近所の谷戸巡り

2014.Dec.7

12月になると同時に寒さが厳しくなり、毎朝霜が降りるようになった今日この頃。近所の里山でも落葉が積もり、生き物たちの気配も日に日に薄くなっていく。今年は山に材拾いに行く代わりに、「にわかゴミムシ屋」として近所で活動することにした。昨冬に職場の虫屋さんと狙って採ることができなかった湿地性ゴミムシを求めて、怪獣たちを連れて車を走らせ、すでに場所の目星はつけてある。そして、怪獣たちが一時的に帰省しているこの隙に、出撃。


11時、第1ポイントに到着。ここは3日前にも来た場所で、その時に車が落輪した現場でもある。未舗装の道は途中で湿地帯と化しており、車で通るのは非常に危険。路肩に車を停めて、長靴に履き替えて、出発。

水溜りにはすでに氷が張っている。日陰なのでとても寒い。

少し進むと右側が崖になっている。遠目からは期待できそうだが、実はそうでないことは下見の時点でわかっている。

崖の表面には植物が一切生えておらず、風化すらしていない。おそらくこの秋に重機で削られたばかりなのだろう。来年以降に期待するしかない。

湿地帯を超えてさらに進むと、湿田が広がっていた。稲作は行われているようだが、畔際には余白がありイネ以外の草が繁茂している。湿地性ゴミムシには良さそうな環境だが、残念ながら掘れそうな場所がない。ここは初夏にトラップを仕掛けて狙うべきだろう。

来た道を引き返し、今度は反対側へ。こちらの方が、この冬の狙いであるゴミムシには良さそうな環境。ひとまず、掘れそうな場所を求めて上の道を歩いていく。

舗装された道は落葉に完全に覆われており、その上には無数のシャクガがひらひらと飛んでいる。

地面に降りた個体を狙って、そっと近づく。


クロスジフユエダシャク♂

平地で11月下旬頃から発生するフユシャクの仲間。メスは翅が退化していて飛ぶことができないので、フユシャクの存在は昔からの雑木林である証拠。

適当なところで水田に降りてみる。基盤整備は入っているようだが、それほど乾いている印象ではない。

水田の右側はササに覆われた崖になっていて、その下を細い水路が流れている。水量は少ないので、枯れ草をつたって虫の行き来はできそうな感じ。このあたりで掘ってみることにしよう。

鍬を入れると、ササの根がしっかりと張り巡らされている。土質は固すぎず柔らかすぎずというところ。落とした土と掘った面とを交互に見ながら、少しずつ掘り進めていく。

何度目に落とした土を見た時だろうか、見覚えのある黄色いラインが目に飛び込んできた。


コキベリアオゴミムシ

残念ながら脚が1本欠けてしまった。湿地に生息するゴミムシで比較的普通に見られるらしいが、実は本日の狙いと同じ環境に生息するという重要な種である。本種の個体数が多いほど、本命が見つかる可能性は高くなると言われている。

追加と本命を狙って、この周囲を重点的に掘ってみることにする。

しばらくして、2匹目のゴミムシが落ちてきた。


フタホシスジバネゴミムシ

上翅の黄色紋が特徴のゴミムシ。これはどちらかといえば林のゴミムシというイメージがある。崖のすぐ上は雑木林なので、夏はそこで生活しているのだろう。

その後、追加が得られることなく時間だけが過ぎていく。この場所は密度が低いのだろうか。

ちょっと移動して、こんな場所も掘ってみる。


コキベリアオゴミムシ

今度は脚も全部揃った状態で得られた。

その後、追加が得られない状態が再び続く。崖をすべて掘るようなことはしたくないので、もっと良い場所を求めて、先へ進んでみることにする。

途中から谷戸の幅が広くなり、それとともに水田が乾いていく。このまま平野部に出てしまっては探索にならないので、どこかで別の谷戸に入らねば。

しばらく歩くと細い谷戸があったので、そちらへ進む。奥の方は水田と畔の段差がほとんどない状態だが、あいにく掘れそうな場所がない。

かろうじて見つけた、車の退避スペースをちょっとだけ掘ってみる。

すぐに、ぽっかりと越冬窩が空く。これは、本日の本命から遠ざかるあの種に違いない・・・。


スジアオゴミムシ

大型美麗種なのだが、どこにでもいる普通種で大量に見つかることもしばしば。本種が出る崖では本命はまず期待できないので、掘るのを諦めて引き返すことにする。

車に戻ってくると、すでに14時。探索開始3時間でゴミムシ3匹、このまま続けても本命に出会えるとは思えない。残りの時間、もうひとつの場所に賭けてみることにしよう。

コンビニで昼食をとった後、車を走らせて第2ポイントへ。2週間前にも訪れていて、本命ではないものの結構良いゴミムシに逃げられた場所。下見の時に掘れなかった場所をいくつか掘って、何も出ないことを確認した後、その現場へと向かう。

ここが、その現場。

固く締まった関東ローム層にササが食い込んで、部分的に柔らかくなっている。

「段差」「舗装」「側溝」と水田から3つも障壁があるため、本命はいないだろうと油断したのが大間違い。2週間前、適当に振り下ろした鍬の先には大きめのゴミムシの姿。撮るか採るかで迷った隙にモグラの穴に一目散に逃げ込み、追跡をかわして行方不明に。その後、周囲を必死に掘ったがついに見つからず、他のゴミムシすら出てこなかった。

今度こそはと、前回掘っていない場所の中から、ここぞという場所を選んで鍬を入れる。

表面は乾いているように見えても、すぐ下は結構湿っている。ゴミムシが潜れそうな固さの部分を選んで、少しずつ掘っていく。

何回目に鍬を振り下ろした時だろうか、ぽっかりとモグラの穴が空いた。崩れゆく土でその穴はすぐに塞がっていくが、完全に見えなくなる寸前、大きめのゴミムシが坑道の奥へ逃げ込むのがはっきりと見えた。

坑道の走る位置とゴミムシの現在位置を瞬時に推測し、足止めを狙ってゴミムシより先に鍬を打ち込む。次に、手で坑道付近の土を思い切り掻き出す。

果たして、作戦の結果は・・・。


オオキベリアオゴミムシ

今度はしっかりと、この手に掴んだ。コキベリアオゴミムシよりも二回り大きく立派な体格。幼虫がアマガエルの生き血をすするという変わった生態で有名である。灯火にもよく飛んでくるのでかつてはよく見かけたそうだが、いつの間にか減少しているらしい。本命ではないものの、嬉しい収穫となった。

その後、さらに探索を続けるが本命の姿はなし。日も暮れてきたので、やむなく帰途についた。


本日の副産物

コキベリアオゴミムシの崖で偶然掘り当てた自然薯(ヤマノイモ)。栽培種のナガイモとは比較にならない粘りだった。

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