奥多摩:ブナ林と沢筋

2015.Aug.16

8月も中旬になり、亜高山帯でもカミキリムシの花掬いシーズンは終了。そろそろ秋の準備が始まる気配を感じつつ、まだまだ動き回る夏の虫を追いかける時期。まだ見ぬカミキリムシに出会うため、今回はブナ林と沢筋に行くことにした。

狙いはどちらも大型美麗種で、ブナ林は霜降り模様、沢筋は青緑色の輝き。奥多摩での過去の記録はあり、先輩は近年この両種を確認しているが、普通はそう簡単にお目にかかれるものではない。それでも、何度も挑戦していればいつかは出会えるはず。ということで、まずは近年の発生状況を確認することにした。


成田を早朝に出発し、臨時バスで最奥の集落へ。

休日ということで、橋の手前では駐車場待ちの車が並ぶ。


谷の様子

まだ緑が濃いが、夏の疲れが見える木もある。

いつもの登山口から登り始める。

40分ほどで尾根筋に到着。まずはブナの精霊を探すため、場所を少し移動する。

このあたりはミズナラ林のイメージが強いが、風通しの良い斜面にはブナとイヌブナがそこそこ生えている。精霊の発生痕跡をつかむため、1本ずつ見ていく。

何本目かで、羽化脱出孔を発見。すでに苔に覆われつつあり、昨年あたりのものだろうか。精霊に出会うためには今年の脱出孔を見つけることが大事なので、次の木へ。

しばらく探すと、別の木でも羽化脱出孔を発見。形はきれいだが断面は古く、今年のものではなさそうだ。今年の発生エリアを求めて、さらに探索範囲を広げていく。

斜面を移動していると、地面に穴が掘られている場所を発見。その正体はわかっているので、刺激を与えないよう静かに近づく。

穴の奥にはハチの巣が見える。クロスズメバチ類の巣をツキノワグマが掘り起こしたのだ。この場所でもまだまだ健在ということで一安心。

落ちていた瀕死のハチを拾って、種名確認。巣の持ち主はシダクロスズメバチと判明。

まだツキノワグマが立ち去ってから時間が経っていないのだろう、巣から放り出された幼虫があちこちに散らばっている。どこからともなくキイロスズメバチが現れ、幼虫をくわえて飛び去って行った。少し観察した後、ブナ巡りを再開する。

このあたりでは、ブナはある程度まとまって生えていることが多い。ここもブナがそこそこ生えているので、根元を順番に見ていく。

しかし、ここは羽化脱出孔はまったく見当たらない。


ミヤマクワガタ♀

今日初めて見る大きめの甲虫。舗装道路上では灯火に飛来した個体を良く見るが、苔の上で見るとやはり迫力が違う。

ブナの精霊の気配はつかめないまま、探索開始から1時間が経過。そろそろ集中力が切れてきたのだろう、足が自然と立ち枯れに向く。

ここぞという部分の樹皮を剥がす。


コバネカミキリ

実はあまり遭遇したことがないカミキリムシのひとつ。やっとまともな生態写真を撮ることができて良かった。

他にも小さな甲虫をいくつか撮影・採集して、この立ち枯れを後にする。

いつの間にかブナが多いエリアの端まで来ていた。この木が最後の1本だが、今までと同様に気配なし。次のエリアは少し離れているので、歩きやすいルートで移動する。

このあたりからミズナラが増えてくるが、場所によってはブナの本数も多い。

このように至近距離で大木が2本そびえ立つところもあったりする。

次の探索はこのあたりに決定。斜面に点在するブナを順番に見ていく。

根元ばかりでなく、幹の上の方も見てみる。すると、黒い虫影が細い木と幹の間で休んでいるのを発見。


アカアシクワガタ♀

お馴染みの種ではあるが、久しぶりに見るとこの赤がとても鮮やかに見える。ヒメオオを期待したが、そう簡単に出会える種ではない。

ブナの大木をくまなく見ていくが、羽化脱出孔すらなかなか見つからない。先輩が精霊に出会ったという木も見てみたが、姿はなし。

ようやく羽化脱出孔を見つけたのはこの木。

これは今年のものだろう。しかし、脱出から結構時間が経っているようで、今日出会えるという予感はまったく感じられない。

その後も少し探すが、追加の羽化脱出孔は見つからなかった。東京都の有名生息地とは違って、ここは広大な原生林。密度がかなり低いので、そう簡単に出会えるものではない。

今回は諦め、沢筋の方へ移動することにする。

その、沢筋へ移動する途中の出来事だった。普段あまり通らないルートを歩いていたら、視界の左側に昨年見た光景が現れた。

ごく狭い範囲で、モミとツガに新鮮な羽化脱出孔が4つも。この広い原生林の中で毎年のように発生場所が変わるとみていたが、今年はここで発生していたとは...。完全に盲点だった。しかも、もう出た後とは、早すぎる。

あいにく空は雲に覆われており、樹冠の世界から降臨するような状況ではない。きっと今もあそこで悠々と歩き回っているのだろう。これは、日を改めて出直すしかない。

寄り道は終わりにして、谷筋へ移動する。

淡々と歩いて、谷筋に到着。以前に比べて下草が多くなっているが、シカが食べない草ばかり。

記憶をたどり、先輩が精霊に出会ったというオニグルミに到達。

樹皮には古い羽化脱出孔が残っていた。当時は衰弱木だったようだが、今は完全な立ち枯れ。精霊が飛来する木を新たに探さなければならない。

衰弱木を探しながら沢筋を登っていくが、サワグルミはどれも健全。この沢はかなり浅く、衰弱木を見つけられないまま行き詰まってしまった。飛来する木さえ見つけられれば出会うのはそう難しくないのだが、広い原生林の中で毎年どこかに発生する衰弱木・倒木を見つけ、到達することが難しい。伐採という人為がなく、立ち入り制限まで出来てしまった現在、出会うまでには長期的な探索が必要かもしれない。

舗装道路に戻ってきたのは16時半過ぎ。日が傾くのが早くなってきた気がする。

集落ではニラの花が咲き始めた。夏はもう終わりつつある。

ブナの精霊も、サワグルミの精霊も、とりあえず来年。モミ林の大物に出会うまで、夏は待ってくれるだろうか。

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