奥多摩:ヤマブドウの枯蔓

2013.May.3

5月に入り、新緑の便りが山の方からも多く届くようになってきた。この大型連休中は相方と怪獣さんが実家に戻っているので、休日は自由に採集に出かけることができる。特に狙いはないが、貴重なチャンスを無駄にしないために2週連続で奥多摩へ。


連休中に新緑を求めて殺到する登山客を避けるため、前夜に現地入り。駅の照明は相変わらず消えたままで、虫影もほとんどない。

寝る前に、いつもの蛾像収集ポイントへ。


モンシロムラサキクチバ

蛾の数は少なめで、新顔はこの種くらい。


ダイミョウヒラタハナバエ

カメムシ類の寄生蠅の一種。花掬いで得られたことはあるが、灯火では初めて。

あまり成果が得られないまま、眠りにつく。

朝5時、起床。駅前では例年通りフジの花が満開。

電線にはツバメの姿が目につく。長い冬が終わり、奥多摩にも本格的な春が訪れたことを実感する。

始発電車の到着とともに、駅周辺には人が一気に増える。6時台の始発バスに乗り、最奥の集落を目指す。

集落に到着する頃には青空が広がる。いつもの谷へ行く前にツゲ群落を見に行ってみたが、今年は発生していないようで脱皮殻が見当たらなかった。


谷の様子

毎年見ているが、この頃の新緑はとてもまぶしい。

気温は12℃(8:30)。この気温では、花掬いは厳しいか...。

とりあえず、毎年チェックしているウワミズザクラへ。日当たりの良い斜面に生えており、例年大型連休中に満開になる。

今年も花は満開。

だが、気温が低いのと風が吹いているのが原因で、虫はほとんど飛んでいない。網で掬ってもヒラタハナムグリがわずかに入るだけ。

あてが外れたので、前回と同じく原生林へ。

尾根筋に出ると、先週よりも芽吹きが進んでいて緑が多くなっている。

ヤマザクラがあちこちで見頃を迎える。

ミズナラ林も若葉に包まれ、明るい日差しが林床を照らす。とくに狙いはないので、あちこち寄り道してポイントを確認しながら進んでいく。

7年前に見つけたハリギリ立ち枯れ。まだまだ健在で、今年もあと2週間ほどでカエデノヘリグロハナカミキリが飛来するだろう。

標高をさらに上げていくと、芽吹きがだんだんと浅くなる。

まだ明るい林床では、ミツバツツジ類が色鮮やかに咲き誇る。

フジコブヤハズカミキリが生息するあたりでは、芽吹きは始まったばかり。

ノリウツギもまだまだ枯木のような様相。


ニホンカナヘビ

冬眠から覚めて日光浴をしようと出てきたのだろう。

開けた場所で新芽を掬ってコルリクワガタ採集とも思ったが、いつの間にか天候が悪化していた。

これ以上進んでも、特に何も採れそうにない。今年の夏に備えて、ミズナラの立ち枯れの位置を確認して引き返すことにしよう。

来た道を引き返していると、灰色の空から何かが落ちてくる。

よく見てみると、氷の粒、あられだ。道路沿いにいたとしても、これでは花掬いどころではなかった。

天候がさらに悪化する気配はなかったのでゆっくり下山していると、斜面の下にある光景が目にとまり、急いで下る。

それは、林床に広がる大量の枯蔓。

樹種は、ヤマブドウ。

この一角に集中的に生えていることは以前から把握していたが、株の勢力は旺盛で、枯蔓はほとんど発生していなかった。おそらく付近にあった倒木の巻き添えになって枯れてしまったのだろう。

人為が及ばない原生林で、このような光景に遭遇することは十年に一度のチャンス。奥多摩の夢のひとつで、東京都未記録のあのトラカミキリに出会えるとしたら、今しかない。

山梨県での経験をもとに、左手の感覚を研ぎ澄まして蔓を1本ずつ触り、虫が中にいるかどうかを割らずに判断していく。そして、1本の蔓を引き出す。

割ってみると、材の中心を走る食痕。断面は楕円形で、カミキリムシのものに間違いはない。慎重に、慎重に、割っていく。

やがて、蛹が出現。

トラカミキリの特徴のひとつ、丸い前胸。

角度を変えて、触角を見る。

後脚付近で折り返すほどの長い触角。伸ばせば翅端まで軽く達するだろう。

続いて、別の蔓。材の中心に入る前は、樹皮下を延々と食い進む。

ある程度まで成長すると、材の中心部に入る。これはブドウトラカミキリ、アカネトラカミキリも同じだ。

これらのトラカミキリとは、越冬態の違いによって見分けることができる。

ブドウトラの越冬態は若齢幼虫で、この時期はまだ樹皮下にいる。アカネトラの越冬態は成虫で、材の中心部に作られた蛹室の中でじっとしている。

一方、狙いの種は晩秋に蛹化して、そのまま冬を越す。

今度も、蛹が出現。

先ほどの個体よりも触角がさらに長い。これがオスで、先ほどの個体がメスなのだろう。

この後、さらに1個体を追加したところで帰途につく。

舗装道路に戻ってくる頃には、再び日差しが出てきた。

帰りがけに、集落唯一の犬に挨拶。

奥多摩の夢のひとつを遂に見つけたという手ごたえとともに、午後4時過ぎ、バスに乗って帰途についた。


蛹のその後

採集からちょうど2週間後の5月17日のことだった。


ハセガワトラカミキリ

奥多摩の夢のひとつが、東京都初記録として姿を現した。

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