奥多摩:秋の足音

2015.Oct.10

10月になり、高い山からは紅葉の便りが届く今日この頃。奥多摩でも亜高山帯の木々は色づき始めているらしい。秋の虫を探しに行くのにはそろそろ良い頃だろう。

この時期だとカミキリ屋さんならコブ叩きが定番だが、今回は成虫越冬する小さなカミキリムシが狙い。隣接地域での分布状況を分析してみると、奥多摩での生息は確実な東京都未記録種がいくつか残されている。そのうちのひとつくらいには出会いたいところだ。


成田から始発電車に乗って3時間半、奥多摩駅に到着。3連休の初日ということもあり、登山客で溢れかえっている。第3便の直前に臨時便1台が出て、第3便も2台で出発。それでも車内は満員という盛況ぶり。

終点のバス停を降りて、集落の中を歩いていく。


谷の様子

トチノキは葉が色づいてきており、他の木々も秋色に変わる気配がみられる。

今日は高い所まで登ってから叩き始める予定。やや喘息気味で心肺能力が低下しているので、ペースを落としつつ黙々と登る。

30分ほどで尾根に出る。樹種によっては淡く色づき始めている。

ミズナラの根元にはドングリがたくさん。今まであまり注目していなかっただけかもしれないが、例年になく数が多い気がする。

夏にルリボシカミキリがいる確率が高いブナの立ち枯れはとうとう折れてしまった。広い原生林の中で、来年はまた新しい木を探すことにしよう。

ミズナラ林の中を静かに進んでいく。まだ夏のような景色に見えるが、落葉が少し厚くなっているのがわかるだろうか。

スズタケが消滅して久しい尾根筋は今年も乾燥が厳しい。それでも、地形の関係で湿度が高くなるエリアはいくつか残されている。湿気を好む虫たちはそういう場所に集まって、なんとか世代をつないでいる。

ただ、そのエリアも年によって広さがかなり変わる。例年ならコブヤハズカミキリがいそうなこの枯葉に何もいないことは、もはや叩くまでもなくわかってしまう。今日の狙いはコブヤハズではないので、深追いはせず先へ進む。

登山開始から2時間ほどで、ようやく目的地に近づいてきた。ここまで来れば、あとは平坦な道なので一安心。

そして、今日の探索開始場所であるダケカンバの倒木に到着。この夏にツマキトラカミキリに出会った場所だ。

ビーティングネットを広げ、くまなく叩いていく。


ウスイロヒラタナガカメムシ

カバノキ科の実から吸汁するらしい。


チャグロマグソコガネ

移動途中に枝で休んでいたのだろう。


ノコギリホソカタムシ

青森から南西諸島まで幅広く分布しており、奥多摩でも2回目の遭遇。

ひととおり叩いたものの、狙いの成虫越冬するカミキリムシはみつからない。もう少し早い時期の方が良いのだろうか...。

天候もあまり良くないので、下山しながら気になる場所を叩いていくことにする。

このあたりまで来ると、綺麗に色づいている木々もそこそこ見られる。

緑の中に浮かぶ赤はひときわ目立つ。標高が下がるにつれて、赤や黄色のコントラストは曖昧になっていく。

めぼしい倒木を見つけては叩いてみるが、落ちてくるのはチャタテムシばかり。2mm以上の甲虫となると、個体数はかなり少ない。

だいぶ降りてきたところで、こんな場所を叩いてみる。


クモノスモンサビカミキリ

成虫越冬することで有名な、ちょっとおしゃれなカミキリムシ。1cmに満たないのだが、今日は非常に大きく見える。


ユリコヒメクチカクシゾウムシ

これも1cm未満。奥多摩では時々見かける。

続いて、このミズナラの倒木。夏にはナガタマムシが来ていたので、そこそこ新しい。


メダカヒメヒラタホソカタムシ

3mmほどのホソカタムシの仲間。個体数は多かった。

その後、特に追加もないまま植林帯との境目を降りていく。


セアカホソクチゾウムシ

真っ赤な上翅が印象的なホソクチゾウムシ。撮影後に周囲を叩いてみたが、落ちてきたのはこの1個体だけだった。

14時20分、尾根沿いを離れて下山ルートへ。このまま帰るのももったいないので、前回の探索時に目星をつけた場所へ。

途中でルートを外れ、モミが生える小さな尾根へ。

前回見つけたのはこのモミの立ち枯れ。樹皮を少し剥がすとヒゲナガカミキリ幼虫の食痕が目立ったが、その中にハナカミキリ亜科の幼虫がいたので、そっと戻しておいたのだ。

冬に樹皮を剥がして越冬成虫を見つけるのが定番だが、そろそろ成虫になっているはずなので、一足先に探してみよう。足元に落とすと発見不可能となるので、慎重に樹皮を剥がしていく。

すると間もなく、成虫が姿を現した。


ホンドニセハイイロハナカミキリ♀

奥多摩では2回目の遭遇となる。このエリアでは初めて。1cmを超え、今日見る甲虫の中では桁違いに大きい。前回の標高1700m地点での個体とは若干雰囲気が異なり、高尾山で見られる個体によく似ている。

さらに、追加を求めてもう少し樹皮を剥がす。


ホンドニセハイイロハナカミキリ♂

これで1ペア揃った。残りの樹皮はそのままにしておこう。

15時半、舗装道路まで戻ってくる。バス停までゆっくり戻って、16時台のバスで帰途につく。

集落ではコスモスの花が見頃を迎えていた。

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