2010.Sep.12
今年の日本列島は記録的な猛暑に見舞われた。農作物の高温障害や不均衡な漁獲量など、異常な事態が続いている。真夏日が珍しい奥多摩ですら、今年はもう何日あったことか。
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8月上旬に父が急逝して、心沈む時期がしばらく続いていた。気がついてみれば月が変わって、夏も残りあとわずか。体力と気力がだいぶ戻ってきたところで、今年4回目の奥多摩へ。今は、虫なんて採れなくてもいい。研究室時代、苦しさと悔しさと寂しさを忘れて何度となく歩いた、魂のカケラが眠る場所に戻れれば、それだけでいい。
11日昼、夜勤明けでそのまま電車に乗り込み、東へ。6時間後、奥多摩駅発の最終バスで最奥の集落へ向かう。
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バス停を降りる頃には、もうあたりは闇に包まれる。携帯の圏内ギリギリまで移動して、荷物を置く。
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気温は21℃(19:20)。さまざまな虫の音も聞こえてきて、秋の気配が色濃い。
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外灯には、無数の羽アリ。その他の昆虫は、かなり少ない。
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オオキノコムシ
まだまだ元気に活動中のようだ。
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コロギス
昼間は姿を見せないが、夜になると活発になるらしい。
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エンマコオロギ
平地でおなじみの虫も明かりにつられてやってきた。
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クスサン
そして、秋の蛾も飛来する。
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秋の夜長を歩き回るのは体力的に無理なので、寝袋にくるまって体力温存に努める。
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5時、起床。朝焼けが美しい。
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朝食をとり、身支度を整えて、出発。
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谷の様子
トチノキはたくさんの実をつけ、葉が色づいてきている。
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気温は17℃ (5:57)。半袖では寒いくらいだ。
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まだ緑が濃い登山口から、原生林へ入っていく。
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セミの声ひとつ聞こえない登山道を、淡々と歩いていく。
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途中、上方に緑のじゅうたんが見えたので、道を外れて延々と登る。
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ミズキの倒木
この前の台風で倒れたのだろうか。晩秋にはセダカの絶好のポイントになるだろう。
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道に戻るのも面倒なので、尾根を目指してそのまま斜面を登り続ける。
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尾根からの眺め
心なしか緑がやや薄くなったような感じだ。
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林内に進み、植林と原生林の境目を進んで行く。これまで把握している立ち枯れや樹洞の位置を再確認しながら。以下、山歩きの様子の一部を、とりとめもなく・・・。
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昨年冬に目星をつけておいたモミの立ち枯れ。本体を見る前に、まずは手前の落枝を軽くビーティング。
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1匹の虫が、白布の上に落ちた。
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ヨツボシシロオビゴマフカミキリ
通称、メディオ(学名の略)。材採集で生息は確認していたが、野外では初めて。
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幹の樹皮下には、こんな残骸があった。生体ではまだお目にかかれずにいるオオクロカミキリだ。ここにいるなら、先月来ていれば・・・。
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ミズナラの樹液
毎年必ず滲出する木が数本あり、その位置は忘れない。それは、ある虫のポイントだから。
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チャイロスズメバチ
この時期になると、ほぼ確実に見られる。かつては東京でも幻のスズメバチだったのだが。
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それにしても、立ち枯れの数が年々増えている。おそらく乾燥に耐えられなくなってきているのだろう。もう若木が育っておらず、危機的な状況だ。
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数年前までスズタケで覆われていたところも、今はこの有様。
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スズタケにひっかかった枯葉に静止するフジコブヤハズカミキリを初めて見つけたこの場所も、変わり果ててしまった。増えすぎたニホンジカにより、狂い始めた歯車はさらに加速していく。
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鈴をつけず気配を消して歩いていたからか、ほんの少し先で足音が聞こえた。
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ニホンザル
そういえば、ここは行動エリアだったことを思い出す。初めてここまで進出した時もニホンザルの群れに会った。
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秘密のノリウツギ
今年はいままでになく花つきが良かったようだ。また来年、来るとしよう。
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ブナの樹洞
あの虫を狙って、また来年来よう。
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そして、一応晩夏ということで、モミが多く生えているエリアへ行ってみる。以前見た時は良さそうな雰囲気だと思ったのだが、改めて観察してみると、樹液の噴出や新鮮な羽化脱出孔などがまったくない。古い傷跡だけが残り、「旬」を過ぎてしまったポイントのようだ。
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お守りが教えてくれる気温は24℃ (10:50)。まだまだこれから、と思うかもしれないが、樹冠を仰ぎ見ると、空は雲に覆われつつある。どうやら、天気が崩れるようだ。
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それでも、ちょっとだけオオトラ採集のまねごとをしてみる。
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しばらくして、黄色と黒の縞模様が飛んだのが見えた。だが、飛び方が明らかに甲虫ではない。眼だけで追跡すると、地面に舞い降りた。
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オオヒゲナガハナアブ
林道の花掬いでよく見る、常連のハナアブだった。
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太陽が雲に隠れてしまったところで、下山することに。
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いつもの道ではなく、冬に一度だけ通った道へ。
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しばらくすると、冬に予想してた通りにミズナラの樹液を発見。
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チャイロスズメバチ
新たな個体も飛んできたので、巣が近くにあるのかもしれない。
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その根元に咲く、可憐な花。
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ヤマジノホトトギス
なんとも特徴的な形をしているものだ。
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そして、そのそばにはこんなものも落ちていた。
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「ああ、夏が終わってしまった・・・」
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舗装道路に戻ってくる頃には、だいぶ雲行きが怪しくなる。
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秘密のケヤキ御神木には、縞々模様のトラカミキリは見つからなかった。
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昼過ぎに集落に戻ってくる頃には、不思議と穏やかな気持ちになり、前を向いてこれからの人生を歩いていこうという気になってきた。それだけで、今は十分だ。
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今にも降り出しそうな空の下、秋風が吹き始めた集落を後にした。