奥多摩:沢筋の材拾い

2013.Dec.6

今年の奥多摩探索は11月で終わりにするつもりだった。だが、まだ見ぬカミキリムシを数え上げていく中でひとつの課題が浮かぶ。

沢筋の林

奥多摩では、サワグルミ、シオジ、カツラが主な構成樹種。ミズナラやブナなどの原生林に住むカミキリムシの多くに出会えたのは、2005年以降の探索で尾根筋を重点的に歩き回ったからであり、沢沿いにしか生えない樹木につくものは、あまり出会えずにきた。来年はどれだけ採集に出られるかわからないので、記録があるすべてのカミキリムシに出会うためには、沢筋での材採集は欠かせない。樹種とカミキリムシの対応関係を再確認して、今年最後の材採集へ行くことにした。


下総国からだと現地入りが昼頃になってしまうため、今回は前日に実家に泊まり、始発電車で出発。

朝8時、奥多摩駅に到着。平日の第3便のバスは集落を抜けて谷まで連れて行ってくれるので、それに乗る。

谷の様子(8:55)。すっかり冬景色。

先月は見かけなかった看板。出没したのは今年の先週ということなのだろう。鈴を取り出して着用する。

沢筋に向かう前に、まずは灯火の周辺で蛾像収集から。例年だともうフユシャク類が出現している頃。


ナカオビアキナミシャク

晩秋に出現するナミシャク。和名に「秋」とついており、冬尺蛾ではない。


チャバネフユエダシャク

おなじみの冬尺蛾。個体数はもっとも多い。


ナミスジフユナミシャク

これも冬尺蛾。前種に次いで多い。


ウスオビフユエダシャク

冬尺蛾。これは初めて見る。


シロオビフユシャク

冬尺蛾。個体数は少なめ。


クシヒゲシャチホコ

晩秋に見られるおなじみのシャチホコガ。かなり毛深くて暖かそうだ。

蛾像収集が終わったところで、登山道へ。尾根をひとつ越えたところにある涸れ沢が今日の目的地のひとつ。

ゆっくり登って40分ほどで尾根に出る。

そして、日陰になっている北斜面を下る。途中で寄り道すると時間がなくなるので、小走りで進む。

谷底に出る手前、ふと足元に落ちていたホオノキに目が留まる。たしか、この実の中に潜る虫がいたはず・・・。

割ってみると、白い幼虫が出現。蛾の幼虫のようだが、何に化けるか楽しみにして持ち帰る。

下りは体力を使わないので、尾根から10分ほどで谷底に到着。サワグルミがあちこちに生えており、枯木もたくさんある。この中から、カミキリムシの出現時期に成虫が飛来していたであろうもの、つまり、今年の初夏に新鮮な倒木・落枝だったであろうものを探す。

見つけたのが、この枯枝。

樹種はサワグルミ。爪を立てて樹皮をめくると食痕が走っている。

ナタで削ると、幼虫が出現。しばらく幼虫から離れていたので、フトカミキリ亜科というくらいしかわからない。

さらに、材部に穿孔したところを削ると、明らかに別種の幼虫。ここが蛹室になるということで、狙いの種と同じトホシカミキリ族だとは思うのだが・・・。

材部に潜った幼虫は、春になったらほとんど摂食せずに蛹化するはず。かまぼこ板のように割って蛹室がある部分だけを取り出し、材の軽量化して持ち帰る。樹皮下の幼虫の密度が高い部分は樹皮を戻してノコギリで切断。

ある程度幼虫を確保したところで、次の物件へ。

今度は、この細いサワグルミの枝。

1本折ってみると、小さいながらも食痕が走っていた。狙いの地味系カミキリの可能性に賭けて、食痕がある部位を選んで持ち帰る。

しばらく歩くと、この短い谷の終わりが見えてきた。この先の急斜面には、これまでの経験上あまり良い物件は落ちていない。もう本命の谷へ進むことにするが、その前に足元に落ちていたケヤキ枯枝を拾う。

狙いは、このエリアに生息するアカジマトラカミキリ。脱出孔がないことを確認して、まずは食痕をたどるため樹皮を剥がす。


キタカガミヒメヒラタカメムシ(と思う)

光沢が強く「鏡」のようなヒラタカメムシが集団越冬していた。その横にはトラカミキリ類の食痕。その食痕は材部に潜り、たどると幼虫がいた。赤縞に化けることを期待して、ヒラタカメムシとともに持ち帰る。

11時20分、久しぶりにこの林道に降り立つ。2004年以前はよく歩いたが、それ以降は数えるほどしか訪れていない。2年前から車が往来できなくなり、静かな環境で生き物が安堵していることだろう。

しばらく歩いて、支流の方へ伸びる作業道へ進む。

道は一度谷から離れ、植林を出たり入ったりしながら、谷の奥へと伸びる。

再び谷に近づく頃、植林は姿を消す。

一つ目の滝

その脇を登り、滝にかかる橋を渡る。

その先には、わずかな平坦地と谷筋の林。ここに降り立つのは3年ぶりになる。

少し歩くと、2つ目の滝。

その先には、また林が続く。サワグルミの材やコルリクワガタの朽木がないか、地面を見ながら歩いていく。

やや乾燥しているが、産卵マークがついた朽木を発見。ホソツヤルリが入っているかもと期待しながら削る。

しかし、出てきたのは丸々と太ったコメツキムシの幼虫。短い材だったので、残念なことに幼虫は全部食われてしまったようだ。

材を求めて谷を奥へ奥へと進んでいく。

やがて、尾根に上がる道を発見。このまま尾根沿いに集落まで戻る道があるらしいので、ルート開拓のために進んでみる。

尾根に上ると思っていた道は、その後ほとんど標高を変えずに延々と続く。石垣や橋などが整備された、植林のための作業道。これが中段歩道と呼ばれているものだろうとは思うが、確信は持てない。

どこかで尾根に上る分岐があるはずだが、見つけられないまま谷をぐるっと一周。日が傾くとあっという間に暗くなり、慣れない道ではかなりの確率で遭難する。仮に道を発見できたとしても、集落にたどり着くまでに日が暮れてしまう。ヘッドライトは持っているとはいえ、林道のように整備された道ではないので滑落の恐れもある。

いろいろ考えた末に、もっとも安全なルートである、今来た道を忠実に辿って帰ることに。

15時、二つの滝の中間地点に戻る。日はかなり傾き、沢筋には冷たい風が吹き抜ける。

林道まで戻れば、もう遭難することはない。再び尾根を駆け上がる体力はないので、難所は落石に注意しながら通過。

16時、谷に戻ってくる。写真には写らなかったが、谷の奥に見える山はすでにうっすらと茜色。この谷を始発とする最後のバスに乗り、帰途につく。

電車に乗る頃にはすでに真っ暗。これで、今度こそ2013年の奥多摩探索はおしまい。

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