2010.Dec.20
スカシバガ類の特徴のひとつは、幼虫が生きた植物の内部で成長すること。樹皮下、細枝、蔓の内部、果実の中と、種によって穿孔部位は異なり、虫エイ形成や虫糞排出が見られるものや、そのような穿孔サインを全く現さないものもいる。外敵から逃れて十分成長することができた幼虫は、そのまま繭を作って蛹になる。そして、時が来ると蛹は繭を突き破って下界に身を乗り出し、羽化が始まる。
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しかし、老熟幼虫が植物から脱出して、別の場所で蛹化する種類もいる。日本産スカシバガ科42種(亜種除く)では、現在までに3種が知られている。
オオモモブトスカシバ シタキモモブトスカシバ クビアカスカシバ
いずれも、幼虫は秋に寄主植物の根元の土中に潜って土繭を作り、幼虫のまま越冬して翌年の初夏に蛹化、そして羽化する。
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このような日本産スカシバガ類の中でも例外的な生態は、冬季の寄主植物枯死、南方系ゆえの耐寒性の低さといった問題をなんとか解決するための生存戦略なのだろう。たとえ、モグラによる捕食圧という大きなリスクを負ってでも。
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ということで、競争相手がいなければ春先まで待っていても大丈夫だが、モグラが生息する場所での土繭探索は、晩秋から年末までが勝負。上京したついでに、実家近くの毎年必ず発生するエリアでオオモモブトスカシバを狙ってみることにした。
向かった先は、近所の畑。
無農薬・有機農法をかなり昔から続けている農家であり、農地の周囲の植生が豊かで、生物多様性もかなり高い。奥にある木の茂みにはミツバチの巣箱が設置されており、これからの時期は野外で見られる個体数はかなり少なくなるが、農地の周囲に植えられたウメが咲く頃には多数の個体が乱れ飛ぶ。・
そのウメの木、いつの頃からかキカラスウリが巻きつくようになり、たまに行われる草刈りを逃れた株は年々大きく生長するようになった。
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そんな太い蔓を、オオモモブトスカシバは見逃さない。
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盛夏の頃に蔓の根元に次々と産卵し、孵化した幼虫は太い蔓に難なく穿孔して、地下の塊根に向けて送られてくる養分のおかげで急成長を遂げる。幼虫が集中する根際には虫エイが形成され、異様な姿となる。そして、冬の足音が聞こえ、地上部が枯れ始める前に、幼虫は虫エイから脱出し、地面に潜って土繭を作る。
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幼虫が潜る場所は、根元のすぐ近く。歩き回ることは外敵に襲われるリスクを高めるだけなのだ。そして、土繭があるのも土中のごく浅い部分に限られる。羽化の際に土繭を脱出した蛹が地上にたどり着けないと、そこで全てが終わってしまうからだ。そんなことを念頭に置きながら、根元の土を丁寧にかきわけていく。
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掘り始めて30秒、それらしきものを見つけた。
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大きさはこのくらい。シタキモモブトスカシバだと、もう少し小型。弾力性があり、軽く押しても潰れることはない。これだけで間違いはないのだが、画像では伝わらないので、ちょっと開けてみよう。
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オオモモブトスカシバ幼虫
羽化の際に蛹が脱出できるよう、継ぎ目部分が薄く作られている。
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こんな感じで、次々と発掘を進めていく。
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本日の成果。探索範囲は30cm四方、所要時間は約10分。大きさからみて、すべてオオモモブトスカシバのもの。
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あとは、乾燥に注意して春まで保管すれば、マルハナバチ似のスカシバガが次々と羽化してくるはず。