奥多摩:モミとツガと秋の気配

2015.Aug.19

前回の探索では、モミ林の大物であるオオトラカミキリの新鮮な羽化脱出孔を複数発見。奥多摩ではあちこちに点在するモミ・ツガ群落を転々としているらしいのだが、今年は到達できるエリアで発生していることがわかった。

「奥多摩の夢」の中でも難易度が高く、成虫はそう簡単にお目にかかれるものではない。それでも、発生時期に発生場所に身を置けば、出会えるかもしれない。予報では天気は思わしくないようだが、ダメもとで行ってみることにした。


前回と同じく成田を早朝に出発し、奥多摩駅に到着。

バス発車まで時間があるので、蛾像収集へ。


アシブトチズモンアオシャク

緑色が鮮やかなので、見つけたら大抵撮影している。


セスジササキリモドキ

これも緑色が美しかったので撮影。

日が高く昇っているので、さすがに居残り蛾は少ない。そこそこで切り上げて、バスに乗り込む。

休日なので一気に谷まで到着。景色は3日前と特に変わらない。空は雲が多く、気温も高くない。条件としてはあまり良くないが、昨年の経験からすると絶望的というほどではない。

到着してからの天気でどうするか考えることにして、いつもの登山口から登り始める。

林内は湿度が高く、登っていくと汗が噴き出る。少しだけ木漏れ日が強くなってきた気がするが、いつまで持つだろうか。

11時50分、ようやくポイントに到着。日が幹に当たっていて暑そうに見えるが、実際は気温はあまり高くない。荷物を置き、長竿だけ持って状況を確認する。

前回見つけた羽化脱出孔の位置も再確認。もう分散してしまったか、この周辺にまだ残っているか、それはわからない。後者に期待して、樹冠から降りて来そうな樹を巡回していく。

このモミはすでに樹冠部が衰弱していて葉がほとんどない。昨年だったらもっとも確率が高かっただろうが、今はもう望み薄だろう。

このツガ、なんとなく良さそうだがもう少し日が当たっていてほしいところ。灼熱の猛暑日なら降りてくるかもしれないが、今日は厳しいか・・・。

そうこうしているうちに雲が空を覆い尽くす。そして、いつものように風が吹き始めた。秋の気配を感じさせる、実に爽やかな風。噴出した汗がみるみるうちに乾いていく。

まだ活動時期だと思うが、これでは降りてくる個体は望むべくもない。

1時間ほど巡回してみたが、モミやツガの樹幹には虎模様の姿はなし。そして、雲は青空を覆い隠したままで、風はますます涼しくなっていく。今年の運はもう、亜高山帯で使い果たしてしまったのかもしれない。

このまま長居しても状況は変わらないとみて、下山する。

途中、モミの大木が生えているギャップで悪あがき。樹冠からじっくり見ていくと、根元で何かが動いていた。動き方からすると、カミキリムシ、しかもトラカミキリのようだ...。もしかして、もしかして、でも、奥多摩の夢はそう甘くはないはず...。


ニイジマトラカミキリ

やはり、運は残っていなかったらしい。それにしても、こんな時期に出会うとは思ってもいなかった。遅い出現記録として確保し、下山を続ける。

舗装道路に戻ってくると、休日ということで観光客が多い。

せっかく奥多摩まで来たのにほとんど何も採らずに帰るのはもったいない。人が来ない道へ移動し、ビーティングを始める。狙いは、かつて1回だけ採集したことがある南方系のカミキリ。このあたりでは集落と舗装道路沿いだけに見られるクズを狙って、しつこく叩いていく。

しばらくして、ようやく落ちてきた。

小枝の切れ端に擬態して、じっと動かない。


コブスジサビカミキリ

奥多摩では2003年5月以来、実に12年ぶりの再会。虫屋2年目のあの時は何も知らずスウィーピングしていて網に入った。道路ができるまではクズはこのあたりになかったとみられるので、人為によって進出してきたカミキリムシのひとつだろう。新成虫は秋に出現し、そのまま越冬して翌年春に産卵する。この個体は早くも秋を感じて出てきたのかもしれない。

さらにビーティングを続けると、意外といろいろな虫が落ちてくる。


ハラビロマキバサシガメ

枯葉つき枯枝のビーティングでおなじみのマキバサシガメ。翅が短いが、これでも成虫。


クロオビセマルホソヒラタムシ

小さい甲虫はあまり手を出してこなかったので、実は初採集。


オオメダカナガカメムシ

クワに集まるメダカナガカメムシ科の一種。初めて見た時には科がわからなかった...。


ウラギンシジミ幼虫

前後がわかりにくい姿をしているが、右側が頭部。そろそろ蛹になる頃だろう。成虫が出てくると、いよいよ秋。


トガリシロオビサビカミキリ

これもこの時期に見られるとはちょっと意外。奥多摩では久しぶりに見る。

結局、奥多摩の夢はまた来年に持ち越し。8月は3回も奥多摩に来てしまったので、晩秋の材採集までしばらくお休み。

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