河川敷のシロネ探索

2013.May 4

前日の奥多摩探索でやや体力を消耗したので、今日は平地の探索。下総国でぜひ見てみたい虫はいくつかあるのだが、そのうちのひとつが、日本在来種の中で最大のハムシ。大陸原産のキベリハムシに次いで長らく日本第2位の座を長らく保ち、伊勢国に定着した東南アジア原産種によって第3位に後退したものの、湿地帯の宝石のひとつに数えられるその美しさは前2種を凌ぐほどである。

食草はシソ科の数種に限られており、もっとも有名なのがシロネという多年草。湖沼の脇や河川敷の湿った場所に生えており、特徴的な草姿をしているので一度見たら確実に覚えられる。下総国と常陸国の境を流れる利根川には比較的広く生育しており、ハムシの方もわりと安定的に生息しているという。初夏になり、越冬明けの個体もそろそろ活動開始するところで、目星をつけた河川敷へ探しにいくことにした。


午前10時、最寄り駅から河川敷を目指して舗装道路を歩く。周囲は水田に囲まれ、植えたばかりの早苗が風に揺れている。

土手を登ると一気に視界が開ける。日本一の流域面積を誇る利根川と、広大な河川敷が広がる。この景色の中のあちこちにシロネ群落が点在するのだろう。

さっそく土手を下って、オギ群落の周辺を歩きながら突入できそうな道を探す。

歩き始めてすぐに、刈り込みによって道ができている場所を発見。奥には川と平行に走る砂利道が見える。

刈られた部分は地面がむき出しになっており、無数のイネ科草本が生育中。

その中の、ひときわ目立つ植物。

シソ科共通の特徴である、断面が四角形で角ばった茎。それに加えて、赤褐色の葉の基部、細長い葉身と発達した鋸歯、これが初めて見るシロネであることはすぐにわかった。

ひとたび認識すると、視界の中に多数のシロネが出現。他の植物との競合がある場所だが。なんとか生育している。これだけ生えていれば、食痕くらいあるかもしれないと、一株ずつ見て回る。

いくつかの株には、このように食痕がみられた。しかし、シロネは他の昆虫も利用するため、目的のハムシのものという確証はまったくない。そして気になるのが、草丈が低く、密度もそんなに高くないこと。たぶん、刈り込みによって勢力を増したように見えるだけの場所ではないか。

広大な河川敷にはもっと条件が良い場所があるに違いない。さっさと見切りをつけて、次の群落を探すことにする。

しばらく歩いていくと、川の方に向かっていく道を発見。水辺に近づけばシロネの生育にもっと適した場所もあるかもしれない。そう思って足を踏み入れる。

道の両脇をみると、セイタカアワダチソウがほとんど生えていない。このあたりはだいぶ湿っているということなのだろう。

そして、目を凝らすとシロネの姿が浮かび上がる。ただ、ここも密度はそれほど高くはない。

奥に進んでいくと、やがて道は途絶える。水際がどうなっているのか確かようと思い、そのまま突き進む。

水辺に近づくほど地面が湿っていくかと思っていたが、どうもそうではない。広い河川敷なので起伏が結構あり、盛り上がったところは当然ながら水分含量は少ない。

時々、下を見ながら歩いていくと、シロネはそこそこ生えている。ただ、草丈がとても低く、まとまって生えている場所もない。

藪漕ぎの末に、ヤナギが生えるエリアに到着。水辺まであと少しだが、ノイバラが繁茂するなど、だいぶ乾燥しているようだ。

シロネはかろうじて生えている。このまま攪乱がなければ、やがてセイタカアワダチソウに負けてしまうのだろう。

そして、水辺に到着。カワラバッタがいそうな石河原や砂地などは一切なく、すぐに水面。対岸の常陸国まではかなりの距離がある。

とりあえず水辺を確認したところで、来た道を引き返す。しかし、かなりの距離を歩いてきたため元の道に戻れず。藪漕ぎの果てにたどり着いたのは、最初に堤防から降りた地点であった。

さきほどと同じ道のりで砂利道に入り、そのまま上流方向へと進む。

しばらく歩くと、また別の道が川の方向へ伸びているのを発見。今度はもっと大きなシロネ群落に出会えるだろうか。

奥に進むと道がいくつかに分岐していた。そのうち、入り口付近にシロネが多い道を選ぶ。

前かがみになり、目につくシロネをじっくりと見ながら進んでいく。わりと新しい食痕がある株がみつかり、近くにいるかもという期待感が高まる。そして、次の株へと目を移したときのことだった。

葉の向こう側に何かがいるのが透けて見える。大きさからすると、これはもしや・・・。

気配に気づかれないよう、ゆっくりと立ち上がる。

上から覗き込むと、赤い虫が頭を下にして静止しているのが見えた。

横に回り込んでも、まだこちらには気づかない。


オオルリハムシ

撮影のため葉を少し動かしたら、ようやく気付いたようだ。これこそが、探し求めていたハムシ。図鑑で見る北日本の青い系統には見劣りすると思っていたが、この系統は上翅が赤いからこそ、頭胸部と脚の輝きがより一層引き立つ。想像以上の美しさに、しばし見入ってしまう。

逃げられないようにタッパーに収納した後、追加個体を求めて周辺を探索。

しかし、シロネが高密度で生えているのはごく一部のみ。乾いた草原や、先ほどと同じオギ群落が広がっているだけだった。見切りをつけて、もっと大きなシロネ群落を探すため移動する。

しばらく歩いて目が留まったのが、水路の脇。

なかなかの密度でシロネが生えている。これは期待が持てると思って丹念に見ていくが、赤いハムシの姿はない。食痕すらないところを見ると、越冬明けの成虫が到達できていない可能性が高い。飛べないハムシにとって水路は大きな障壁となっているのだろう。

水路に沿って川の方へと進んでいくと、オニグルミが出現。このあたりは湿地とは程遠い環境になっていることを示している。

しかし、少し歩くと湿地も出現。かなり多様な環境が共存しているようだ。

シロネ群落を探すのに少々飽きてきたので、他の虫に目を移す。


ギンイチモンジセセリ

河川敷のススキやオギ群落でおなじみのセセリチョウ。春型は名前通りの銀一文字が美しい。


ツマモンコブガ

鳥の糞を思わせる模様だが、よく見るとかなり美しい。比較的珍しい種類のようだ。


オオチャバネセセリ

平地でよく見るセセリチョウのひとつ。イチモンジセセリとは違い、街中でも普通に見られるというわけではない。

これまでの探索でかなり時間を費やしてしまったため、そろそろ帰途に。堤防の方に戻り、草原を出発地点へと向かってハルジオンのお花畑を進んでいく。


ヒラタアオコガネ

関東では昔は珍しかったコガネムシ。今は春から初夏にかけてわりと普通に見られるようになった。


コアオハナムグリ

こちらは春から夏にかけて各種の花でみられる。

最後に、2番目にシロネを見つけた刈り込みをもう一度探索。

最初の時は目が慣れていなかったのだろう、食痕が見つかった。ただし、ハムシのものかどうかはわからないが。

ふと顔をあげてみると、枯れたオギの中から緑がのぞく。遠目からは湿地にシロネが無数に生えているように見えるが、実際はセイタカアワダチソウ群落が勢力を拡大中。微妙な環境の変化と、植物たちのせめぎあい。登場する植物の顔ぶれこそ昔と違えども、移ろいやすい河川敷で幾度となく繰り返されてきたことだ。

オオルリハムシの楽園も、場所を変えながら長年にわたって存在してきた。この広大な河川敷の中で、今はいったいどこにあるのだろうか。

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