2012.Jan.22
関西に来てからだいぶ月日が経ち、あと2ヶ月で丸4年。東京に戻る機会もだんだんと少なくなって来ていたのだが、ここにきて横浜での研修が舞いこんだ。期間は3週間で、自由に動ける土日は4日間もある。
最初の1日となる昨日は雨の予報だったので図書館での文献収集に充て、なんとか天気が回復しそうな今日、採集に出掛けることにした。この時期の奥多摩はすべてが凍りついていることはよくわかっているので、河川敷でゴミムシ・オサムシ採集をすることに。
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かつては下流域に流木溜まりとなった好採集地があったのだが、数年前に流路の変化と河川工事により環境が激変してしまった。しかたないので航空写真をじっくり眺めて、ここぞと思った中流域へ行くことにした。
電車に揺られること1時間、最寄駅に到着。どんよりとした空から水滴が落ちてくる中、河川敷を目指してひたすら歩く。
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10時20分、目星をつけた河川敷に到着。
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西の方には、雪化粧をした奥多摩の山々がくっきりと見える。登山靴なしでいつもの場所へ行っていたら、それっきりになってしまうだろう。
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一応、今回の狙いはヨツボシゴミムシ類。上翅に4つの橙~黄色の紋がある美麗種である。
下流域の流木溜まりでの経験で、朽木があれば発見できる可能性が高い。探索エリアを吟味するため、堤防から河川敷を見下ろす。こちら側は樹木がほとんどなく、流木も全然溜まっていない。反対側には林が帯状に広がっており、とても魅力的。橋をわたって隣の市へ行くことにする。
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対岸の堤防から河川敷に降り、林を目指す。
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オギ群落をかき分けて進むと、林の手前で石河原が出現。洪水の時は林と堤防の間にも水が流れるようだ。
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石河原を渡りきると、右手に見えたのは大きなコンクリートの塊。おそらく古い橋脚の基礎部分が流されてきたものだろう。このような大きな洪水が何年かに一度起きて河道が大きく変わることで、カワラバッタなど撹乱された環境の生物がこれまで生き延びてきたのだ。
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そして、林に眼を向ける。樹種は外来種のニセアカシアと判明。これは、嫌な予感がしてきた・・・。
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ひとまず、林縁にある倒木に近寄る。今日のような雨天時には魅力的だと錯覚してしまいがちだが、ここは冬場に晴天が続く関東平野、遮るものがない河川敷なのだ。
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ちょっと崩してみたが、内部は完全に乾燥。樹皮も薄く、昆虫が越冬するような環境ではない。今日はナタも手鍬も持っていないので、早々と見切りをつける。
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林の中に入ると、ニセアカシアの倒木はそこそこある。だが、どれも探索するには値しないものばかり。
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先行者の痕跡も見つかったが、大した成果はなかったことだろう。
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ニセアカシアは倒木になってもなかなか柔らかく朽ちない。マイマイカブリが潜りこむのはかなり困難な状態。このあたりの河畔林の構成種であったヤナギの倒木とは大違い。
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樹皮をはがしても、乾燥しきった部分からオカダンゴムシがたくさん出てくるくらい。子供に人気のこのオカダンゴムシも、実は日本在来ではないといわれている。朽木で集団越冬していることが多いアオゴミムシをはじめ、多様な河川敷のゴミムシ類は、ついに見つけることができなかった。
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ニセアカシアが優先する河川敷の林は、一見すると緑豊かなものと映るのかもしれない。でも、一歩踏み込むと実はそうでないことを、一般の人はどのくらい知っているだろうか。
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移動する前に、目先を変えてちょっとだけ崖掘りもしてみる。狙い目は、モグラによる捕食リスクを軽減できる植物の根際。手鍬はないので、拾った枯枝で衝くようにして崩していく。
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しばらく何も出てこなかったが、やがて初ゴミムシが登場。
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コガシラアオゴミムシ
やや湿った草地でおなじみの種類。追加はなく、この1匹のみ。
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タンゴヒラタゴミムシ
こちらも湿った草地に生息する種類。このあと数匹出てきた。
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アオゴミムシ
越冬に適した朽木がないので崖に潜ったのだろうか。これも1匹のみ。
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しばらく続けたが、一応の狙いであるヨツボシゴミムシ類はでてくる気配がない。こうなったら、場所を思い切って変えてみるしかない。
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ニセアカシア林を抜けると、下流側にも林が広がっていた。枝ぶりからしてニセアカシアではないようだ。ヤナギ類であることを期待して歩き始める。
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流木に枯草がひっかかっているところを見ると、この広い草原も、洪水の際には川の底になってしまうことがあるらしい。そんなことを思いつつ、足を止める。
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そして、無意識のうちに手を伸ばす。
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枯草をちょっと取り除くと、甲虫の姿が見えた。
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ヒメマイマイカブリ
こんなところで越冬することもあると話には聞くが、実際に見たのは初めて。
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さらに崩していくと、もう1匹発見。
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泥の中に越冬窩をうまく作って春を待っている。
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他にもこのような物件がないかどうか注意しながら歩いたが、見つからないまま次なる林に到着。
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まずは、エノキの根元に転がるこの朽木から見ていく。
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無数のツマキヘリカメムシ、ワラジムシ、アカシマサシガメ。ちょっと乾燥気味で、あまり良い物件ではなかった。
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林の構成種はヤナギ類とエノキ。柔らかく朽ちる種類なので期待は持てる。林内には溜め糞もあり、タヌキかアナグマも住んでいるらしい。
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根元に泥の山が形成されているヤナギも多くみられる。幹から出た不定根は泥の中にしっかりと伸びており、大きな洪水があってから数年が経過していることを示している。
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こういうところに、マイマイカブリが越冬していることが多い。枯木を使って、慎重に崩していく。
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脚が出てきたのが見えるだろうか。
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泥を手で払いのけると、このとおり。
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ヒメマイマイカブリ
多摩川らしい青みがかった個体。関西の黒いマイマイカブリを見慣れてしまうと、とても新鮮に感じられる。
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さらに、他の方向からも崩してみる。
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今度は崩した土の中にいるのを発見。視野を広めにしておいてゆっくり掘っていたので埋もれる前に見つけられて良かった。
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ゲジ
結構大きな個体が越冬のために潜りこんでいた。
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これ以外に追加はなかったので、他のヤナギの木もあたってみる。同じように泥をかぶっている木は多いのだが、なかなかマイマイカブリは掘りあてられない。越冬に適した状態のものは意外と少ないのかもしれない。
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根元の低い位置だけに泥がかぶったヤナギ。マイマイカブリにはちょっと厳しいかもしれないが、ゴミムシなら可能性あり。
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これで何本目かもう忘れたが、とにかく掘ってみることに。
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まずは地面に近い方から掘っていき、幹に突き当ったら上へと順に崩していく。こうすることで、全体をくまなく探索していく。
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かなり掘り進めたところで、ちらっと鮮やかな黄色い星が目に飛び込む。その瞬間を見逃すことなく、左手の動きを止める。
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上翅に黄色紋を4つ持つ甲虫はオオキノコムシ類にもいるが、翅の条溝がはっきりしており、これは間違いなくヨツボシゴミムシ類。
これまで多摩川で掘り当てたことがあるのは、クビナガヨツボシゴミムシとヨツボシゴミムシの2種。しかし、これはその2種のような橙色ではなく、鮮やかな黄色・・・・・。
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手を伸ばして泥の中から掘り出すと、指を登ってきた。
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オオヨツボシゴミムシ
関西では何頭か掘り当ててきたが、東京では初めてとなる。近年では多摩川中流域に点々と記録があるだけの、稀な種類。雨の中を来た甲斐があった。
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さらに掘っていくと、見慣れないサシガメが出てきた。
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アシマダラアカサシガメ
名前のとおり斑模様のオシャレなサシガメ。アカシマサシガメに似ているがあまり多い種類ではなく、東京では初めての採集となる。
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腹面もこのとおり、赤と黒の縞模様で綺麗。
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この2種で急にやる気がみなぎってきて、泥をかぶった木を次々と当たっていく。
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しかし、枯枝では簡単に掘れないものも多い。洪水から数年が経過して根の伸長が著しく、泥をしっかりと保持している。泥そのものは柔らかいので昆虫の力でも潜りこめるのだが、手鍬がないと時間だけが経過していく。
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倒木もたまにあるので崩してみるが、素手ではなかなか効率が悪い。天気はだんだん回復に向かっているのがせめてもの救いだ。
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感覚をつかむためにも、とにかく数をあたること。
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ようやく、追加個体を得る。この林に到着してから1時間半以上が経過していた。
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明日からまた研修があるため、体力をこれ以上消耗すると風邪をひく恐れがある。西の空が少し赤みを帯びてきており、そろそろ帰途につかねばなるまい。
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帰りはちょっと違うコースをたどって歩いていると、良さそうな朽木が目に止まってしまった。これで本当に最後にしよう。
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かかと落としを一撃。
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ヒメマイマイカブリがそこそこ出てきた。状態の良い朽木があればちゃんと潜っている。
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ハナムグリ類の幼虫
おそらく、ナミハナムグリになるのだろう。これは持ち帰って飼育することに。
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一応の目的だったヨツボシゴミムシ類のうち、最高峰に出会えるとは思わなかった。鮮やかな黄色い星を見られた満足感とともに、河川敷を後にした。