2011.Oct.17
澄み切った青空が広がり、過ごしやすい日々が目立つ今日この頃。山の木々がだんだんと色づき、秋の気配が日に日に色濃くなる中、倒木の樹皮下にできた蛹室からひっそりと野外へ姿を現し、好物の枯葉を求めて森の中を歩き回るコブヤハズカミキリ類。その後を追って、カミキリ屋さんは各地の森をさまよう。
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生態未知で幻と呼ばれた時代に終焉を告げ、現在でも広く行われている採集方法、それはコブ叩き。
潜んでいそうな枯葉つき枯枝をここぞとばかりに棒で一撃、白布の上に落ちてじっとしているその姿に、満面の笑みを浮かべる人が多い。下手な鉄砲も数打てば当たるということで、多産地では非常に楽しい採集である。
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もし、叩き網を一切使わないとしたら、どうなるのだろうか。初心者向けのお手軽採集から一変して、虫屋としての真の能力が問われる高度な採集に。カミキリ屋としてレベルアップするためにも、避けて通れない道である。
自らの感覚を研ぎ澄まし、森の中に分け入って探してみることで、コブヤハズの世界を、より深く知ることにもつながることだろう。
朝8時、和泉国を出発してお隣の河内国へ。電車とバスを乗り継ぎ、昨年オサムシ採集をした場所を目指す。
叩き網の枠を自宅に忘れてきたことに気づくが、もともと生態写真を撮るのが一番の目的だったので慌てることはない。「ここにはいない」という自分の感覚が正しいかどうか、答え合わせができないだけだ。
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9時50分、登山口を目指して歩き出す。甲虫屋の習性として、側溝の中を目で追いながら進んで行く。
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ホオノキの枯葉
日本最大の花を咲かせることで有名だが、その葉も最大級。森の中にもこの白く目立つ葉があちこちに落ちていることだろう。
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クリの残骸
中身は獣に食べられたらしく、ほとんど残っていない。秋の味覚として有名だが、山の生き物にとってもごちそうである。
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アケビの残骸
この時期の山の幸の中で、もっとも甘いもののひとつ。スーパーで稀に売っているのを見かけるが、山に行けば見る機会も多い。
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登山口まであと半分ほどとなったところで、前方に黒い影を発見。
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イワワキオサムシ
夢中になってミミズを食べている。時期も虫も違うが、昨年もこの位置で同じ光景を見た。ちょうど匂いにつられて集まりやすい立地なのだろう。
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精悍な顔つきで、撮影にも全く動じることがない。なんとか納得いく写真が撮れたところで、登山口へと歩き始める。
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もっとオサムシがいないかと、側溝チェックを入念にしていくが、二匹目のドジョウはなかなか出現しない。
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クロナガオサムシ
登山口のすぐ近くで、ようやく2匹目が出現。ずぶぬれのまま、エサを求めて去っていった。
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舗装道路から林に入り、登山道を歩く。
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川沿いに進み、何度も流れを横切る。
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石の状態を見極めて、一気に駆け抜ける。
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しばらくは植林が続くが、やがて右手に広葉樹林が見えてくる。
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昨年、セダカ幼虫を削り出した倒木へ到達。
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びっしりとキノコが生えていた。
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幼虫がいたのだから、このあたりが生息エリアであることは確実。まずは、セダカの生息環境をイメージして、条件に合う場所を探し当てよう。
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一旦、植林の中の小道に戻って斜面を登る。ここからゆっくり前に進みながら、左手の広葉樹林を眺める。
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もう少し先にある広葉樹林で探索を始めようと思っていたのだが、植林との境目の、ある一角を見た瞬間に何かを感じ、道を外れて斜面を登る。
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この場所に、なぜ引き付けられたのか。その理由はよくわからないが、ひとまず自分の感覚を信じて探してみよう。
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ちょうどアオキが1本生えており、枯葉も適度についている。まずはここから。
葉は適度に丸まっているようだが、乾燥しきっていることが触らずともわかる。
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たとえ今は魅力がない物件であったとしても、適度な枯れ具合の時にセダカがかじっているかもしれない。振動を与えないようにして、慎重に見てまわる。
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健全な葉はまずなく、必ず何かの食痕がついている。切り口から見て、これは青い時のものだろう。
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他の葉もことごとく別の虫の食痕がついていたが、ひとつだけ、明らかにセダカのものとわかる食痕があった。
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葉脈に沿って軽く食べただけで、わりと新しい。
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少なくとも、この葉にセダカが存在していたことは間違いないようだ。では、今はどこへ行ってしまったのだろうか。
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アオキの株全体を見渡し、枝がどこに伸びているかを確認。きっと、枝づたいにどこかへ歩いていったはずだ。
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枝のひとつはスギの幼木に向かって伸びていき、その先には一枚の大きな葉。
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ほとんど無意識のうちに、手を伸ばす。
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セダカの食痕
これも、真新しい。樹種はおそらくホオノキ。まるで、ついさっきまでかじっていたかのようだ・・・・。
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次の瞬間
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イワワキセダカコブヤハズカミキリ♀
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記念すべきタイプローカリティー(模式産地)の個体。野外で見つけるのはこれが初めて。なかなかのサイズだ。
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リュックを置いて、この場所を重点的に探すことに決定。できれば、♂を見つけて累代飼育を狙いたいところ。
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すぐに、地面に優良物件を発見。奥多摩のいつもの場所ではきっとセダカやフジコブが潜んでいるが、先ほどの状況からして、この位置にはまだセダカはいない。
経験上、同じエリアでは同じような高さにいることが多く、この森の環境では地面からちょっと離れた方が良いように感じる。湿度、風通し、その他の理由によって。
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そんな条件に当てはまる枯葉は、上から降ってくるしかない。数種類の枯葉を確認した結果、やはりこの場所ではホオノキがもっとも良さそう。樹冠を見上げ、ホオノキの大きな葉を目印にして、その付近をこまめに探す。
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しばらくして、条件に合致する場所を発見。灌木にホオノキの枯葉が数枚ひっかかっている。
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その中の、もっとも良さそうな葉からチェック。
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ギザギザの食痕、これはセダカに間違いない。これも真新しい・・・。
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と、その時・・・・・
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イワワキセダカコブヤハズカミキリ♂
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今度は生態写真を撮れる状態で見つけることができた。幼虫採集でもすべて♀として羽化したので、♂は初めて。
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反対側に回り込んで撮影。体は枯葉でうまく隠せても、長く伸びた触角は完全に見えている。
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薄暗い林床で、何回もシャッターを切る。
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やがて、気配に気づいて落下。
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わりと小さめの個体であった。
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この後、さらに追加を狙って探すものの、食痕すら見つからない。
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植林との境界には伐採枝が放置されていたが、
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タイミングが合わなかったからか、枯葉の状態は良くない。このエリアではホオノキに勝る物件はないようだ。
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探索しているうちに、樹冠から垂れ下がる枯蔓と眼が合った。
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ナナフシの一種
死してなお、見事な擬態を続けていた。
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とりあえず1ペア見つけることができてひと安心。一ヶ所で多数の個体を採るのもよくないと思い、先へ進むことにする。
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植林の中の登山道に戻って、標高を少しずつ上げていく。昨年トラップ設置で訪れた場所を通り過ぎ、さらに登っていく。
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すると、いつの間にか道が消える。引き返すわけにもいかないので、谷底から尾根へ向かって斜めに登る。
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なんとか尾根に出て、テープを目印に稜線を目指す。
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無事にダイヤモンドトレールに合流。ここから先は、平坦な尾根歩き。
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植林の中を進むと、突如として視界が開ける。両脇でススキがたなびく階段を、ゆっくりと登っていく。
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ハタケヤマヒゲボソムシヒキ♀
道端の灌木に静止していた。秋に出現するムシヒキアブの仲間。
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ハタケヤマヒゲボソムシヒキ♂
♀よりも一回り小さい。
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ハバヤマボクチ
ススキの草原の中に点々と生える、巨大な花の残骸。
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ふと振り返ると、ススキの向こうに青々とした山並みが広がる。
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13時、広場に到着。平日にも関わらず親子連れを含めて数組のグループが来ていた。
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西を見れば、銀と緑の二色の山肌。
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北を見れば、河内国の市街地が広がる。
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ベンチに座って、オオカマキリとともに昼食。
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13時20分、再び出発。山頂を通って帰ることにする。
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山頂897.7m
三角点があり、ちょっとだけ開けている。
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山頂を過ぎてしばらく歩くと、階段が出現。ゆっくりと下っていく。
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途中、足元で耳慣れない鳴き声が聞こえ、足を止める。音を頼りに位置を特定し、カメラを向ける。
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ヒロバネヒナバッタ
奥多摩の林道で見て以来、久しぶりだ。
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公衆トイレに温度計があったのでチェック。13時30分現在、15℃。じっとしていると肌寒いが、登山には快適な気温。
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しばらく歩いて稜線から外れ、下山路へ。植林の中を淡々と下っていく。
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しばらくして、広葉樹林と接する場所へ出る。環境としてはまあまあ良いので、ホオノキ枯葉の落下がないか目を凝らす。
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アオキの枝に引っかかっていた1枚の枯葉。かすかな食痕は、おそらくセダカのもの。
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慎重に手に取って開いてみるが、あいにく中には何もいない。
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これも食痕は真新しいので、ほんの数日前までここにセダカがいたのだろう。道沿いで叩きやすいところにあったし、他の採集者の網に落ちてしまったのか、環境の変化にいち早く感づいて引っ越ししてしまったのか、あるいは今もすぐそばにいたけど気づかず落下させてしまったのか。
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まだ付近にいることを信じてアオキの株を探してみるが、あまりにも枯葉が多い。そのほとんどがアオキの枯葉で、どれもパリパリに乾いていて条件が悪く、ホオノキの枯葉は1枚も見つからない。
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斜面を登る脚力はすでに無く、仕方なく下山することにする。少なくとも、このエリアにもセダカがいることが確認できただけで良しとしよう。
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舗装道路に戻り、バス停までの道のりを延々と歩く。ただ歩くだけではつまらないので、道端の秋を写しながら。
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ヤマニガナ
道路脇の斜面に点々と咲く。
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野菊の仲間
ノコンギクか、ヨメナか、別の種類か。あちこちで白い花を咲かせていた。
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イタドリ
たわわに実をつけ、葉も黄色く色づいていた。
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バスに乗って、17時に河内長野駅に到着。程よい脚の疲れとともに、帰途についた。
しばらく採集から遠ざかっていて感覚が鈍っていることを心配していたが、無事にセダカを見つけ出すことができて良かった。持ち帰ったペアはうまく越冬させて、来年の初夏には累代飼育に挑戦してみたい。