臨海地区の照葉樹林

2014.Feb 22

この前の記録的な大雪から約1週間。あれだけ積もった雪も平野部ではもうほとんど姿を消したが、山間部では未だに孤立集落が残るなど、依然として大きな影響が残っている。奥多摩も、高尾も、まだまだ入山できるような状況ではない。

ということで、原生林が残る奥多摩とは対極の、東京都臨海地区へ。これまでほとんど探索してこなかったので、きっと何か新しい発見があるだろう。


最寄り駅から歩いて10分ほどで、公園の入口に到着。雪は跡形もなく消えているが、あちこちに着雪で折れた枝がみられる。

広場には日差しが降り注ぎ、とても暖かい。草刈りがなされているため、越冬する直翅目昆虫を探すのには不向き。

草地は早々と諦めて、林内へ。スダジイ、クスノキ、イスノキ、カクレミノなどからなる照葉樹林。雑木林の成立以前は武蔵野一帯に広がっていたであろう、この地域の潜在的な植生だ。もっとも、ここはかつて海だった場所なので、古くからある林というわけではない。

今日の一番の目的は、この林床に眠るハナムグリ類。積もった落葉の下で、幼虫や土繭内の新成虫が静かに春を待っているはず。

ここぞという場所を選んで、落葉をかきわける。すると、見覚えのある粒状の物体がすぐに見つかった。

カブトムシ幼虫の糞をそのまま小さくしたような形。これが、今日の狙いのハナムグリ類の糞。そう古いものでもないので、幼虫が発生しているのは間違いない。

表層の土をかき分けると、幼虫の頭部の一部が見つかった。脱皮殻なのだろう、幼虫は近い。

さらに土をかき分けていくと、土繭が出てきた。この大きさからすると、昨年夏に確認した3種のうちどれだろうか。手に取って振ってみると、土繭の中で固い物が転がる感触があった。これは、もう成虫になっている証拠だ。試しに、ひとつ割ってみる。

フサフサの毛で覆われた、可愛らしいハナムグリが入っていた。


ナミハナムグリ

平地から丘陵地で、春から初夏にかけて見られるハナムグリ。昨年夏には発生が終了していたため、この場所では初めて見る。いつもの奥多摩ではよく似たアオハナムグリしか見ないので、とても新鮮。

この後、さらに土をかきわけていくが、土繭はあまり出てこない。もっと落葉が大量に積もっている場所なら幼虫の個体数も多くなるのだろうが、そんな場所は見たところなさそうだ。


オオヒラタシデムシ

他に出てきた甲虫はこの種のみ。林内で力尽きた野鳥をエサにして生き延びているのだろう。

落葉かきに見切りをつけ、今度は林内各地にある伐採木置き場へ。普通の雑木林だとカブトムシ幼虫が独占している場所だが、そんな強敵が生息していなければハナムグリ類の幼虫がたくさんいるはず。


アズマヒキガエル

伐採木を持ち上げると、大きな塊がゆっくりと動いた。近くに淡水池もあるので、生息は安泰なのだろう。足元にはハナムグリ幼虫の糞がすでに見えるので、カエルを避けつつ土をかきわけていく。

すぐに、白い塊が出現。

さきほどのナミハナムグリ成虫よりはるかに大きい。これは、この場所に生息する最大のハナムグリ、奄美原産、伊豆諸島経由のリュウキュウツヤハナムグリかもしれない。

土をかき分けていくと、次々と幼虫が出てくる。同様な場所は林内に多数あるため、相当な個体数が生息しているのだろう。


オオモンシロナガカメムシ

この伐採木置き場で見られた、その他唯一の昆虫。林床に生息し、落下した果実の汁を吸って生活している。

このあたりで昼になったので、ちょっと休憩。

トイレに行くが、電灯があるのであちこちに視線を向ける。


ヒロバフユエダシャク♂

外壁に静止していた。自己初撮影。


ウスバフユシャク♂

洗面台のそばに静止していた。

こんな埋立地にもフユシャクがいることに驚く。おそらく移植した木にたまたまついていて、環境も合って定着できたのだろう。

日当たりの良い場所ではウメが咲き始めている。春を感じさせる日差しを受けながら、昼食。

昼食後、探索再開。舗装道路に沿って進んでいくと、だんだん松が多くなっていく。沿岸部の公園ならではの樹種選びだ。

林内に足を踏み入れると、さきほどの場所に比べて地面が固い。これは、落葉の層が明らかに薄い。むやみに掘っても、ハナムグリ幼虫は見つからないだろう。逆に言えば、良い場所さえ見つければそこに集中しているので、効率はさきほどのポイントよりもはるかに良いはず。

そこで、松葉がまとまって積まれている場所に目をつける。道路に積もったものを集めてここに捨てたのだろう。手袋を着用して、慎重にかき分けていく。

さきほどの伐採木の下と同じような大きさの糞が出現。

そして、幼虫も出現。さきほどと異なり、体表面にかなり泥をかぶっている。おそらく毛の密度が違うためで、別種の可能性が高い。大きさは一回り小さいので、シラホシハナムグリかシロテンハナムグリのいずれかだろう。

夢中になって掘っているとあっという間に時間が経つ。日が傾くと急に冷えてくるので、そろそろ探索も終わりか・・・。

最後に、雪で折れたタブノキに注目。

すでに塞がった羽脱孔が無数にみられる。東京都では臨海地区のみに生息する、ホシベニカミキリの仕業だ。

実はこのホシベニカミキリ、日本産大型種では数少ない成虫越冬である。幹が膨らんだ部分に蛹室が形成されているはずなので、ナタを取り出して、ここぞという場所を削っていく。

細長い繊維状の木屑とともに、赤い虫影が現れた。


ホシベニカミキリ♀

真冬に見ると、より一層鮮やか。

さらに、そのすぐ裏側に、もう1個体。


ホシベニカミキリ♂

右の触角がだいぶひどい状態だが、1ペア採れたのでこれで良し。

もともと海だった、人為的に作られた照葉樹林ではあるが、意外と楽しむことができた。満足感とともに、気温が下がり始めた臨海地区を後にした。

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