里の景色と秋の空

2011.Oct.21

夏の暑さを引きずって10月下旬にしては暖かい日が続いているが、秋は確実に深まってきている今日この頃。先日の和歌山日帰り旅行で高原の季節はしっかりわかったので、今度は里の季節はどのくらい進んでいるのか確かめてみたくなった。来シーズンの下見も兼ねて、地図で目星をつけた貝塚市の里山へ。


午前11時、水間鉄道の終点に降り立つ。格調高い駅舎の背後に秋らしい澄み渡った青空が広がる。

目星をつけた里山へ向かって歩き始める。しばらくすると、のどかな農村風景が広がる。

20分ほど歩いて、目的地に到着。この道から小規模な谷戸へ。

この道をまっすぐ進めば、目的の谷戸に到着する。さて、このあたりから来シーズンに向けてポイントを物色することにしよう。

まずは、このイチジクの木。


キボシカミキリ♂

発生のピークはとっくに過ぎているが、まだ生き残っている個体がいる。


触角が欠けた♂

他個体との闘争があったようだ。


上翅の斑紋が剥げた♀

子孫を残すことに専念しているらしく、近くには産卵痕が見られた。

幹の観察に続いて、果実に眼を移す。


シラホシハナムグリ

食事に夢中で逃げる気配はまったくない。


シロテンハナムグリ

こちらは頭部を突っ込んでいないので、不用意に近付くと警戒する。


オオスズメバチ♂

ちょっと高すぎて手が届かず、採集は断念。

他にめぼしい虫はいなかったので、道を挟んで反対側の池を見てみる。

水面を覆い尽くしているのはヒシの一種。

水面を覗きこむと、無数のツチガエルが一斉に葉の上から飛び跳ねた。時期が良ければ水生昆虫も期待できるだろうか。次回、網を持ってきて掬ってみることにして、先へ進むことにする。

少し歩いて、目的の谷戸に到着。刈り取った後の稲わらを干している、昔ながらの光景。

小さな谷だが、地図上では奥にはため池がある。道端で動くものを観察しつつ、歩いていく。


ムラサキシジミ

羽化したばかりのようで、弱々しく動いていた。


ツチイナゴ

バッタ類の中では珍しく成虫で越冬する種類。

そして、ため池に到着。密かに狙っている某水生昆虫が住めるかどうか、水面を覗きこむ。

これでは、生息は絶望的・・・・。

さらに歩くと、道は林の中へ。このままぐるっと谷の反対側へ出られると思い、ゆっくり進んで行く。

十歩ほど歩いた頃だろうか、急にスズメバチが体にまとわりつく。通常は何もしなければ立ち去ってくれるはずだが、一向に離れる気配はない。やがて右手にまとわりついてきたので、右腕を動かしてそっと振り払う。

その瞬間だった。あるものが視界に入ってきて、体が凍りついた・・・。

落葉に覆われた路面に、不自然にできた土盛り。
(後で撮影したもの)

その一角から、一度に数匹が姿を現した。そう、巣の入り口から約1mのところに足を踏み込んでしまったのだ。

こういう時に、恐怖で逃げてしまうのが一番危ない。さきほど振り払った個体が興奮しているはずなので、応援を呼ばれて袋叩きにされるだけ。即座に石のように固まり、カメラを向けつつ状況を分析する。

巣穴から出てきた個体はこちらに飛んでくる気配はない。どうも、様子をうかがっているように見える。つまり、まだ私は外敵と認識されていないらしい。

噴出する脂汗を我慢して、このまま石になりきって様子をうかがう。

すると、ほんの数分で巣穴から出てきた個体は飛び去ってしまった。ちょっと余裕が出てきたところで、滅多にない機会なので、カメラを動かしてズームしたりしながら巣穴を撮影。

巣穴から顔を出して様子をうかがう個体。

異常がないことを確認してから、離陸。

出発する個体と、帰還する個体の遭遇。

撮影で気を紛らわしつつ、巣穴周辺にハチが1匹もいなくなる隙をうかがう。

その瞬間は意外と早く訪れた。視界にハチがいないことを瞬時に把握し、まず一歩、巣から遠ざかる。まだ視界にはハチの姿がないことを確認して、また一歩。そして、ゆっくりと歩き始める。

凍りついた瞬間から5分、ようやく緊張から解放。相方を悲しませることにならなくて良かった・・・。

谷の反対側へ歩いて出られるかと思ったが、道は山の方へ伸びているようだ。仕方ないので、植林を下って谷へと戻る。


谷の反対側からの眺め

和泉葛城山などの山々が見渡せる。中央に見えるため池の様子を確認するため、斜面を下る。

ため池にたどりつく直前、細い草が帯状に生えているのに気づく。種類はわからないが、この植物があるということは水路か湿地がある証拠。

近寄ってみると、用水路があった。水質はかなり良いので、何かいないか覗きこんでみる。

水の中から視線を送る生き物がいる。


スジエビ

野外でエビを見る経験がほとんどなかったので、とても感激。これなら、水生昆虫も期待できるかもしれない。

一方、ため池の方は濁っていてあまり期待できる雰囲気ではなかった・・・。

来た道に戻るのは面倒なので、あぜ道沿いに歩いていくことにする。一歩踏み出すたびに、いろんな昆虫が驚いて飛び跳ねていく。


ショウリョウバッタモドキ♀

やや湿った草地に生息する、色褪せたイネ科植物になりきる名人。


クルマバッタ♀

枯草が混じる場所に見事に溶け込んでいる。

さらに、水田の脇に気配を感じて視線を落とす。

小さなカメが歩いていた。


クサガメ幼体

ここまで小さい個体は初めて見る。警戒心が強く、しばらく待ってようやく顔を出してくれた。

撮影後、元の場所に戻すと一目散に泥の中へ。これから長い冬を無事に乗り越えることができるだろうか。

さらに歩いて、もうひとつのさらに小規模な谷戸へ到着。だいぶ時間も経ってしまったので、このあたりで下見を終わりにしよう。

アベマキの幹にみられるシロスジカミキリ幼虫の食痕。来年は樹液の泉が出現してくれると面白いポイントになる。

さらに、谷の奥へ。

樹液が出た痕跡があるアベマキ。この谷戸は樹液採集を目的に訪れると良いかもしれない。

そろそろ帰ろうと思った時、足元で何か動いたので視線を落としてみる。

見慣れない、緑色の小型のカマキリ。これは、もしかして・・・・。

前脚の内側には2つの黒色紋がある。ということは、なかなかお目にかかれないコカマキリ緑色型。話には聞いているが、実物は初めて。

♀だったので、採集することなくそのまま逃がす。もし遺伝的な要因で体色が決まるとしたら、来年まためぐり会えるかもしれない。

来た道を引き返し、最後にもう一度、イチジクの木に寄ってみる。

キボシカミキリのペアが居残っていた。これから最後の力を使って、卵を残していく。


ウラギンシジミ

イチジクの実から吸汁していた。このチョウも成虫で越冬するので、秋のうちにエネルギーを蓄積する。


ウラギンシジミ♀

イチジクの木のそばのヤブガラシの葉で日光浴中。冬が終わったら、クズ群落でまた会うことができるだろう。

来年の初夏、ここには多くの生き物であふれかえっていることだろう。相方とともにその光景を見ることを思い浮かべながら、日が傾いて冷え込んできた里山を後にした。

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