阿波国のルリクワガタ再挑戦

2010.Nov.20

一気に訪れた冬の足音ではあるが、山が白くなるにはまだ早い。冬場の採集では、すべてが凍りついた世界で単なる修行になることも多い。気温は下がるが材や地面はまだ凍結しない晩秋のこの時期が、山地の冬季採集に最適ということは虫屋の多くが実感するところ。

今回の狙いは、シコクコルリクワガタの♂昨年の阿波国遠征で、唯一見つけることができなかったものだ。その「黒味を帯びた異端児」というイメージに憧れを抱きつつ、河内国から昆研後輩のペプチドグリカンA氏を招集して、10ヶ月ぶりに阿波国へ。


摂津国で合流し、バスに乗ったのが6時半頃。うたた寝をしながら体力回復に努め、阿波国の地を踏んだのが9時頃。そこからレンタカーを運転し、昨年と同じ登山口についたのが、11時50分。通行止めによる迂回さえなければ、もっと早く到着したのに・・・。


林道から見る景色

気温は低いが、まだ凍結するほどの寒さではない。

さて、今回も日帰り採集のため、残された採集時間は、わずか3時間。帰りのバスに間に合わせるため、15時には出発しなければならないのだ。

身支度を整え、時間配分を決定する。前半は、高標高地でシコクニセコルリクワガタとツノクロツヤムシ。一度昼食のため車に戻ってきて、後半は低標高地でシコクコルリクワガタ。

ということで、登山道を探しながら谷を遡上する。

昨年と同じ谷へ。地形の関係で片面だけ日が当たるのがポイント(だと思っている)。ここで、ナタを取り出して探索開始。

良さそうな材を見つけては、歩み寄る。

産卵マークを確認。

半分埋もれた材も見逃さないこと。

裏返すと、産卵マークが見つかることが多い。

こんな感じで斜面を徘徊しながら、良さそうな朽木を削っていく。しかし、出てくるのは幼虫ばかり。まだまだ勘が足りないということか・・・。

しばし撮影よりも採集に夢中になっていると、なにやら良い感触の材を発見。坑道に詰まった糞の感じが、期待を高める。

そして、成虫が出現。


シコクニセコルリクワガタ♂

昨年見たのと同じ、この青緑色の輝き。冬枯れの山中では、ひときわ美しく見える。今回の狙いではないが、とりあえず採れてひと安心。

続いて、この朽木。

裏返すと、産卵マークが見つかる。

そして、成虫が出現。腹面全体が黒いので、瞬時に同定できた。


ルリクワガタ♀

漆黒で立派な体格で、久々に見ることを差し引いてもやはり良い虫だ。立ち枯れや太い倒木に穿孔するというイメージが強いが、腕くらいの太さの朽木でも入っていることはよくあること。

一方、ペプチドグリカンA氏は久々のルリクワ採集に苦戦気味。採集済みの個体を譲ろうとしたものの、

「いや、最初の1匹は自分で採ります」

その心意気と、学生時代から見ている採集センスなら、大丈夫なはず。

そして、しばらくすると歓声があがった。


ルリクワガタ♂

「とりあえずnullは免れた・・・」

この後、特に追加個体を得ることもなく、時間だけが過ぎていく。これ以上谷を詰めることは止めて、引き返しながら材を削ることにする。

早く低標高地を攻めたい私が先行して谷を降りて行くが、そういう時に限って何も見つからないもの。そして、背後でペプチドグリカンA氏が歓声を上げた・・・。


ツノクロツヤムシ

実は、ペプチドグリカンA氏を招集する際に「採れるよ」と告げていた虫。西日本限定で分布し、その特異な姿形もさることながら、幼虫と成虫が同じ材の中で同居するという、変わった習性を持つ。

「あ~、やっぱ良い虫だ~」

学生時代と変わらぬセンスに触発されて、私も勘を頼りに周囲の倒木にナタを振り下ろす。

これは、当たりかも。

4個体がまとまっていた。ペプチドグリカンA氏を呼んで、状況を見てもらう。昨年もこの谷で採っていたので、これで運気が上がるかも。

そして、ペプチドグリカンA氏がすかさず倒木の別の部分を物色。

「ハイエナ採集」という、第一発見者が放棄した物件を削る採集法である。

(あくまでも、発見者がそれ以上の探索を放棄したものということが重要ポイント)

実際に虫が得られた材の腐朽状態や食痕を実際に確認することになるので、採集技術を習得する上ではもっとも良い方法のひとつであり、この用語を昆研現役時代に発案・確立させたのも彼である。

ただ、目的の虫がすぐ得られるとは限らない。

甲虫を期待していて出現すると、かなり意欲減退・・・。

しかし、最終的にはツノクロツヤムシを発見。これぞ、ハイエナ採集の醍醐味。

だいぶ時間が押してきたので、このあたりで前半戦は終了。車に戻り、昼食を急いで取って後半戦に備える。

14時、探索再開。林道のすぐそばの斜面に取りつき、材を探す。昨年、シコクコルリクワガタ♀を得ている場所のすぐ近くだ。

昨年削った材も一部覚えていて、ちょっと物色。

裏返すと、新たな産卵マークもついていた。

そして、幼虫が出現。シコクコルリの可能性に賭けて、材をノコギリで切断してキープ。

別の材。ちょっと古めなので期待が高まる。

いい感じの糞も詰まっている。

だが、出てくるのは幼虫。

途中、斜面に点々と生えているタンナサワフタギが気になり始める。

「まだ材採集には早いですよ~」とペプチドグリカンA氏は言うが、見えてないところでこっそり部分枯れを探して材採集。

「こんなことではシコクコルリは見つからない!」と思い直して、タンナサワフタギの根元にあった朽木に目を移す。

一応、産卵マーク。さて、どうだろうか・・・。

人生、何事もそううまくいくものではない・・・。

そして、刻一刻と時間が無くなっていく中、何も追加が得られなくなる。

終了30分前、今度は魅力的な崖を見つけてしまう。登山道から少し下ったところにあるので、良いだろう。鍬を取り出し、絡みつく根をほぐしながら掘っていく。


ミヤマヒサゴゴミムシ

非常に面白い形をしたゴミムシが、わずか2匹出てきただけ。どうも、焦るとオサ掘りセンスの無さが全面に出てしまう・・・。

この時点で、残り10分。ああ、後輩と思い切り採集に没頭できただけでも、良しとしよう・・・。そんな弱気になりながら、車へ戻るべく斜面を進む。途中、まるで杖のように斜面に立てかけてある細長い朽木が目に留まった。これまでなら素通りするが、なぜか気になって手に取り、登山道まで戻る。

よく見ると、ルリクワ材としてかなり良い状態ではないか。とはいえ、これまで幼虫しか出てこなかったのだから、これも幼虫しか出てこないだろう・・・。そんな、軽い気持ちで崩してみると・・・、

成虫が出てきた。しかも、なんだか小さい。

これは、もしかして・・・、


シコクコルリクワガタ♂

この、黒味がかった渋い輝き。1年越しで、ようやく見つけることができた。これが見たくて、わざわざ阿波国まで日帰りで来たのだ。

さらに、蛹室のすぐそばを崩すと、もう1匹。

これも、同じように渋い輝きを放っている。天敵のコメツキムシにも見つからず、無事に成虫になったようだ。ペプチドグリカンA氏も呼んで、状況を見てもらう。

この後、材を解体し尽くして、さらに1♂を追加したところでタイムアップ。二人揃って、車へと戻る。

「なんで、いつも最後に採るんですか?しかも、今回は時間制限が厳しいのに・・・」by ペプチドグリカンA

とりあえず、山が白く覆われる前に雪辱は果たせた。今は、それだけで満足だ。バスの出発時間に間に合わせるため、日が傾いて冷え込んできた林道を後にした。

帰り道、それぞれ自分用の土産を物色。阿波国の名物にはこんなものもあるらしい。展示の鉢植えに湧くコナジラミを見つけて一緒に盛り上がるなど、楽しい休日を共に過ごしてくれた後輩に感謝いたします。

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