奥多摩:白帯土井を求めて

2014.Oct.3

2007年から2013年にかけ、奥多摩から記録された東京都初記録のカミキリムシは16種に及ぶ。近隣県のカミキリ相と比較して、新たな記録の可能性はほとんどなくなったかに思えたが、2014年2月、さらに1種が奥多摩から記録された。

シロオビドイカミキリ

亜高山帯の針葉樹林に生息する種で、関東では富士山麓が有名な生息地である。報文によれば、2013年6月に稜線上でモミ伐採木から得られたという。実は、それと同じとみられる伐採木を2013年7月の奥多摩探索で見ていたが、結果的にわずかな差で東京都初記録に手が届かなかったのである。

本種は秋に新成虫が出現し、成虫で越冬して翌年の夏までに産卵して生涯を終える。奥多摩でもちょうど今頃、新成虫が出現している時期である。針葉樹の新しい倒木さえ見つけることができれば、きっと出会えるはず。足腰の状態を確認することも兼ねて、久しぶりに亜高山帯へ行くことにした。


21時半、奥多摩駅に到着。10月になり、夜はかなり冷え込む。

いつもの場所で蛾像収集。見慣れた顔ぶればかりで、なかなか新しい種はみつからない。


アシベニカギバ

これがほぼ唯一の新顔。なかなか特徴的な模様をしているガキバガ。

翌朝、5時起床。平日ということもあり、登山口への始発バスに他の乗客はいなかった。

6時10分、登山口のバス停に到着。亜高山帯を目指して登山開始。

植林の中を黙々と歩いていく。

7時40分、堂所に到着。登山口から稜線までの約2/3の位置にある。少し休憩した後、先へ進む。

8時10分、七ツ石山直下に到着。2013年に採集された場所に行くには右の道なのだが、稜線沿いなら生息環境はどこでもあることと、時間短縮のため、左の巻き道へ進む。

林床はササに覆われ、コブ叩きには良さそうな環境が続く。今日の狙いではないので、網はしまったままひたすら歩く。

8時30分、ブナ坂に到着。周囲に生えるカラマツはまだ緑の葉が茂っている。

マルバダケブキはすでに種を残して枯れていた。

ここからは稜線歩きとなる。

道中には草がほとんど生えていない部分がそこそこある。歩いていくと、地面から虫が飛び立ち、少し離れた場所に着陸する。


ミヤマハンミョウ

夏に来た時より個体数は少なめ。気温が低いからか、動きはやや鈍い。

西の方を見ると、富士山がくっきりと見える。その向こうには南アルプスの山々もうっすらと見えるほど空は澄んでいる。

すでに生息エリアに入っているので、叩き網を広げて針葉樹の倒木を探しながら歩いていく。しかし、今年は台風が少なかったこともあり倒れている木そのものが少ない。

しばらく歩いて、ようやく最初の物件を見つける。シラビソの枝が折れてぶら下がっており、鮮度は十分とみた。そっと叩き網を忍ばせて、思い切り叩く。

しかし、狙いのカミキリは落ちてこない。代わりに、クチキウマの幼虫が落ちてきた。これも数年前までは東京都未記録だったが、個体数はかなり多いようだ。

まだまだ稜線は長いので、次の物件を求めて先へ進む。

次に見つけたのは、林内にあるカラマツの倒木。葉がほとんど落ちていて古いものだが、可能性に賭けて順番に叩いていく。


エゾサビカミキリ

カミキリムシはこの1匹だけだった。

もっと良い物件があればそこに必ずいるはずなので、先へ進む。

9時50分、奥多摩小屋に到着。小屋のそばに積まれた丸太は古いままで、今年は伐採が行われていないことを知る。意外と時間がかかってしまったので、休憩なしで先へ進む。

この先にある小雲取山までが採集可能エリアなので、ここからはじっくりと倒木を探すことにする。

亜高山帯らしい針葉樹主体の林が広がる。夏に来るとシラフヒゲナガカミキリが見られるエリアでもある。倒木は古いものを中心に点在しているので、なるべく新しいものを選んで近寄る。

まずは、このシラビソの倒木。葉がほぼ完全に落ちてしまっているが、枝はまだしっかり残っている。富士山での経験では期待できない物件ではあるが、一応叩いてみる。


フジコブヤハズカミキリ♀

今まで見つけた中では2番目の高標高。幼虫は針葉樹食いと言われているので、ブナ林よりも針葉樹林の方が住みやすいのかもしれない。

目当てのカミキリはやはり落ちなかったので、もっと新しい倒木を探して周囲を徘徊する。富士山での経験では、もっと葉がびっしりとついていることが最低条件。むしろ、まだ緑色の葉がついているくらいの新鮮なものの方が良い。そんな条件に当てはまるような倒木を、人為がない状態で探し出すのは足に頼るしかない。

探索すること20分、ついに絶好の倒木を発見。葉は茶色くなっているが、まだ新鮮なところを見ると倒れたのはここ1ヶ月くらいか。これでいなかったら、このエリアには生息していないと言えるほどの優良物件である。

叩き網ではとても一度にカバーできないので、他の部位に振動が伝わらないように注意しながら少しずつ叩いていく。


アイノシギゾウムシ

この木に実はついていないので、たまたま止まっていたのだろう。


セマルホソヒラタムシ

丸い前胸が特徴的で、そこそこの個体数が落ちてくる。

順番に叩いていくと、小さい甲虫はそこそこ落ちてくる。めぼしい枝はほとんど叩いてしまったが、肝心のカミキリムシはまったく落ちてこない。せっかく見つけた優良物件で1匹もいないとなると、この先は厳しい。そう思いながら、最後の一枝を思い切り叩く。

さて、どうだろうか・・・・。


シロオビドイカミキリ♂

ようやく、最初の1匹が見つかった。富士山で採集して以来、実に9年ぶりである。東京都初記録の地点から約5km、この稜線一帯に広く生息しているようだ。

さらに、ちょっと視野を広げると・・・・・・、


シロオビドイカミキリ♀

1ペアを一気に見つけることができた。これで、今日の目標は達成。ここまで登ってきた甲斐があった。

まだ帰るには時間があるので、少しだけ回り道をしてみる。


ヤハズハンノキ

ヤマハンノキに似ているが、葉先がへこんでいるのが特徴。ヤマハンノキよりも少ないが、このあたりにはまとまって生えている場所がある。

東京都では1例しか記録がないカミキリムシと関係が深い樹種という情報があるので、周囲にある枯葉を叩いてみるも、何も落ちてこない。日光ではわりと簡単に出会えたのだが、奥多摩では手強いようだ。これはまた、別の機会に改めて狙うことにしよう。

11時20分、小雲取山を出発。富士山を見ながら稜線沿いを歩いていく。

12時30分、七ツ石山山頂に到着。

七ツ石山直下の水場で水分補給してから下山開始。

来た道を淡々と引き返す。

13時50分、堂所に到着。少し休憩した後、先へ進む。

植林が終わり、広葉樹林の中を進むようになるとゴールはもうすぐ。

15時20分、バス停に到着。30分ほど待ってバスが来て、それに乗り込んで帰途についた。

今回のもうひとつの目的である足腰の確認結果

学生時代と比べて足腰の衰えが気になっていたが、帰宅後にコースタイムを計算してみると大して変わらなかった。

今回のタイム 鴨沢バス停→ブナ坂:2時間20分

2006年 鴨沢バス停→七ツ石山山頂:2時間30分

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