2011.Mar.27
標本作製に専念した冬も、ようやく終わりが見えてきた今日この頃。東日本を襲った大地震・大津波により世の中が暗くなっていく中でも、草木は芽吹き、鳥はさえずり、魚は跳ねて、虫はうごめく。古来より続く生命の営みは、今年もまた同じように繰り返される。限られた時間を懸命に生きる、その小さな姿には、虫屋でなくても感じることは多いことだろう。日本各地がそうであった、66年前の夏も、きっと。
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今シーズンは、虫屋としての節目となる10年目。何もかも忘れて夢中になれるものがあることは、幸せなことなのだ。仕事でも趣味でも、それを追い続けられることを感謝しながら、足慣らしとして神戸の里山を久々に全行程歩くことにした。
12時、いつものハイキングコースの入り口から出発。こちらからはもう長いこと歩いていないが、変わらない景色を見るとほっとする。
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川沿いの植林に挟まれた、薄暗い道を歩いていく。初夏には木漏れ日の中にハナアブやハバチが飛んでいるが、今日の気温ではまだ早い。
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道沿いの木々には、ツタのような植物が張り付いている。存在は認識していたが、今まで特に気に留めることもなかった。
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マメヅタ
これでシダ植物というのは知らなかった。湿度が保たれた環境であることを教えてくれる植物のひとつ。
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林を抜けると、放棄水田が連なる谷戸に出る。定期的に草刈りはされているようだが、復田の気配は感じられない。
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奥の方のハス田は健在。まだカメは動き出していなかった。
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シマハナアブ♂
陽だまりで日光浴をしているところ。この他にもビロウドツリアブが飛んでいて、春の到来を実感する。
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谷戸を離れ、芽吹き前の乾いた尾根筋をしばらく歩く。ネズミサシがポツポツ生えているが、特有のカミキリムシはまだ早いだろう。
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途中、木をコツコツ叩く音に振り向くと、鳥の姿があった。
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コゲラ
カミキリムシ幼虫でも探しているのだろう。やがて気配に気づき、首をかしげた後に飛び去ってしまった。
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さらに歩き続けて、プチ棚田に到着。時間は13時、降り注ぐ太陽で視覚的にはとても暖かく感じる。
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畔に腰をおろして、ゆったりとした時間の流れを満喫する。
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しばらく休憩した後、散策を再開。思い出のコナラの樹洞は、今年も健在。
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そのすぐそばでは、不自然な燃焼跡。雑木林の更新のため管理しながらやったのだと思うが、そうでなかったら山火事の恐れもあるので怖い。
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例のクヌギの木も、なんとか生き残っていた。幹回りの樹皮が3分の2以上剥げているので、あとどのくらい持つだろうか。
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15時半、集落に出て散策は終わりに近づく。
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ここでキジは初めて見たかもしれない。
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半年前、独りで必死に狩り集めたイナゴも、今は卵で土の中。秋になったら、佃煮を作るためにまた訪れることにしよう。
今年は春の到来が遅くて虫の気配もあまり感じられず、採集はなし。メダケの藪も健在だったが手を出すことはなく、採集ポイントの現状把握と、季節推移の確認だけに終わった。とりあえず、足慣らしにはこの程度がちょうど良いかもしれない。竹取の翁にならなくても、“もと光る竹”を見つけることはあるのだから。
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