寒空と新緑のブナ林

2012.May 12

今年は春がすぐに終わり、一気に初夏へと季節が進んだと思っていたら、大陸から強い寒気が流れ込んで、いきなり春へと逆戻り。台風並みに発達した低気圧、集中豪雨、猛威を奮う竜巻など、これまでの経験が通用しない天候に戸惑うばかり。

そんな中でも野山の草木は若葉を広げて花を咲かせ、動物は着々と冬眠から目覚めて短い命を懸命に生きる。ブナ林も新緑がきれいになってきたところで、久々の山歩きへ。


電車とバスを乗り継いで、9時40分に金剛山ロープウェーの駅前に到着。デジカメの電源を入れた途端に電池残量残りわずかとの表示が出たため、今日は撮影をなるべく控えることに・・・・。

出発までの時間を活用して情報収集。かなり寒そうだ・・・。

10時発の便に乗り、植林を飛び越えて自然林へ。

約5分で一気に金剛山駅に到着。あいにくの曇り空で、八重桜が懸命に咲いている。

じっとしていると寒いので、ブナ林を目指して速足で進む。

歩くこと10分、ブナが出現。その白い枝はみずみずしい若葉に覆われている。

適当なところで脇道を見つけ、自然林の中へ。そして、ビーティングネットを広げる。

一応の狙いは、この山がタイプローカリティーとなっているトゲムネホソヒゲカミキリ。広葉樹枯枝に集まるということで、斜面を徘徊しながらひたすらビーティング。

しかし、落ちてくるカミキリはチビコブカミキリ(旧シロチビコブカミキリ)のみ。成虫越冬する種類で、サワフタギを叩くとほぼ毎回落ちてくる。

わりと個体数が多いので、目視でも探してみる。


チビコブカミキリ
Miccolamia verrucosa

意外と簡単に見つかった。

やがて斜面は植林に変わってしまったため、登山道に戻って頂上を目指す。

11時半、頂上に到着。

八重桜が見頃を迎えており、大勢の登山者でにぎわっている。

じっとしているとかなり寒い。すばやく昼食を食べて、次の探索エリアへ向かう。

頂上を挟んで反対側にあるブナ林へ到着。

木々の間からは大和葛城山が見える。すでにヤマツツジは開花し、山肌の一角が赤く染まっている。

以前ルリクワガタ類の食痕つき朽木を拾ったのはこのあたり。今年は季節がやや遅れ気味なので、まだ材内に留まっているかもしれない。

ビーティングと朽木探しの両方を目的に、再び斜面徘徊へ。

かなりの時間を斜面徘徊しながらのビーティングに費やすが、落ちてくるカミキリムシはチビコブのみ。


イヌブナの倒木

セダカ幼虫が穿孔していないか調べてみるも、手ごたえなし。

そのそばに落ちていた朽木も調べてみるが、産卵痕すらなかった。

ルリクワガタ類もこのまま採れずに終わるのか・・・。だんだん採集意欲が失われていき、いつしか斜面を登り始める。尾根筋まで戻って地面が平坦になり、登山道まであと少し。

無心で歩いていると、ふと足元に落ちていた枝が目にとまった。

落葉に埋もれかけており、まだ樹皮がしっかり残る。手にとって何気なく眺めてみると、落葉に完全に埋もれていた部分は材部がわずかに露出し、その部分に産卵マークがついているではないか。

すかさずビーティングネットの上に置き、素手で慎重に解体していく。材部はちょうどよい具合に朽ちており、触るだけでボロボロと崩れていく。

すぐに、青く光る虫影が現れた。はやる気持ちを抑え、電池残量を気にしつつカメラを構える。


キンキコルリクワガタ♂

ようやく見つけることができた、ブナ林の宝石。新芽はすでに終わりかけているというのに、まだ材内に残っているとは。

追加個体を期待して、材の解体を進める。

樹皮をめくっていくと、今度はやや緑色のきらめきが現れた。


キンキコルリクワガタ♂

樹皮下にできた蛹室というものは初めて見た。材部はまだ堅く、樹皮下のわずかな腐朽部を食べて成長したのだろう。

さらに解体を進めたが、追加個体は得られなかった。

他にも良い朽木があるに違いない。ミズナラの木を見上げ、枯枝が落ちる範囲を確認してから足元を探索。

すると、今度は樹皮がかなり剥げ落ちた朽木を発見。樹種はイヌブナのようだ。

このように産卵マークがはっきりと認められる。このような場合、まだ幼虫のことが多いのだが・・・。

削ってみると、やはり幼虫が出現。このまま材ごと持ち帰ることにする。

その後、少し探索範囲を広げてみたものの、追加個体は得られず。


オニアカハネムシ

他に見つけた甲虫はこのくらい。樹皮下で複数の新成虫が待機しているのに出会った。

そろそろ疲れも見え始めたところで、下山に向けてロープウェー駅へ。新緑の林の眺めを満喫しながら歩いていく。

駅の近くまで来ると、いろいろな花が咲いているのに出くわす。電池残量を気にしながらも、ついついカメラを向けてしまう。


ミツバツツジの仲間

太陽が当たっていなくてもぼんやりと光っているような鮮やかさ。


シャクナゲ

同じツツジ科ということで、花の形はよく似ている。

トイレがあったので立ち寄ったら、照明に寄ってきた蛾がたくさんいた。ビーティングネットに集めて外に持ち出し、撮影。


キンイロキリガ


オオバコヤガ


シロモンヤガ

春先に見られるヤガの仲間で初めて見るものが多かった。

最後に、とある花が咲いている小道へ。

新緑で薄暗くなった斜面を照らす、清楚な花。


ヤマシャクヤク

この山には残念ながら生息していないようだが、各地でこの花に妖精が集まってきていることだろう。

ロープウェーの駅に着く頃には気温がかなり上昇。それでもまだ昆虫が飛ぶには寒い。今度は花と気温の両方の条件が揃った時に来て見たいものだ。

久しぶりに新緑のブナ林を徘徊した充実感と、程よい脚の疲労を感じつつ、淡く色づいた山肌を見送りながら帰途についた。

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