奥多摩:原生林の灯火

2014.Aug.2-3

荷物を持って、灯火を設営する場所を選ぶ。今夜の狙いはブナの精霊なので、ブナが多いことが条件。

登ってくる途中で目星をつけておいた、名もなき沢の源流に決定。北斜面にブナがそこそこ生えており、見通しも良い。

持ってきたランタンを倒木に置き、その後ろに枝を刺してビーティングネットを立てかける。先輩がその上にロープを張り、シーツとブラックライトを吊って完成。

まだ点灯するには早いので一休みしようとするが、ブユの襲来は激しさを増していく。2人とも網で掬っては潰していくが、1分も経たないうちに10匹ほどが新たに寄ってくる状態。

網はブユの体液でどんどん汚れていく。

18時半、点灯。灯火から離れた場所で夕食を食べ、寝床を設営するなどして虫の飛来を待つ。

19時半頃、完全に日没となり、周囲が急速に暗くなっていく。日没して完全に暗くなるとブユも活動休止となるので、翌朝までは休戦となる予定だった。しかし、今度はカの襲撃が待ち受けていた。先輩が叩き落として同定した結果、シロカタヤブカ。あともう1種、違う種も混じって、執拗につきまとう。先輩の一人用テントも安全地帯ではなく、隙間から侵入した個体に悩まされることになる。


19時40分頃の灯火

虫が少しずつ集まってきている。以下、19時~20時台に来た虫たちを順不同で。


アカアシクワガタ♂

昼間でも立ち枯れで姿を見る、このエリアの常連種。


ハガタエグリシャチホコ

とても味わい深い模様をしているシャチホコガ。


オオゾウムシ

灯火に来ている姿を見ることが多いが、飛翔する姿はまだ見たことない。


クルマスズメ

大きな体で幕に何度も体当たりして、飛来した虫が驚いて逃げていた。


マエモンシデムシ

奥多摩で見る2種目のモンシデムシ。ヨツボシモンシデムシと違って黄紋の中に黒点がない。


オニベニシタバ

赤い斑紋がまぶしいカトカラ。山では普通に見られるらしい。


22時15分の灯火

幕にたくさんの虫が止まっている。


ミヤマクワガタ♂

わりと大きめの個体。数個体が入れ替わりで飛来していた。


ヒメオオクワガタ♀

ロープを結んだ木の幹に静止していた。コクワガタと明らかに体型が違うので2人ともすぐにわかった。


0時頃の灯火

ブラックライトが電池切れになったので、ランタンの周りに虫が集中している。電池を交換した後、飛来した虫を確認していく。


ゴマシオキシタバ

ブナ林に多いカトカラ。


アシベニカギバ

灯火のところで見るとまるで黄金に輝いているように見える。


エゾギンモンシャチホコ

この日見た蛾の中で1,2を争う美しさ。

そろそろブナの精霊、ヨコヤマヒゲナガカミキリが姿を現しても良い時間帯。だが、広大な原生林で出会うことはなかなか難しい。東京産個体を持っている人はたくさんいるだろうが、高尾山以外の東京都で採集したことがある人はそのうち0.1%にも満たないに違いない。この虫との出会いは、本来はそれくらい貴重なものなのだ。

時間が経つにつれて気温も低くなり、大型昆虫の飛来には条件が悪くなってきた。体力温存のため、網を頭からすっぽりかぶってマットに横たわり、朝を待つ。カの襲撃に気を取られて眠れないかと思ったが、やがて意識を失っていった。


4時20分

空がだいぶ白くなってきたところで目覚める。すぐに、灯火の様子を見に行く。

ビーティングネットが倒れていたので、元通りに起こす。虫が少ないのはそのため。残った虫を調べていく。


コクワガタ♂

この場所でもっともよく見るクワガタ。


フタオビアラゲカミキリ

あまり多くは見られない種類。


ゴマダラモモブトカミキリ♂

久しぶりに見るので種名を忘れかけていた。


アミメリンガ

派手さは今回の飛来昆虫の中でナンバー1。まるで金箔を貼り付けたような翅。

結局、ブナの精霊は飛来することなく終わった。

5時、木々の間から朝日が顔を出す。

薄暗い林床に光の道が現れる。

朝日を浴びて、蛾たちは次々と飛び立っていった。

夜明けとともにカとの闘いは終わり、再びブユとの闘いが始まった。灯火を撤収し、朝食をとり、身支度を整える。

6時、出発。


6時20分のノリウツギ

この時間に来た虫屋は初めてなのかもしれない。薄暗い時に活動するカミキリムシが来ているかもと期待したが、残念ながらその姿はない。

荷物を置いて、虫の飛来時間になるまで周囲を探索。ミズナラの立ち枯れを中心に見て回る。

こんな樹皮が剥がれ落ちたところにも来ると思うのだが、虫の姿はない。

8時20分、ノリウツギに戻ってみるとちょうど日が当たり始めたところだった。

高いところにはハナカミキリが飛んでいるのがはっきりと見える。だが、盛りを過ぎた花をなるべく温存するため、すぐには掬わない。大物が来たことを確認してからでも十分なのだ。

まずは、手が届く位置の花房を順番に見ていく。


アオハナムグリ

このエリアでオオトラフと並んで個体数が多い。


アオジョウカイ

カミキリムシと紛らわしい姿をしていて嫌われ者だが、実は結構美しい。前日からの居残り個体なのか、かなり個体数が多い。

1周して見るが、カミキリムシの姿はない。ゆっくりともう1周するが、やはり同じ。今度は上の方も見ながら、もう1周すると、、


フタコブルリハナカミキリ♀

アオジョウカイに交じって、1匹だけ本物のカミキリムシがいた。実は最初に1周した時からこの位置に虫影があることは把握していたのだが、「ジョウカイか」と思いこんでいてよく見なかった。とりあえず、今年も出会えて良かった。

その後、先輩と入れ替わりながら数回に分けて花を掬う。以下、網に入った虫を順不同で。


ヤマトヨツスジハナカミキリ♂
(コヨツスジハナカミキリ)

個体数は少なく、毎年見られるとは限らない。


ジュウシチホシハナムグリ♀

年によって個体数が変動する。


トゲヒゲトラカミキリ

まだ生き残っていたようだ。


ヒゲジロハナカミキリ

例年より個体数は少ない。


キスジトラカミキリ

毎年1~2匹、この花を掬うと網に入る。


ヨツスジハナカミキリ♀

いつもは無数に飛んでくるが、今日はとても少ない。


アカハナカミキリ

夏の終焉を告げるハナカミキリという印象がある。


エグリトラカミキリ

真夏になってもまだ生き残っているらしい。

10時半、沸き立った雲で太陽は隠されてしまう。虫の飛来は急に減るという、典型的な雨の前兆。

ゲリラ豪雨も予想されていたので、やむなく下山することに。

ミズナラ大木のあたりで小休止。先輩がかつてブナの精霊と出会った木を教えてもらった。

空は完全に雲に覆われ、いつ降り出してもおかしくない状況。

11時半、滝のような雨の中を急いで下っていく。大木の幹をつたった雨水で滝業ができそうな場所もいくつかあったが、雷鳴が轟く中で写真を撮る余裕はまったく無かった。

13時、集落まで戻ってきた。全身ずぶ濡れだが、ここまで来ればもう安心。

「ヨコヤマ、ヒゲジロ、...、...、一度にたくさん狙って神の怒りをかったのかな」。先輩のつぶやきと、灯火採集の充実感とともに、午後の第1便で帰途についた。

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