奥多摩:ミズナラ林の夏

2015.Jul.22

7月も下旬になり、梅雨明け後の厳しい暑さが続く今日この頃。前回の奥多摩探索では、いつものノリウツギはすでに蕾が膨らんでいた。例年なら8月上旬に開花だが、この様子だと7月中に満開になるのは間違いない。さらに、この時期はミズナラ立ち枯れでヒゲジロホソコバネカミキリも狙えるはず。運良く平日が休みに当たっていたので、寝袋を持って奥多摩へと出発した。


前回よりもさらに1本早い電車で、22時に奥多摩駅到着。

蛾像収集のためいつもの場所へ。前回、照明が変わっているような気がして虫の飛来が心配だったが、今夜はそこそこ蛾が集まってきている。そうなると、トンネルのすぐ近くの外灯が前回から消えたままなので、飛来数の減少はこれによるところが大きいのかもしれない。


ツマオビホソハマキ

今夜の新顔のひとつ。


モントガリバ

近年よく見るようになったが、ただの偶然だろうか。

1時間足らずで切り上げて、眠りにつく。

翌朝、4時起床。出発前にもう一度トンネルへ。

ヤハズカミキリが来ていた。

始発バスに一人乗りこみ、最奥の集落へ。

バス停から集落を抜けて登山口を目指す。


谷の様子

前回とあまり変わらない。

7時5分、登山口から尾根を目指して黙々と歩く。

最初のうちは日陰だが、標高が上がるにつれて太陽が当たるようになる。

7時40分、尾根に出る。このペースでは花掬いには早すぎるので、ミズナラの立ち枯れを見ながら歩く。


ミズナラの立ち枯れ(その1)

何もいないので先へ進む。


ミズナラの立ち枯れ(その2)

ここはハナアブが根元にいたくらい。

この他にも何本か立ち枯れを見たが、虫の気配はなし。

何も採らないまま、ここまで来てしまった。林内に届く木漏れ日の面積は前回よりもさらに小さくなった気がする。この先にも立ち枯れはそこそこあるので、しっかり見ながら歩くことにしよう。

しばらく歩くと、薄暗い林内にぽっかりと明るいスポットが出現。こういうところには何かいることが多いので近寄ってみる。

1匹の小さな蝶が枯葉の上に止まっていた。


フジミドリシジミ♀

夏に現れる、ブナ林の宝石。林道上に降りてきた♀を見たのはもう10年以上前になるだろうか。しばらく撮影していると気配に気づいて飛んで行ってしまった。なかなかお目にかかれないので、こうして撮影できただけでうれしい。

この調子で原生林の虫たちと出会うべく、先へ進む。


ミズナラの倒木(その1)

ちょっと乾燥しすぎなのだろうか、虫の気配なし。


ミズナラの立ち枯れ

ちょっと日当たりが悪いからか、虫の気配なし。

そうこうしているうちに、ノリウツギが近づいてきた。時間は9時ちょうど、もう花掬いには良い時間だ。でも、立ち枯れをひととおり見てから。


ミズナラ立ち枯れ

やはり虫の気配なし。


ダケカンバ倒木

ムシヒキアブ類が日向で縄張りをはっているくらい。


ミズナラの立ち枯れ

上の方は日が当たっていて良さそうな感じなのだが、何もいない。

立ち枯れはだいたい見てしまったので、ノリウツギへと向かう。

さて、開花予想は当たっているだろうか。

花は七分咲き、ほぼ予想通り。

上の方は日が当たっており、すでに虫が飛び回っている。さっそく長竿を伸ばし、掬ってみる。

前回のクリの花掬いと違い、虫がたくさん入る。


ヨツスジハナカミキリ

いつもは無数に飛んでくるのだが、個体数は少なめ。


ミヤマクロハナカミキリ

こちらはいつも通り個体数多い。


フタスジハナカミキリ

ヨツスジハナカミキリよりも個体数は少ない。


マツシタトラカミキリ

夏のミズナラ林を代表するトラカミキリ。


キヌツヤハナカミキリ

ブナ立ち枯れでよく見るが、午前中は花によく来る。

ノリウツギの常連の顔ぶれは今年も健在。まだ直射日光がそこまできつくないので、掬っても次々と虫が飛んでくる。<飛翔姿で種類をだいたい見極めつつ、本日未採集の種を選んで掬う。


フタコブルリハナカミキリ

よく似たアオジョウカイとは飛び方が違うのですぐにわかった。

しばらくして、細長いカミキリムシが花の上を歩いているのが見えた。これはもしかして、奥多摩の夢のひとつ、未だに1例しか採集記録がない大珍品か。慎重に網を動かし、確実に網内に落ちるように振ってから手元に引き寄せる。


ミドリカミキリ

やはり、夢はそう簡単に現実のものにはならない。今までも、細いカミキリムシはだいたいこれに化けてきた。

10時になり、株全体に日が当たるようになってきた。こんなに良い天気なのに、執拗に襲い掛かってくるブユ。年々増えており、花掬いの時の悩みの種。刺されないように振り払いながら、花掬いを続ける。


ムツボシハチモドキハナアブ

腰のくびれまで忠実に再現した見事な擬態。飛び方でハナアブということはすぐわかるので、狙って掬うのはやりやすい。


トゲヒゲトラカミキリ

暑くなってきてトラカミキリも活発に動き出したようだ。


マルガタハナカミキリ

ちょっと斑紋が変わっているような気がしたので採集。

暑くなってきたからか、虫の飛来ペースが急に落ちてきた。ここからは林内の探索も交えつつ、花に虫が溜まったところで掬うことにしよう。


ブナの樹洞

状態が良いので来るたびに中を覗いているが、今まで良い虫がいた試しがない。今日はどうだろうか。


ムツモンミツギリゾウムシ


オオキノコムシ

今日はいつもと違って良い虫がいた。時期的な問題なのだろうか。

その後、立ち枯れをいくつか見たが特に成果はなし。ノリウツギのもとへ戻る。

日差しはさらに強くなり、白い花がさらに輝きを増している。虫はあまり飛んでいないようだが、ひととおり掬ってみる。


ベニモンツノカメムシの一種

なかなかの美麗種なので迷わず採集。近似種がいるようなので、あとでカメムシ図鑑第3巻でじっくり同定することにしよう。


キスジトラカミキリ

暑くて他のカミキリムシが飛んでこないような時によく網に入る。


コウヤホソハナカミキリ

この場所ではあまり個体数は多くないので、網に入るとうれしい。

そして、このひと掬いでひときわ大きい虫が網の底に入っていた。


オオヨツスジハナカミキリ

実は、奥多摩自己初採集。全国的には普通種なのだが、今までなぜか縁がなかった。ようやく出会えた個体は前胸がオレンジ色でなかなか美しい。

この時点で、11時ちょうど。いつもよりちょっと早めに風が出てきた。こうなると虫の飛来はまた少なくなるので、また林内に戻る。

さきほどと同じ立ち枯れをもう一度見てみるが、虫の姿はなし。一体、どこへ行ってしまったのだろうか。

周囲を探索していると、材部がむき出しになった木を発見。樹種はシナノキ。

特に何かいるような気もしなかったので、何気なく覗き込む。すると、影になった材部に甲虫の腹部が横向きで見えた。丸々と太っていて、第一印象はキマワリの仲間。でも、この形は今まで見たことがないし、図鑑に載っている種で該当しそうなものは思い浮かばない。

一体、何者なのか。

暗がりに眼が慣れて、色がはっきり見えるようになった瞬間、その正体がわかった。そして、その腹の持ち主がこちらを向いた。

頭と胸が赤みを帯びているのがわかる。


ヒゲブトハナカミキリ

学生時代から探していた、奥多摩の夢のひとつ。このエリアにいることはわかっていたが、ようやく出会えた。

それにしても、もっとしっかりした樹洞に鎮座している姿をイメージしていただけに、「こんなところで良いのか」というのが率直な感想。しかし、写真を撮るにはこういうところの方が都合が良い。もっと良い生態写真を撮りたい、そう思って撮影を続けようとしたが、気配に気づいて、材に空いた穴の中に隠れてしまった。

このまま逃げられてしまうわけにはいかない。急いで穴の周囲を指で割ってみるが、焦ってやると失敗しやすくなるもの。穴は予想外に浅く、ヒゲブトハナカミキリはすぐに姿を現したものの、腹部と上翅にダメージを与えてしまった・・・。

採集して手づかみ撮影。腹部からは卵が飛び出し、左上翅端が欠けてしまっている。さらにこの後、左後脛節以下も欠けてしまった。せっかく出会えたというのに、こんな姿にしてしまってとても罪悪感が残る。それでも、貴重な1個体には変わりないので大事に持って帰る。

再びノリウツギに戻ると、太陽が雲に隠れていた。虫の飛来には少し条件が良くなったが、風は相変わらず吹き続けている。もうそろそろ潮時かなと思いつつ、とりあえずひと掬い。

ヤツボシハナカミキリかツマグロハナカミキリのどちらか。このタイプはここでは初めてかもしれない。


ヒメヒラタタマムシ

まだ発生していることに驚いた。

時間は12時半、花掬いはもう十分だろう。ここからは立ち枯れと倒木に狙いを変える。上に行くか、下に行くか迷ったが、今まであまり見てこなかった上の立ち枯れを見に行くことにする。

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