行くことに。


前日の29日夜、仕事を終えて荷物を背負って電車に乗る。和泉国を抜け、紀伊国へ初めて足を踏み入れる。20時過ぎ、なぎさんと合流。挨拶もそこそこに軽トラックに乗り込み、南紀を目指す。

コンビニの灯火を見たりしながら進んで、だいぶ近づいたところで、某道の駅にて就寝。予報では雨(しかも強雨)だが、完全装備でなんとか・・・。

翌朝、4時40分起床。快晴の空に感謝しながら、出発。

川沿いの細い道を、延々と進んで行く。

6時、林道入り口に到着。あいにくゲートが閉まっていたので、登山口まで歩いていくしかない。靴を履き替え、不要な雨具や着替えを置き、出発。

6時50分、登山口に到着。一休みした後、いよいよ山登り。

急峻なのは最初だけで、緩やかな登りが続く(奥多摩との比較)。

やがて、尾根に出る。朝もやが残る山並みが、美しい(これが植林でなければ・・・)。

尾根に出てからは、延々と続く植林の道。なぎさんの得た情報によれば、尾根に出てからが勝負ということなのだが、自然林は、いつになったら現れるのか・・・。

7時50分、太いアカガシが残る林に到着。まだ目的地は先だが、広く薄く分布するなら、ここにもいるはず。斜面を降りて、軽く探索。

一応、倒木はあるのだが、コブが来る気配は弱い。他に良い物件がなければ仕方なく来るという程度のものばかり。


ルリセンチコガネ

これだけ採集して、尾根に戻って先へ進むことにする。

9時20分、本日初めてブナを見る。ここから先が、コブ探しの本番だ。

少し進んだところで、これぞという物件を見つけ、斜面を一気に降りる。


ブナの立ち枯れ

ひと抱えほどもある、立派な木だ。時期が来ればネキダリス(ホソコバネカミキリ類)が見られる感じだが、まだ若干早いようで、姿はなかった。

高湿度を好むコブは、根元付近にいるはず。気配を消して、慎重に木のまわりを一周していく。

あと少しで一回りというところで、何かがポロッと落ちたことに、周辺視野と両耳が反応した。これは、もしかして・・・・。焦る気持ちを抑え、推定落下地点に目を凝らす。


ナンキセダカコブヤハズカミキリ

初めてブナを見てから5分後、予想以上に早い。ナンキの特徴である幅広い「矢筈」、盛り上がった瘤、長い触角。セダカの中で1,2を争うその造形美、実に素晴らしい。

尾根に戻り、採集を報告。ナンキを初めて見るというなぎさんは、大きなカメラを取り出して写真撮影。発見状況を説明した後、再び探索を開始。

最初の個体が落下してから20分後に見つけたのが、こんなブナの立ち枯れ。すぐ横には細い倒木もあり、いかにも、という感じが遠くから見て取れた。

5mほどの距離に近寄ってみたところ、虫影が浮き出る。

最初はメスかと思ったが、よくよく見ると触角が切れたオスだった。

なぎさんを呼んで、発見状況を確認してもらい、写真撮影。一体、このカメラではどんな光景が切り取られているのだろうか。

生息エリアと確信したところで、思い思いに探索。

ブナの大木と、アカガシの大木の共存。北と南の融合という、不思議な光景を感じながら斜面を徘徊。

立ち枯れや倒木を見つけては、丹念に眺めていく。

コブを狙って探してはいるが、他の虫もわずかながら視界に入る。


ゴマダラモモブトカミキリ

わりと久々に見る、渋い虫。あまり良い写真が撮れないうちに逃げようとしたので、やむなく手を伸ばす。


ヒゲジロハナカミキリ

林内を飛翔していた。本日は網を持ってきてないので、採集できるとは思っていなかった。

しばらくして、なぎさんもナンキを発見する。しかも、2匹同時に。

1匹あれば十分ということなので、もう1匹はありがたく頂戴する。ウサギの耳を持つように触角を持つと、足を縮めて死んだふり。

ここまでで見つかったのは、すべてオス。メスを狙って探索を継続するが、その後追加はさっぱり。

探索中の最大の敵は、ブユ。まるで蚊柱のごとく群がってきて、次々とアタックしてくる。手を叩いて潰しても、その分だけまた飛んでくる。網を持ってきていれば、一網打尽にできるのに・・・。

11時過ぎ、適当なピークで昼食。朝方は快晴だった空には、今は雲が広がりつつある。

昼食後、そろそろ歩きまわるのも飽きてきたので、移動しようかどうか迷う。なぎさんは斜面を降りて行ってしまったので、戻ってくるまで私も周辺を探索。


クチキクシヒゲムシ♀

斜面からフワフワと飛んできた。奥多摩以来、生涯2個体目。


ブナの立ち枯れ

葉蔭に、触角を発見。

またも、オス・・・。イワワキよりもさらに立派な背中のコブはオスならではだが、メスは一体どこに隠れているのだろうか・・・。

そこへ、なぎさんが戻ってくる。

その手の中に握られていたのは、立派な体格の個体。これぞまさしく、ナンキのメスである。これも頂けるということなので、ありがたく頂戴する。これで、累代飼育にも挑戦できるぞ。

この後、山頂を目指して進んだが、雲行きが怪しくなってきた。12時前、あと500m強というところで引き返し、下山することに。

来る時にチェックした立ち枯れや倒木を、もう一度調べる。


第一発見ポイント

2匹目のドジョウを狙って、幹の周りを一周。しかし、セアカナガクチキしかいなかった。

その背後にあった、ブナの落ち枝。


本日のベストショット

この左下には、気配に気づいて落下したオスがいた。

入り口のブナに別れを告げ、植林をひたすら下る。ブユの攻撃は標高が下がるごとに軽減されていったが、なかなかゼロにはならなかった・・・。

無心で下るだけだが、少しだけ虫の姿が見えた。


クロヘリイクビチョッキリ

シャクナゲの葉脈をかじっているところを、なぎさんが発見。


アリノスアブの一種

これもなぎさんが発見。私の視力はコブで使い果たしたか・・・。

14時半、林道へ出る。ここからの道のりが、長かった・・・。

15時15分、軽トラックに到着。荷物をまとめ、達成感とともに帰途についた。


今年の目標のひとつであったナンキセダカコブヤハズカミキリ、生息地までのアプローチは非常に長かったが、無事に出会うことができた。自力ではオスしか見つからなかったが、頂戴したメスで累代することにしよう。

最後になりましたが、長距離をひたすら運転してくださったなぎさん、今日は本当にありがとうございました。

帰りに、ちょっとだけ寄り道。紀伊国の歴史も、少しだけ感じた旅となった。

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