2010.Nov.2
猛暑の影響で紅葉が遅れ気味とされているが、霜月ともなれば山は一気に色づくもの。奥多摩リアルタイム情報にも秋の便りが届き始めた。
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文化の日は晴れの特異日として知られており、学生時代からこの前後に材採集で訪れることが多かった。今年もまた、魂のかけらが残るこの地で、色づく原生林の中を、独り静かに歩くことにしよう。
夜勤明けで一度帰宅し、荷物を持って電車に乗る。
22時、奥多摩駅に到着。
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今日は夜道を歩かずに体力温存するので、寝る前に蛾像収集へ。
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ポイントに到着。ライトで壁面を照らしながら歩くと、実に多くの鱗翅目が飛来していた。もっとも多いのはナカウスエダシャク、この時期の最優占種。初見のものも含めて実に多様な種類がおり、夢中で撮影していく。
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今晩のお気に入りは、次の3種。
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マエグロシラオビアカガネヨトウ
先日、職場の人工島でも採集していた美麗種。
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キマエキリガ
鋭い剣を2本も装備している、見事な種類。
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ヒメヤママユ
この時期に出現する鱗翅目の中では最大級。毎年見ているが、これを見ると秋の深まりを実感する。
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蛾像収集を終えて荷物を置いた場所に戻り、夜明けを待つ。
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5時半、起床。空が白み始めているのがわかる。
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駅舎の上空には、細い月。蛾像収集の時は闇夜同然だったことがわかる。前の晩は台風で虫が動けなかったことも重なり、数多くの虫が飛来することとなったのだろう。
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6時、始発バスに乗って出発。
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バス停を降りていつもの場所を目指す。
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この時期は、いつもある鱗翅目を探して電柱を見ながら歩く。秋も深まる頃、ひっそりと出現して闇夜を飛び交う大型種。だが、いつも静止しているのは似て非なるヒメヤママユのみ。平地から山地まで生息する、わりと普通に見られるはずなのだが、今年こそはと思いつつ、毎年のように空振りが続いていた。
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探し始めて何年経つだろうか、ようやくその時が来た。
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ウスタビガ♂
翅の色合いは、まさに紅葉が落葉に切り替わる寸前のよう。想像していたよりも一回り小さいのが意外だった。
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翅と触角以外は、フサフサの毛で覆われている。寒い夜を飛び交うため、ヤママユガの仲間でも特に暖かい装備。多少飛び古してはいるが、その良さが変わることはない。
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いつもの谷に到着。トチノキは一足先に落葉し、他の木も様々な程度に色づいている。
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気温は3℃ (7:03)。この時期にしては冷え込んだ方だ。
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いつもの登山口から、原生林へ。
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前回訪れた時に目星をつけておいたミズキ倒木を探すが、場所が思い出せず斜面を徘徊するはめに・・・。
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1時間ほどしてとりあえず諦めて、尾根に出る。また帰りに探すことにして、しばし紅葉散策にふける。
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今年の紅葉は樹種ごとのバラツキが大きい気がするが、緑の要素が加わることで景色がより一層豊かになるので良い。
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同じ木でも段階的な紅葉が見られる。落葉した木が、その美しさを引き立てる。
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赤い絨毯と、緑の倒木。対立するはずの色が、見事に溶け込む空間。
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他にも紹介したい瞬間は無数にあるが、今回はとりあえずここまで。“自分の視界を写し取る”を心がけて写真を撮り続けているものの、空間の美というものを表現するにはまだ技術が足りない。それに、本当の美しさは一緒に歩いてみないとわからないから。
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しばらく歩いて、平坦な場所に到着。以前、ハリギリ平と名付けた場所だ。
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ここでの狙いは、ヤマブドウ。東京都未記録の、あのトラカミキリの寄主植物として有名。ここから15km離れた甲斐国での6年前の経験を思い出しながら、探索開始。
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狙いは、地面に落ちている前年の枯枝。太さは親指くらいのものが良い。
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拾った枝は、ひたすら折っていく。食痕が材の中心部にあれば可能性ありだが、食痕すらない枝が多い。
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樹皮下に走る食痕は、別種のもの。アカネカミキリやアカネトラカミキリが有力候補。
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キクイゾウムシ類が出てくるような材は、ハズレ。
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ほぼすべてのヤマブドウの株下を漁ってみたが、それらしき痕跡すら見当たらず。また来年、もう少し甲斐国に近いところで探してみるしかないか・・・。
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ここまで来たついでに、この時期に旬な微小カミキリムシを探す。
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タンナサワフタギ
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部分枯れのところにビーティングネットを忍ばせ、一撃。
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狙い通り、落ちてきた。
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チビコブカミキリ
Miccolamia verrucosa Bates, 1884
以前、シロチビコブカミキリと呼ばれていたもので、過去文献では和名・学名ともに異なっているという厄介な種類。
過去記録の信頼性の問題もあり、現時点でTKM未認定(≒東京都未記録)。発表すべく準備中。
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ちなみに、根元には来シーズンになるとあのカミキリムシが姿を現しそうだ。
そんなことを想像しながら、獣道をたどって尾根に戻る。
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しばらく登って、かつてスズタケで覆われていた一角に到着。
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尾根から斜面を見下ろすと、ここでも絶景が広がる。このあたりが、今は紅葉の盛りらしい。
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景色を楽しむのもそこそこにして、このエリアの探索を開始。昨年痕跡だけしか見つからなかった、秋のカミキリムシが狙い。
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スズタケ群落なき今、ちょっと狙いを変えることに。今度も、甲斐国での経験をもとに目星をつけていた一角へ。
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クマイチゴ群落
年を追うごとに背丈が高くなり、株の密度が高くなっている。ニホンジカによって滅ぼされたスズタケ群落とは対照的に、まるでニホンジカが他の植物から守っているような印象を受けた。張本人にはそんな意識はまったくないだろうが。
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姿勢を低くして群落の中を見渡すと、枯葉がそこそこついている。狙いのカミキリムシの分布中心地でもそうだったが、これは、絶好の隠れ家になるはずだ。だが、茎や葉にトゲがあってうかつには潜りこめない。
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とりあえず、手前の枯葉から見て行くことにしよう。まずは、この枯葉・・・。
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まさか、最初の1枚で・・・。
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もっと写真を撮りたかったが、無情にも落下。1秒で発見できたので、確保。
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フジコブカミキリ♀
このエリアで見た個体の中では最大。ここでは3年ぶりの再会となる。亜高山帯のあたりではまだ健在ということは把握してたが、ここでもまだ生き残っていてくれて、本当に良かった。
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この後、追加を狙って群落内部に突入したが、食痕すら見つけることはできなかった。とりあえず、生き残りを確認できただけで良しとしよう。
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初めてフジコブを見つけたポイントは、下草が生え始めていた。この中で残るのは、イケマくらいなのだろう。
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ふとハリギリの葉を拾うと、そこには食痕があった。フジコブの生き残り個体は、このあたりも徘徊していることを知る。その子孫たちに、またいつか会えることを期待して、さらに標高を上げていく。
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ミズナラの巨木
3年前のあの夏、ミズナラの精に出会った場所だ。
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カンバ類の林
ここまで登って来るのも、ほぼ3年ぶりだ。他の樹種はまだ紅葉しているとはいえ、すでに落葉して白い幹が林立する姿に少し物悲しさを覚える。
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気温は約10℃。今はお守りの役目はないが、本来の機能は健在。
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ここで、ひとまず昼食にする。木々の間から紅葉に彩られた周囲の山肌を眺め、鮮やかな紅葉と渋い落葉に包まれ、風の音を聞く。
「若くして最高の贅沢を知ってしまった」と以前言われたことがあるが、今の自分には、その意味がまだよくわからない。
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昼食後は、広葉樹林の宝石探し。山が凍結する寸前の今が、もっとも適した時期。数種類いるうち、せっかくなので関東地方限定種に狙いを絞る。
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通常は、このような細い立ち枯れに潜っている。
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産卵マークを発見。やや新しいので幼虫の可能性が高いが、一応削る。
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やはり、幼虫だった。飼育のため、材を少し削って持ち帰る。
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その後、細い立ち枯れを見つけては削ってみるが、なかなか成虫が出てこない。乾燥が厳しい尾根筋では、食痕が途中で消えることも多い。撮影よりも採集に専念し、斜面を徘徊する。
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やがて、抜群の感触を持つ材を発見。適度な湿り気があり、新鮮な食痕が走る。
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それは、リョウブの立ち枯れ。表面は硬いが、一面だけほどよく朽ちた面があった。
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そして、待望の成虫が出現。
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ホソツヤルリクワガタ♂
ルリクワガタよりも若干細身で、光沢が強い。これも3年ぶりの再会となる。
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続いて、オスがもう1匹見つかる。メスも採りたいのでさらに割っていくが、死骸が1つ出てきただけ。追加個体もオスが1匹と、食痕の割にはおもわしくない結果。これは、もしかすると・・・・。
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コメツキムシの一種(幼虫)
やはり、かなり食われた後だったか。
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気がつくとだいぶ時間が過ぎていたので、そろそろ下山することにしよう。
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あまり知られてない展望ポイントで、一休み。昨年に比べると鮮やかさはやや劣るが、はるか遠くまで、木々の1本1本が見えるこの時期の眺めは格別だ。
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ここで、やはり今が旬の微小カミキリムシを探すも不発。これも東京都未記録なのだが、採集例は存在する。特定の樹種との関係が深いとされるが、また来年に持ち越し。
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かわりに、その近縁種を狙ってキブシを叩く。
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狙い通り、落ちてきた。
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ヘリグロチビコブカミキリ
Miccolamia takakuwai Hasegawa et N.Ohbayashi, 2001
平地にも分布する、里山の普通種。さきほどのチビコブカミキリと同様、過去文献では和名・学名とも異なる。そのため、ごく最近までTKM未認定種(≒東京都未記録種)だった。
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登山口に戻る途中、例のミズキ倒木の場所を思い出し、斜面にとりついてその場所まで移動。
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これが、その倒木。晩夏に倒れたらしい。
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9月には青々とした葉が無数についていて期待してたのだが、今はもう枯枝が残るだけ。
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このエリアでは大好物のひとつとなる枯葉も、地面に落ちてしまってはもはや魅力がない。来るのがあと2週間早ければ・・・。
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それでも、まだ近くにいるはず。巻き添えになった木の下へ叩き網を忍ばせる。
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イワワキセダカコブヤハズカミキリ♂
小型の個体が居残っていた。昨年出会ったエリアとはつながっており、この斜面を広く歩き回っているに違いない。
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同じ日にフジコブとセダカを同時採集するのは、これが初。両種とも初めての出会いから4年が経ち、生息環境は決して良くなくて数は多くないけど、探せば出会える存在ということがわかった。
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楽しい山歩きを終え、奥多摩の神様に感謝をしつつ、バス停へと急ぐ。平日だけの特典として集落の外れまで来てくれるのも、これが最終便。普通の人には見えないものを見てきたという満足感とともに、この地を後にした。