夏の里山とトカゲ屋の視点

2011.Aug.25

ケンランアリノスアブに再会してから、もうすぐ2ヶ月。採集に行かずに虫屋の三大関門を突破することに専念していた矢先に、アキラさんからスズメバチ狩りのお誘いがあった。久しぶりなのでどこに行けば良いか迷ったのだが、豊かな環境が残っていて色々楽しめる場所ということで、神戸の里山を一緒に歩くことにした。


当日朝、大阪駅でアキラさんと息子のマサルさんと合流し、神戸方面へ。三ノ宮での乗り換えでちょっと焦ったものの、なんとか最寄駅に到着。

朝9時半、天気はあまり良くない・・・。バスの時刻を間違えていたため、しばし待つことに。


ニホンヤモリ

バス停のそばに隠れていたのを発見。トカゲ屋のアキラさんにとっては、幸先の良いスタートとなったようだ。

10時過ぎ、バス停を降りて散策開始。橋を渡って雑木林の入り口を目指す。それまでは水田と集落ばかりで特に注目するものはないと思っていた。

しかし、橋を渡ってまもなく、親子は立ち止まって水路を覗きこんだ。どうやら、何かを見つけたようだ。


ツチガエル

このあたりではかなり個体数が多い。

さらに、別の水路を覗きこむと無数のカエルが驚いて跳ねる。


トノサマガエル

これもかなり個体数が多い。

なんの変哲のない水路でも、丹念に覗きこんでいく。


サワガニ

水がきれいなので、住宅のすぐ前でも見られる。

しばらく歩くと、ようやく雑木林の入り口が近づいてきた。いよいよ今日の本来の目的であるスズメバチ狩りへ切り替えるかと思った時、もうひとつの狙いが潜んでいそうな環境に遭遇。普段は見向きもしない水路の中のイラクサ群落に、その生き物の姿が見えた。


イオウイロハシリグモ

成長するとメスで体長3cmほどになる大型のクモ。

すかさず網で捕獲。持って帰って飼育するのだという。このサイズのクモは実は苦手なので、見るだけにしておく・・・。

個体数はそこそこいるようなので、しばらくクモ採集。採りにくい位置にいる場合は水路に降りて網をかぶせたりしていた。

10分ほどして、いよいよ雑木林へ。

ポイントに到着。樹液の噴出量が年々少なくなっているのだが、今年6月末の時点では出ていた。あれから2ヶ月、果たしてどうなっているだろうか。

さらに樹液の量が減っており、匂いもあまりしない。3年前に初めて訪れた時とは比べ物にならない姿になってしまった。天気も良くないためスズメバチの姿もなく静まり返っているが、待っていれば飛んでくるかもしれない。どんな昆虫がいるのか観察しながら飛来を待つことにする。

Catocala属の一種(ヤガ科シタバガ亜科)

前夜に訪れてそのまま居残った個体だろう。


ハチモドキハナアブ

これは相変わらずたくさんいる。


ニホントビナナフシ

クヌギのそばのササに止まっていた。

そして、肝心のスズメバチはというと、1時間以上待ったが一向に飛来する気配がない。完全にアテが外れてしまった・・・・。

せっかくなので、この里山がどんな環境なのかちょっとだけ探索することに。棚田へ向かう途中の小道にはヘビやトカゲがいそうだということで、アキラさんが先頭を歩いていく。

特に爬虫類を発見することもなく、いつも見ている小さなため池に到着。かなり底が浅いのに冬でも水が枯れることがなく、ヒシなどの水草も生えてメダカも住んでいる、かなり良い雰囲気の池。

いつものように写真撮影していると、そばにやってきたアキラさんが何かを発見。そして、水の上を走っていった・・・。

次の瞬間、アキラさんは池の中で何かをつかんでいた。

すでに足はドロドロになっているが、まったく動じず。腕に巻きつく獲物を満足げに眺めている。父親の狩りの瞬間を目撃したマサルさんも、かなり興奮気味。

そして、状況がよく理解できない私のところへ、ゆっくりと戻って来た。

腕に巻きつく漆黒の胴体には、無数の鱗が並んでいる。どうやら、ヘビのようだ。

裏側はやや白っぽく、太陽光を反射して怪しい輝きを放っている。しかし、こんなヘビは今までみたことない。


カラスヘビ(烏蛇)

初めて耳にするその名前は、非常に稀なシマヘビの黒化型。ヘビに詳しくない私でも、二人の興奮の様子からそのすごさが伝わってくる。これは、本日最大の獲物となることだろう。

そして、他にもヘビがいないか二人が手分けして池の周囲を探す間に、私は池の周りの昆虫を探す。


スミナガシ

アキラさんがカラスヘビめがけて突進する姿を見守っていたようだ。


キイトトンボ

水草が豊富なため池に住む種類で、この池の環境の良さを示してくれる。

追加個体は得られなかったので、棚田へ。もう完全に爬虫類探索モードになっている二人は、草むらや石垣を丹念につついて歩く。


ニホンカナヘビ

環境からすれば絶対いるはずなのに、今日ここまで姿を見かけず。二人とも不思議に思っていたが、なんとか1匹だけ発見。

棚田をちょっとだけ下見してから、雑木林に戻って別の道へ。ここでも、二人は両生類・爬虫類を探し、私は虫を探しながら歩く。

ヤブキリの一種を捕食中のマヤサンオサムシ。LEDライトで照らしても逃げることなく、夢中で食らいついていた。


ニホンアカガエル

何度もここに通っているが、見るのは初めて。カエルも結構いろいろいるものだ。

そして、笹藪の脇で狩りの態勢になったアキラさん。


ヤマカガシ

棒をうまく使って捕えた。これもこの里山では初めて見るかもしれない。

雑木林を抜けて、ちょっと離れた場所に出る。まだスズメバチは1匹も採れていないので、もう一度クヌギの木まで戻ることにする。

15時、再びクヌギの樹液へ。相変わらず天気は良くないが、スズメバチの飛来を信じて待ちつつ、何か面白い生き物はいないか周囲を探してみる。


ヤマナメクジ

活動しているということは、天気が悪い証拠でもある。


ハチモドキハナアブ

天気は悪くとも、そこそこの個体数がまとわりついている。

さきほどは気づかなかったが、何かが材部からこちらを覗いている。


ヤマトタマムシの頭部

数年前、材部がむき出しになった時に産卵に訪れた個体がいたのだろう。

しばらしくて、ようやくスズメバチが飛来。長竿を伸ばして、一気に掬う。

貴重な1匹。しかし、これが樹液に来た唯一の個体になるとは・・・・。

そして、だんだん気力がなくなって来た頃、ふと足元にヘビがいることに気づいて反射的に取り押さえる。


シマヘビ

さきほどのカラスヘビと同種とは思えないほど色が違う。元々ヘビ運はほとんどないものだと思うほどヘビに出会わないものだったが、ついに素手でヘビを捕えることになろうとは・・・。

15時半、もうこれ以上いてもスズメバチ狩りはできないと判断し、帰途につくことにした。


ヒメアカネ(未熟♂)

帰り際にササの葉に止まっているところを見つけた。まだ夏真っ盛りではあるが、秋の気配も少しずつやってきているのかもしれない。


残念ながら目的のスズメバチはほとんど採れなかったが、いろんな両生類・爬虫類を一気にみることができて面白かった。トカゲ屋の視点で見ても、ここは豊かな里山であることは間違いないらしい。アキラさん、マサルさん、今日はお疲れさまでした。また一緒にどこかへ行きましょう。

inserted by FC2 system