2015.Jan.22
「にわかゴミムシ屋」の看板をちょっと降ろして、今度は「にわかオサムシ屋」の看板を背負う。今回の目的地は、同じ千葉県内でも対極にある南房総。この地域には2つの特産オサムシが分布している。
1.アカオサムシ(アオオサムシ南房総亜種)
名前のとおり赤い体色が最大の特徴。平野部を中心に生息している。
2.アワカズサオサムシ(ルイスオサムシ安房上総亜種)
体色はルイスオサムシと同じ。丘陵地~低山地の森林に生息している。
どちらも南房総には広く分布し、生息地での個体数は多い。両者とも越冬は崖の中で行い、林縁部に多いらしい。
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成田からはちょっと距離があるので、最初は確実な生息地を求めて少し調べてみた。すると、遠方から来る人の“有名採集地”がいくつかあるようだが、そこではオサ掘りによる景観への悪影響がひどいらしい。学生時代にオサ掘りをしていてふとつぶやいた言葉が、頭の中で何度も響く。
「朽木は再生産されるが、崖はそうはいかない」
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社会人になるとどうしても「確実性」を重視してしまいがちだが、夏にトラップを仕掛ければ山ほど採れるような普通種を、わざわざ有名採集地で採ろうと少しでも考えた自分が、実に恥ずかしい。分布域ならどこでもいて個体数も多いのだから、適当に行っても出会えるはず。好きな昆虫採集なのだから、自分の採集方針に従って自分の思うようにやろう。出発前夜に地形図と道路地図と航空写真を見比べて、行先を決めて眠りについた。
朝5時に起床、身支度を整えて出発し、高速道路をひたすら南下する。天気予報では昼までには雨が降り始めるらしいので、午前中の早い時間帯が勝負。
午前7時50分、最初の目的地である林道に到着。空は雲に覆われているが、まだ雨は降っていない。道沿いで良さそうな崖を探して、ゆっくり車を走らせる。
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山頂の少し手前で、良さそうな崖を発見。背後の林の影が崖の右半分を覆っていて、なかなか良い感じ。長靴に履き替え、手鍬を持って斜面を登る。
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崖の上部からは草木や根が垂れ下がっていて、雨があまりかからず乾燥気味。
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その裏側に手鍬を入れてみると、根がびっしりと入り込んでいる。適度な湿り気もあり、オサムシの越冬には好適な状態になっている。手応えを感じながら少し掘ると、すぐに越冬窩が出現した。
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大きさはルイスオサムシと同じくらいなので、狙い通り。ちょっと傷つけてしまったようだが、大丈夫か・・・・。
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アワカズサオサムシ♂
到着後5分で最初の1匹。残念ながら脚部を損傷させてしまった。
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ここにいることはわかったので、あとは慎重に掘り進めていく。2~3秒に1回のペースで手鍬を入れ、崩れた土と崖を同時に見て虫影を探す。
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今度は崩れ落ちていく土の中に、違う色のものを発見。
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今度はメス。
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再び掘り始めると、またも崩れた土の上を虫が歩く。
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オサ掘りというと越冬窩の中のオサムシを見つけるというイメージがあるかもしれないが、実際には崩れた土の中からオサムシを発見することが多かったりする。
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越冬窩の中のオサムシを見たいと思ったら、手鍬をゆっくり動かして少しずつ崖を削っていく。
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そうすれば、必ずこちら側を向いて鎮座しているオサムシの姿を見ることができる。
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9時20分、ある程度採集したところで出発。すでに雨は降り出しているが、幸いにも気温が高めなので苦にはならない。
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次はアカオサムシを求めて、平野部の林縁をウロウロ。
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谷戸の斜面を登っていくと、良さそうな崖は見つからないままミカン畑に出る。
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別の斜面を登っていくと、アオオサ好みの低い崖が見つかるが何も出ず。
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思い切って場所を移動し、長い谷戸の奥へ伸びる林道を進む。良さそうな崖を見つけ、早速掘ってみる。
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すぐに、オサムシが落ちてきた。
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しかし、アワカズサオサムシ。標高で棲み分けという話があるけど、実際はあまり関係ないかも。気がつくと雨がだいぶ強くなっていたので、ひとまず撤退する。
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昼食後、また別の谷戸へ。湿地帯と化した放棄水田が延々と続き、湿地性ゴミムシには良さそうな環境。しかし、今日の狙いはオサムシ。
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道沿いに崖を発見。固い部分を避け、根が絡んで少し柔らかくなった場所に手鍬を入れる。
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しかし、またしてもアワカズサオサムシ。もう、標高棲み分けなんて関係ない。東京多摩地域でアオオサとエサキが一緒にいるのと同じ。
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さらに谷戸の奥へと進むが、めぼしいポイントも見つからないまま道は行き止まり。13時を過ぎ、北風で気温がだんだん低下してきたのがわかる。もう帰途につくべきか、もう少し粘るべきか、葛藤が始まる
車の近くまで戻って来たところで、谷戸の入口近くにあった階段の存在を思い出す。
たぶん小さな祠がその先の林の中にあるのだろう。なんとなく、登ってみることにした。
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急な階段を登りきると、右手には脇道。分岐に生えていたカシ類の根元は小規模な崖になっている。
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これを見て、無意識のうちに根の下に手鍬を入れていた。次の瞬間に頭の中に蘇ったのは、学生時代のある冬の、農工大構内での出来事。林の中のわずかな傾斜に顔を出す木の根、その脇を掘ると緑色に輝くオサムシが眠っていたのだった。
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そして、崩れ落ちた土を見る。
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石とは明らかに違う、赤味を帯びた虫影。
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そして、今日これまで見たオサムシよりも一回り大きい。
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アカオサムシ♂
ようやくお目にかかることができた。この角度だと色があまり良くないが、実物は実に綺麗な赤色。
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さらに、根に沿って軽く掘っていく。
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今度は越冬窩が現れた。新しいカメラの機能のひとつ、LEDライトを照射。
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アカオサムシ♀
落ち着いた赤色で、実に素晴らしい。こういうちょっとした場所で越冬できるから、アオオサは市街地の残存林でも健在。その亜種であるアカオサも、また同じ。
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その後、さらに2匹追加。これだけ採れれば今日はもう満足。尾根沿いの道に戻り、祠の前で一礼してから車に戻る。
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雨が激しくなる中、帰途についた。