2012.Jun.15
6月も中旬、青葉濃くなる季節であり、梅雨もそろそろ本番。貴重な晴れ間が訪れるたびに、昆虫たちは一斉に活動を始める。
この時期に出現する数多くの昆虫の中で、ひときわ派手で目立つ甲虫がいる。トウガラシの鮮やかな赤色と、クワガタのような大アゴという、珍奇な組み合わせ。不思議な体と同じようにその生態もかなり長いこと謎に包まれており、クマバチ類の巣に寄生することはわかっているが全容解明には至っていない。高知県で特に多く発見されており、かつて和名に「土佐」を冠していたほどだが、1980年頃から2010年までに兵庫、大阪、奈良、京都で相次いで発見されるようになった。現在住んでいる市内でも2010年に採集されていることがわかり、生息環境の検討、航空写真の解析、自転車での下見を重ねる。
そして迎えた夜勤前の晴天の朝、期待を胸に抱きつつ探索へと出発した。
午前9時、目星をつけた桜並木に到着。自転車を降りて、さっそく探索開始。
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ゆっくりと歩きながら、枝を観察。
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ある程度成長した桜並木なら必ず見られる、部分枯れが今回の狙い。サクラの枯枝は材部が柔らかく朽ちるため、クマバチの営巣に適している樹種のひとつ。過去に別の場所で見つけた巣も、やはりサクラに作られていた。
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さっそく、巣穴を発見。
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穴の大きさは1円玉くらい。クマバチはこの中に花粉団子を蓄えて卵を産みつけ、孵化した幼虫は花粉団子を食べて成長していく。
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巣に雨水が入り込むのを防ぐために、巣穴は下向きにあいていることが多い。
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この巣には成虫が潜んでいた。
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このようにキノコが生えている枯枝でも条件が良ければ営巣している。キノコの勢力を見る限り腐朽がそれほど進んでおらず、強度があると判断したのだろう。
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巣穴を見つけてはライトで照らして内部を観察し、いなければ次の巣穴を探す。それをひたすら繰り返していくだけ。
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そして、桜並木のおよそ5分の1を見終わった時のことだった。
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足場を瞬時に計算し、素早く木に登る。
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枝の向こう側にはオスもいるではないか。逃げる気配はないことを確認して、撮影に専念する。
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ヒラズゲンセイ♀
なんという鮮やかな赤色だろうか。しかも、丸々と太った体のせいで体長5cmくらいに見える。
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ヒラズゲンセイ♂
この漆黒の大アゴ、実際に見るとかなり見事。そして、なんという不釣り合いな組み合わせなのだろうか。このアンバランスさがなんともいえない。
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2匹の間には、クマバチの巣。
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うまく写らなかったが、中ではクマバチが警戒しながら様子をうかがっていた。
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撮影終了後、1匹ずつタッパーに納める。カンタリジンの噴出に備えて丁重に取り扱ったが、トウガラシの香りが漂っただけで杞憂に終わった。
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まだ時間があるので、残りの桜並木も見て回ることにする。
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こちらのエリアは剪定がされていて、部分枯れが少ない。
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クマバチの巣もかなり少なめ。枯枝が落下して歩行者に直撃すると危険だからという考え方は、ヒラズゲンセイの生息安定を脅かすもののひとつなのかもしれない。
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最後に、古い巣穴をひとつだけ暴いてみる。
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内部には花粉団子と、白い幼虫がいた。
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頭部がしっかりしており、胸脚は痕跡程度。おそらく、これがクマバチの幼虫なのだろう。せっかくなのでこれも持ち帰ることに。
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空港建設でかなり開発されてしまった街中でも、あれだけ目立つ甲虫が人知れず生息している。クマバチとともに、この桜並木でずっと繁栄していってほしい。
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1時間の探索に満足して、帰途についた。