奥多摩:晩夏のモミ林2014

2014.Aug.22

お盆を過ぎ、夏休みも残り少なくなってきた今日この頃。夏の終わりに現れる、トラカミキリの王様を今年も狙う時期がやってきた。昨年は9月中旬に行って遅すぎたので、今年はもっと早く行くことに。

しかし、もっとも適した時期とみている8月最終週~9月上旬は仕事の都合で不可能。その前か後に行くしかないのだが、標高がそこそこあるので、遅いよりは早い方が可能性があるはず。夜勤明けで体力的には厳しいが、行くしかない。真夏のモミ林で粘れるように水分と食料を買い込み、電車に乗り込んだ。


22時、奥多摩駅に到着。遅い時間だからか、駅舎のライトアップはない。

いつものようにトンネルへ。この時期のいつもの顔ぶれの中にいる、初顔のものを中心に撮影していく。


サビカミキリ

幼虫は針葉樹を食べる種だが、奥多摩ではなぜかあまり見ない。


カシワマイマイ♂

雌雄で色彩が異なり、オスは地味な色合い。


オオクワゴモドキ♀

メスは灯火であまり見かけないのは、体が重いからかもしれない。


シロスジカラスヨトウ

かなり高い位置にいたのでこれが限界。初めて見るのでもっとよく見たかったが、棒でつついたら飛び去った。


コガシラウンカの一種

1cm弱の小型種だが、とても美しい模様をしていた。

翌朝、5時起床。空には雲一つない。夜勤のダメージがなかなか回復せず、体が重い。とりあえず朝食をとり、始発バスで集落を目指す。

日が登るにつれて空は青くなっていく。天気予報では午後から雷雨の可能性もあるようだが、なんとか持ちこたえてほしいところ。

山影に入るとまだまだ涼しい。夜に少しだけ雨が降ったらしく、道端の落葉には湿り気がある。


オオスジコガネ

どの外灯の下にも1~2匹はいた。今がちょうど発生時期なのだろう。


谷の様子

右手前にあるトチノキの葉が少し色あせてきたような気がする。

その枝先にはたくさんの実がついていた。

7時半、まだ早いが登山口へ。万全の体調ではないからこそ、早めにポイントに到着しておきたい。

しばらく歩いて、モミ林に到着。

倒木によってギャップが生まれ、直射日光が差し込む空間。正面のモミからはヤニがたくさん出ていてオオトラ幼虫がいるようにも見えるが、実はこれは倒木によってできた傷によるもの。

振り返ると、2本のモミ大木が見える。右はこのエリア最大の巨木だったが、昨年秋に突然折れてしまった。直下にあるアサダもなぎ倒して、このギャップが形成された。

これがその巨木。

折れた部分を見ると、折れた部分は広範囲に渡って材部が露出していた。おそらく、オオトラカミキリ幼虫に樹皮下を食われてしまい、それが原因で枯れることはなかったものの材部の腐朽が少しずつ進行し、大風が吹いた時に自重を支えきれなくなってしまったのだろう。

近寄ってみると、すでにヒゲナガカミキリの産卵痕がびっしり。再来年は多くの成虫が羽化することだろう。

幹を見ていると、地味な姿のカミキリムシが驚いて落下。


ヒゲナガモモブトカミキリ♂

以前に亜高山帯で見て以来2度目。匂いを嗅ぎつけ、広い原生林のどこからともなく飛んでくるのだろう。

今日は温度計を持ってきたので、林内の直射日光が当たらない場所に設置。オオトラが降りてくる気温にはまだほど遠い。

気温が上がるまで、周辺を少し散策。

林床には枯葉つき枯枝があちこちに落ちている。これはオニグルミで、まだ新しくて柔らかそう。この状態が秋まで続けば、セダカがいるのにと思いながら覗き込んでみる。


イワワキセダカコブヤハズカミキリ♂

まさか、本当にいるとは思わなかった。徳島でも残暑厳しいこの時期に新成虫を見ているので、奥多摩でも発生は意外と早いのかもしれない。大胆にも葉の上に出てきているのを見たのはこれが初めて。

体長10mmほど(帰宅後測定11mm)の小型個体だが、背中のコブは大型個体にひけをとらない。枯葉とともに、大事に容器にしまい込んだ。

しばらく歩くと、以前から目をつけていたモミ立ち枯れに到着。

タマムシ類とみられる楕円形の新しい羽化脱出孔がいくつかみられる。アオタマムシか、トゲフタオタマムシか。幹回りを一周してみたが、甲虫は何もいない。オオトラ探しの合間にまた見に来ることにしよう。

さらに、登山道を外れて今まで行ったことがない方向へ。

少し進むと、植林との境界に出る。この一角もモミが多く生えている。

古い羽化脱出孔も1つだけあった。

9時半、最初の場所に戻る。夏の日差しで気温がずいぶん上がった気がする。

気温は28℃、思ったよりは高くない。

体調もあまり良くないので、ここを拠点にして粘ることにしよう。

周囲にあるモミを1本ずつ見て回る。そう簡単には見つからないとは思いつつも、その瞬間に備えて網は片時も手放さない。巨木のところに来た時、ふと足元を見ると黄色い触角が動いているのが目に留まった。ちょうど正面から顔を見る状態だったので、一瞬ドキッとした。


ニホンキバチ♀

産卵管を突き立てているところだった。長い管を抜くのに時間がかかるので逃げられることはなく、撮影はとてもやりやすい。

10時、快晴だった空に雲が現れ始めた。積乱雲のような沸き立つ感じではないが、太陽を隠してしまいそうで心配だ。

時々休みながらモミを見ていると、近くにあるアサダの木に青い影が動く。


ルリボシカミキリ

日本を代表する美しいカミキリムシのひとつ。もう少し明るい色の個体が好きなのだが、これはこれで良い。

11時、雲は少しずつ大きくなっていく。まだ太陽を覆い隠すほどではないので、このくらいで持ちこたえてほしい。

休憩場所に戻って水分補給をしていると、甲虫らしき影がギャップの方から飛んでくる。頭上を通過し、林内に入ったところで速度を落とし、スギの葉に止まった。大きさはオオトラよりずっと小さいのだが、なんとなく気になる。長竿を伸ばし、着地地点を慎重に掬う。


アカジマトラカミキリ♀

晩夏に出現するおしゃれなトラカミキリ。奥多摩でも材採集で何回かお目にかかっているのだが、野外で活動しているはこれが初めて。産卵場所を求めて移動しているところだったのだろう。

11時半、気温は29℃。思ったよりも気温は上がらない。そして、正午を前にしていつものように風が吹き始めた。

12時、気温は29℃だが、上がるどころか若干下がっている。吹き始めた風が涼しい空気を運んできているようだ。実際、日陰にいればわりと快適に過ごすことができる。

日光は樹幹の広い範囲を照らしている。

このどこかに、スズメバチの衣をまとって突然現れるはず。そう思って待ち続けるが、時折飛び立つオオスジコガネに驚かされるだけ。

そして、このあたりから夜勤のダメージがかなり効いてきて、眠気に襲われる。これからが勝負の時間帯だというのに、モミ林をくまなく歩き回る気力が湧いてこない。胸部が突然痛み出したり、頭がぼーっとしたり、最終に集中することができない。狙いを1本の木に絞り、倒木の上に寝転んで飛来を待つも、気づくと居眠りをしている始末。

13時40分、空がさらに雲に覆われてきた。一時的に日光が遮られるようになり、その時間がだんだん長くなっていく。

14時半、気温は28℃を下回る。林内は涼しい風が吹き抜けて、体感温度はもっと低い。

モミの樹幹にもほとんど太陽が当たらなくなってしまった。体力も限界に近いので、残念ながら今年はここまでにしよう。

何回か道を踏み外しそうになりながらも、登山道を下っていく。

バスの発車までまだ時間があるので、ちょっとだけ寄り道。


川沿いに生えるカラスザンショウ。この周辺では2株あり、こっちの方は遅咲きでまだ花がたくさん残っている。


アオバセセリ

緑色をした美しいセセリチョウ。蜜を求めてせわしなく飛び回っていた。

長竿を伸ばしてみるが、時間的にオオアオカミキリが入るはずもない。甲虫はアオハナムグリとサビキコリが入ったくらいだった。

花を訪れているのはハチ類が圧倒的に多く、個体数が多い順にクマバチ、マルハナバチ、ベッコウバチ、スズメバチ。それに紛れて、飛び方が違う別の虫が時々飛んでいる。


クロベッコウハナアブ♀

普通種ではあるが、大型でなかなか良いハナアブ。この仲間の幼虫はスズメバチの巣の中で育つという面白い生態を持つ。

今年もモミ林の王様に出会うという夢はかなわなかった。来年こそは、体調万全で、最高の時期に訪れてみたい。

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