古戦場と伐採地

2010.May 15

移りゆく季節を追いかけて山に登りたい季節になったが、新天地に適応してきて余裕が少しずつ出てきているとはいえ、本格的な登山をするには、まだまだ体力が足りない。研究室時代はこの時期に「圃場試験」「野外調査」で採集に出られなかった代わりに、酷使された体は生き残るためにその限界をどんどん引き上げ、夏の奥多摩探索までには万全の態勢になっていたのが懐かしい。

とにかく、休日に動き続けて体力を少しでも上げつつ、心のバランスを取ることができる場所はどこかないかと探した結果、歴史的にも、関西の甲虫界でも有名な某山へ行くことに。とりあえず行けば何かが採れるはずだが、果たして・・・。


朝、条件反射で出勤時と同じホームに降りてしまい電車を1本逃したが、朝9時過ぎ、登山口のすぐ近くの駅に到着。

5分ほど歩くと、登山口。

坂道を淡々と登っていく。

しばらくして、明るいところに出る。ここが事前に聞いていた場所のようだ。

展望を得るために斜面を伐採したところ。淀川が悠然と流れ、大阪の街が遠くに見える。

材はコナラが中心で、状態も良さそう。

日が高くなって、もっと暑くなってから訪れることにしよう。

中高年ハイカーが多い中を登っていく。登山道の脇ではツツジが見頃を迎えていた。

突如として現れる、古戦場の絵図。

教科書でしか知らなかった歴史の舞台が、眼下に広がる。

手入れがなされている竹林を抜けていく。

山頂に到着(10:18)。意外と近かった。

第2の伐採地を見つけ、探索開始。一応、この山で有名な巨大タマムシが狙い。

斜面を降りて材をじっくり見ていくが、虫影は驚くほど少ない。ハチやハエは少し飛んでるが、甲虫の姿は皆無。時間帯がまだ早いこともあるが、それにしても静かすぎる。


ナナフシの一種の幼虫

ちぎれた左後脚は、成虫になるまでには再生するだろう。

40分ほど探索するが、何も成果は得られない。最初の伐採地まで戻ろうと移動を始めたその時、青い影が飛んだのを周辺視野は見逃さなかった。

15mくらい先でも、その姿ははっきりと捉えられる。

18倍ズーム+トリミング

長竿に網を取りつけ、慎重に近寄る。


ハンミョウ

ハンミョウ科を代表する種で、いつ見ても美しい。実は、意外と縁がない虫のひとつでもあるので、確保。

ここで粘ろうかとも一瞬考えたが、予定通り最初の伐採地へ戻る。到着直前、甲虫サロンでおなじみのSさんに遭遇。採集スタイルは初めて拝見、甲虫屋さんの完全装備であった。狙いの虫のことを尋ねると、まだ早いとのこと。

「今年はまだ寒いからね~」

そうなのか・・・。

それでも、せっかく来たので探索開始。

初夏の日差しが照りつける中で斜面を徘徊し、伐採木をじっと見つめていくと、先ほどの場所よりは虫が見つかる。


ゴマフカミキリ

伐採地でおなじみの渋い種類。「胡麻斑」は、アザラシと同じ。でも、よくよく考えてみるとゴマダラカミキリも同じ漢字。


シラケトラカミキリ

これもコナラの伐採地でおなじみのトラカミキリ。よく見るとフサフサの「白毛」があちこちに生えている。


キイロトラカミキリ

立ち枯れに飛来したところを撮影。これも平地の伐採地でおなじみ。


ムラサキシジミ

寄主植物のカシ類が多いので、個体数も多いのだろう。

運よく翅を開いてくれた。飛び古してはいるが、やはり綺麗だ。

そして、一番の成果はこのヘビ。伐採枝の下で5、6匹ほどのクロオオアリに食いつかれてたのを発見。


タカチホヘビ

見慣れない種類だと思って帰宅後に調べたら、どうもこれらしい。

頭部がホログラムのように青く輝いてて美しい。

かつては「幻のヘビ」とも呼ばれていたくらい、人目につきにくいらしい。かなり衰弱してたので生き延びる可能性は極めて低いだろうが、採集するわけにもいかないので木陰に安置しておいた。

12時半、昼食。

木陰でしばらく休憩してから、探索再開。


ツマグロハナカミキリ

午前中はカシ類の花を訪れてたらしく、頭部に黄色い花粉がついていた。


フタトゲナガシンクイ

動きが素早いため、ブレてしまった。


ヒメクロトラカミキリ

そういえば、材上で見つけるのは久しぶりになる。

あまり成果がおもわしくなかったので、林縁で少しだけビーティング。


ツバキシギゾウムシ♂

日本産シギゾウムシ類で最長の口吻を持つ。叩いたところはヤブツバキの幼木が混ざっていた。♀はさらに長い。


トビサルハムシ

クヌギ、コナラの葉に集まる。ハムシの中では好きな種類で、いるとついつい採集してしまう。

ここでも甲虫の種類は少なく、クモが多い。ビーティングという地道な採集法の側面がよくわかる結果となった。だんだん疲れてきたところで粘っても仕方がないと感じたので、まだ日が高いうちに早々と帰途についた。


関西の甲虫界で有名な場所ということで、行けばなんとかなると甘く見ていた。既採集種を有名産地で探す際のジンクスが働いたのかもしれないが、季節推移を確実に読むことは、なかなか難しい。それでも、伐採地でお馴染みの顔ぶれに出会うことができたことだし、軽い山登りをしながら新緑を満喫できたので良しとしよう。

帰りに、ちょっとだけ寄り道。いつもなら確実に心が痛んだことだろう。

新緑に包まれた爽やかな庭園が印象的だった。

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