大虎の棲むモミ林:探索編

2014.Aug.31

8月下旬から3週間の研修で成田を離れ、集団生活を送る日々。相方も怪獣たちも実家に帰っているので、土日は絶好の採集チャンス。せっかくなので、モミ林に住む晩夏の大物、オオトラカミキリに狙いを定めた。そして、具体的に採集計画を練り始める。

1つ目の問題は、どこに行くか。山梨や神奈川の有名採集地は遠いし、そもそもあまり行きたくない。奥多摩は距離的に遠すぎるうえに装備が足りないので候補からは外した。西多摩の有名採集地は車がないと時間的に厳しいので候補外。いろいろ考えた末に、過去に記録もあり広く薄く生息しているとみられる、八王子市内に決定。

2つ目の問題は、天気。近年では狙って採れる虫になったとはいえ、晴れて真夏日になることが最低条件。特に、今回は長竿を持っていけないので地上付近まで降りてきてくれるほどの暑さが必要。しかし、研修が始まってから急に秋のような涼しい日が続く。月曜発表の予報は土日とも雨となっていて、絶望的。

だが、予報はあくまでも予報で、直前までわからないものだ。予想気圧配置は刻々と変化していき、木曜発表の予報から希望が見えてくる。日曜の方が天気が良さそうだったので、こっちに賭けてみることにした。


始発電車に乗り、6時40分に現地到着。快晴とまではいかないものの、晴れている。だが、気温が低く秋晴れといったところ。


ヤママユ

自販機には早くも秋の大型蛾が来ていた。ちょっと早すぎる気もするのだが・・・。

撮影もそこそこに、黙々と登山して目星をつけている場所へ。

汗びっしょりになりながら、第1ポイントに到着。

白いヤニが出ている木がいくつかある。

そして、こんな木もある。

ちょっとわかりにくいが、過去の羽化脱出孔。ヤニの色から見て、昨年のものだろうか。

長竿を持っていない状態では、まず早朝に採集チャンスがある。朝早くにモミ林を探索すると、足元に落ちている個体を拾う例があるらしい。樹冠を主な生活圏にしているとはいえ、夜は低い場所で眠る個体もいるのだろう。このポイント、かなり狭いのでモミの周囲をくまなく探す。しかし、縞模様をまとった昆虫はまったく見当たらない。もう1つ、目星をつけている場所があるので移動することにする。

第2ポイント。こちらの方がモミの本数が多い。

今年の発生木になるとみられる木も少ないながらみられる。

第1ポイントと同様、足元にオオトラが落ちていないかくまなく探してみるが、そう簡単に見つかるものではない。

あとは、昼過ぎに産卵のために樹冠から降りて来るメスに期待するのみ。しかし、空は次第に雲が広がって日差しは弱くなっていく。

昼まで時間があるので、ちょっと別の虫を狙いに場所を移動する。

林内を歩き回ると、モミの倒木を発見。晩夏の頃から成虫が野外に出てくる、ヨツボシシロオビゴマフカミキリが狙い。

幼虫が好むキノコが生えた枝には、新鮮な羽化脱出孔。成虫が近くにいるはずなので周囲を探すが、影も形もない。材採集で得るのに慣れてしまうと、野外では必死さに欠けるのかもしれない。

だいぶ時間を浪費したところで、さきほどの第2ポイントへと戻る。

11時頃から、再び青空が姿を現す。

モミの樹幹にも日が当たるようになってきた。

条件が整ってきたと思ったら、第2ポイントには若手虫屋さんが出現。この時期でこの場所なら、狙いは一緒なのは明らか。しかも、その手には立派な長竿が握られていて、とても勝ち目はない。とりあえず昼食を食べながら様子をうかがうと、どうやら相手は私を虫屋とは認識していないらしい。それもそうだろう、網も持たずにオオトラを採りに来るなんて、普通は考えられないことなのだから。

昼食後、どうするかしばし考える。相手はどうやら第1ポイントを採集ポイントとして認識していないようだが、モミの本数や状態を見ればこの第2ポイントで粘った方が確率が高いのは明らか。勝ち目のないところにいてもしょうがないので、あまり期待せずに第1ポイントへ戻る。

朝はあまり気にしなかったが、モミの根元にある樹洞が気になった。

内部を照らすと、コガネムシ類の糞らしきものがたくさん見える。

手で無造作に掘ると、幼虫が出てきた。

とりあえずハナムグリの幼虫であることは間違いない。何に化けるか、飼育してみよう。

ポイントに到着してしばらくすると、また雲が広がって太陽を覆い隠す。空全体を見渡しても、雲の切れ間はほとんどない。これは、とても期待できそうにない。

13時過ぎ、ここでのオオトラ探索を断念する。このままではむなしいだけなので、遠回りして帰ることにする。これが、大きな転機になるとはこの時点ではまったく予想できていなかった。

どのくらい歩いただろうか。ふと斜面を見ると、ヤニを噴出するモミの木が見える。周囲を見渡すと、植林の終わりにたくさんのモミが生えていて、しかも、視界に入るモミの半分以上に白い汚れがついているのだ。


新鮮な羽化脱出孔

間違いなく、今年出たものだろう。

これも、今年の羽化脱出孔。

地上50cmほどのところからも、羽化脱出したらしい。

この密度の濃さ、2008年に讃岐国で見た時の状況とそっくり。

そして、ヤニ噴出にもかかわらず、羽化脱出孔がない木もある。以前の奥多摩の時のように、すっと指を伸ばす。

なんとなく選んだ場所を指で押すと、樹皮がへこんだ。ドキドキしながら、爪を立てる。

食痕と、空洞が現れた。慎重に、樹皮を剥がしていく。出てくるのは、果たしてどちらか・・・・。

出てきたのは幼虫。顔を見ると、ヒゲナガカミキリでないことは明らかだった。何らかの理由で成長が遅れたため、来年夏に成虫になるようだ。過去に2回飼育に失敗しているが、今度こそは。

おそらく、このモミ林の状況にはほとんど誰も気づいていない。成虫が出ているということは、天気さえ良ければ遭遇できるかもしれない。しかし、樹冠から覗く空はどこを見ても白いまま。

来週は天気が良くなることを願いつつ、今日のところは引き上げることにしよう。

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