奥多摩:新緑の尾根

2014.May.23

5月も下旬になり、奥多摩の山々は新緑の季節を迎える頃。前回の探索から3週間が経過し、そろそろ尾根沿いでも花が咲いているはず。網の枠も新しく買って、花掬いの準備は整った。前回と同じく寝袋を持って、奥多摩行きの電車へ。


20時、奥多摩駅に到着。節電は継続中で、駅舎には蛾の姿はほとんどない。もっとも、夜は観光客もほとんど来ないので駅舎をライトアップする必要はなかったのかもしれない。

蛾像収集のため、いつものトンネルへ。さすがに顔なじみの種が多いが、蛾の世界は奥深いので初顔ゼロという夜はまずない。


マエベニノメイガ

今夜見た中でもっとも派手だった。見るのは初めて。


コクロコガネ

平地でお馴染みの初夏の虫だが、ここにも生息している。


クロスジヘビトンボ

この夜見た虫のなかで最大種。個体数はまだ少ない。

ある程度撮り終わったところで、眠りにつく。

朝5時、起床。雲がやや多めだが、青空も見えるので今日はなんとか大丈夫そう。始発のバスに乗り、いつもの集落へ。

集落の中心にある八重桜はすでに散り、青葉が生い茂る。

道端の花にはウスバシロチョウ。傷だらけの翅が、初夏への移り変わりを教えてくれる。

山の上の方もかなり緑に覆われてきた。


いつもの谷の様子

右手前のトチノキは花の盛りをやや過ぎ、中央奥の木は満開。

前回残しておいた温度計が無くなっていたので気温は不明。わかるのは、オオミズアオの翅が複数の外灯下に散らばるほど暖かいこと。3週間前に蕾だったウワミズザクラは、すでに散っている。麓の季節推移は事前の想定どおり。同じく3週間前に蕾だった、尾根沿いの株はきっと満開になっているはず。

谷底の雪はまだしぶとく残っている。これは予想外。滝の下流には大量に残っており、完全に消えるのは6月になってからだろう。

一刻も早く尾根筋に出るため、登山道を黙々と登っていく。

30分ほどで尾根筋に出る。木々の葉が大きくなり、林床には柔らかい光が届いている。

前回仕掛けたトラップには何も来ていなかった。コブスジコガネ類の活動にはまだちょっと早いのか。次に来る時には山地性の種類が潜っていることを期待して先へ進む。

このあたりから植林も見えなくなり、完全に原生林。3週間前とは日向と日陰の面積比が完全に逆転している。この緑を眺めているだけで、ここに来た甲斐がある。

しばらく進んで、本日の第1ポイントに到着。大雪でミズナラ大木が折れたために出現した、ギャップ。

巻き添えにならなかったホオノキには太陽がさんさんと降り注ぐ。ホオノキといえば、フチグロヤツボシカミキリ。このエリアでも記録があり、食痕も以前確認している。

葉をくまなく観察すると、食痕らしきものが見える。

さらに、虫影らしきものも見える。だが、ちょっと小さいような気もする...。長竿を伸ばして掬ってみるが、何も入らなかったので正体は不明。帰りにもう一度掬ってみることにして、先へ進む。

標高を上げるにつれて、空の面積が大きくなっていく。

ノリウツギは葉が展開し、若い茎も伸び始めた。

しばらしくて、本日の第2ポイントに到着。前回、目星をつけておいたウワミズザクラの木。あの時は蕾固しだったが・・・・。

予想通り、満開。ただし、まだ樹高が低く花の数は少ない。時間は9時半とまだ早いが、長竿を伸ばして掬ってみる。

花の数が少ないこともあり、網の中に虫はあまり入らない。


フタホシアトキリゴミムシ

ピドニアすら入らず、めぼしい甲虫はこれくらい。花掬いに適した時間帯ではないので、この結果そのものは気にすることではない。

気にしなければならないのは、雲の動き。どうやら、雲が次々と押し寄せてきているらしい。気温はそこそこ高いので、11時頃にうまく晴れ間が出てくれるといいのだが・・・。

時間はまだあるので、他に咲いている株がないか探す。

少し歩いたところで、高いところに咲くウワミズザクラを発見。長竿では届かないので、手前の木に登る。

地上約10mで咲き誇るウワミズザクラ。花と同じ高さまで来たので、とりあえず長竿を伸ばして掬ってみる。網の口径を一回り小さい50cmにしたことと、軽い製品に変えたことで、樹上でも長竿を驚くほど簡単に操ることができる。


フタオビヒメハナカミキリ

しかし、ここでも虫はほとんど入らず。カミキリムシはこの1匹だけ。曇天でも花に集まるピドニア類ですらほとんど網に入らないのは、ちょっと心配。

開花予想は的中したものの、天気ばかりはどうしようもない。花掬いの時間帯にはまだ少し時間があるので、もっと上の方の季節推移を見に行くことにする。

尾根道を登り切ると、平坦な道がしばらく続く。若葉はまだ小さく、空の面積はさらに広くなる。

精霊が宿るミズナラの巨木は大雪を耐え抜いて健在だった。


ウンモンテントウ

山地でみられるやや大型のテントウムシ。東京都では初めて見るかもしれない。

時間は10時半、そろそろ花掬いの時間帯だ。さきほどのウワミズザクラのところに戻り、木に登って長竿を操る。だが、先ほどよりもさらに虫が入らない。

このように、空は雲で真っ白。さらに、風も出てきた。これでは、甲虫の飛来はとても期待できない。木から降りて、地上から届く位置にあるウワミズザクラを掬っていく。


シロトラカミキリ

散々掬って、入ったカミキリムシはこれだけ。

天候も回復しないまま、花掬いの時間帯が終わった。天気ばかりはどうしようもない。これ以上粘っても、何も採れる気がしない。登りで見たホオノキを見つつ、下山することにしよう。

途中で、ハリギリの立ち枯れの周りを一回り。かなりの大木で、枯死したのは数年前。例年ならカエデノヘリグロハナカミキリが産卵に来ている頃だが、今日は姿が見えない。もう1か所の立ち枯れにも立ち寄ったが、何もいなかった。

再び、ホオノキが多いエリアに戻ってきた。これはカラマツ植林のはずれに生えていて、数年前に食痕を確認したもの。樹高は低いが日当たりは良いので、なかなか良いポイントと思っている。

怪しい影はいくつか見える。長竿を伸ばして掬ってみる。


キジラミの一種

なぜか、網に入るのはこればかり。

それらしき食痕もあるのだが、まだ出始めで個体数が少ないのかもしれない。そう簡単に採れても面白くないので、また来る時のお楽しみとしておこう。

バスの時間もあるので、急斜面を急いで降りていく。この時間になって天気が回復してきたのがうらめしい。

舗装道路に戻ってきた。道沿いではミズキの花が咲いていることに今やっと気づく。こっちで粘った方が成果はあったかもしれないが、もう遅い。

バス停の近くで最後の探索。以前から目をつけていた、フジの株。緑色の新しい蔓が伸びていく中で、脇芽がついたままで不自然に枯れている茶色の蔓に注目。

蔓には不自然な穴が点々と空いている。

切開していくと、幼虫が姿を現した。これが、ホソキリンゴカミキリの幼虫。奥多摩では過去に幼虫だけ採集したが、飼育には失敗している。今度こそは成虫まで育て上げたい。

開花予想は当たったが、天気の読みはもうひとつ。狙いの虫には出会えなかったが、新緑の尾根を歩いてかなり気分転換になった。また、来月あたりに来られることを願うばかり。16時半、バスに乗って帰途についた。

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