奥多摩:尾根筋の材拾い

2015.Nov.27

11月も下旬になり、長い冬もすぐそこまで来ている。すべてが凍り付く前に、少しだけ材採集をしておくことにしよう。いつもと違う顔ぶれを見るため、今回はちょっと違う場所に行くことにした。来シーズンの下見も兼ねて、今年最後の奥多摩へ。


日付が変わる頃、終電で奥多摩駅に到着。蛾像収集は夜明けにすることにして、すぐに就寝。

翌朝、5時起床。寝袋をたたんで出発。

豆腐屋さんから噴き出す湯気を吸い込みつつ、いつもの場所へ。

まだ空は真っ暗で、遠方には集落の明かりもよく見える。今夜はかなり冷え込んだので、蛾の種数も個体数も少ないだろう。小さいものも見逃さないよう丹念に見ていく。


マエグロシラオビアカガネヨトウ

かなり新鮮な個体でとても美しい。


ヒマラヤハガタヨトウ

少し鱗粉が落ちている個体。


マエアカスカシノメイガ

平地ではよく見るが、奥多摩では初めて見る。

かなりじっくり見て回ったが、わずか3個体しか発見できず。今まででの最小の個体数となった。

駅への帰り道、西の空には満月がさんさんと輝いていた。この明るさでは、蛍光灯など相手になるはずもない。

駅に戻っても、まだ空は真っ暗。

学生時代は駅の灯火にもそこそこ蛾が飛んできていた。しかし、いつ頃からか電灯が変わり、それから蛾はほとんど来なくなった。今日も、その姿はまったく見当たらない。

「飛んで火に入る夏の虫」、今まで当たり前だったことが省エネという時代の流れでいずれ消えていくことになるのだろう。でも、蛾にとっては、きっとこの方が良いに違いない。

バスの発車時刻が近づいてきて、ようやく空が明るくなってきた。始発バスに乗って、いつもの集落へ。

集落にある八重桜はすっかり葉を落としている。

山は完全に冬景色で、高いところは白くなっている。

道沿いは落葉した木が多いものの、鮮やかな赤や黄色の葉も時折見える。


谷の様子

北側は完全に落葉しているが、南側はまだ紅葉の名残がある。

道路沿いの外灯を見ながら歩いていくと、冬に出現するシャクガが結構見つかる。


ミドリアキナミシャク

薄い緑色がなかなか渋い。


イチモジフユナミシャク

一文字の黒い帯が特徴。


ナカオビアキナミシャク

原生林の中で見たことはあるが、道路沿いで見るのは初めて。

蛾像収集はここまでにして、登山口へ。

登山口につく手前でアカジマトラが入ったケヤキ材を拾ったりしていると、後ろから歩いてきた猟師さんに話しかけられる。猟の事故を避けるために行先を知りたいようだ。

「ひとつ先の登山口から登る」と言っただけで私のルートはわかったようで、さらに奥の方へと歩いていった。

普通に歩いていると気づかないような小道がこのあたりには結構ある。今回の登山口は特有の目印があるのでわかりやすい方だが、学生時代には全く気付いていなかった。

少し登り、1つ目の分岐は左へ。

ここから先は未踏の道。

二つ目の分岐も左へ。右の道も面白いらしいが、時間の都合で今回は断念。

しばらく登ると、ようやく日が当たるようになってきた。

ミズナラの巨木も現れるようになってきたところで、材を探し始める。

落葉が敷き詰められた林床を見渡し、落枝を探す。

まずは、ミズナラの小枝。昔、ちょっと良いトラカミキリが入っていたのもこんな感じの枝だった。

しかし、すでに羽化脱出した後だった。この枝の状態を1年ほど遡った枝を探さなければならない。

少し登ると、倒木を発見。ミズナラのようだ。

しかし、近寄って見て最初に気になったのは別の樹種。巻き添えで折れたモミの枝。樹皮が浮いていたのでそっと剥がしてみる。

樹皮下にはハナカミキリの幼虫が潜んでいた。おそらくRhagiumだろう。樹皮を元に戻して、ノコギリで枝を切って持ち帰る。

ミズナラも調べてみたが、あまりおもわしくなかったので先へ進む。

少し登ると、またミズナラの倒木を発見。今度はどうだろうか。

眼をつけたのは、この枝。とりあえず、樹皮を剥がしてみる。

食痕とともに白い幼虫が姿を現した。しかし、狙いの虫とは少し食い方が違う。

よく見るとカミキリムシの体ではなく、腹端に1対の突起が生えている。何になるかわからないが、とりあえず枝ごと持ち帰ることにしよう。

(帰宅後に調べたところ、ナガタマムシの幼虫らしいということが判明)

ノコギリで枝を切って、この先も持ち帰るかどうか判断するため断面を確認。すると、樹皮下に別の食痕があることに気づいた。

今度はカミキリムシの幼虫に間違いない。顔を確かめれば亜科くらいはすぐわかるが、今日はやめておこう。テープを忘れてきたので幼虫を戻して栓をすることができないからだ。

その後、適当に材を削りながら歩いていくが、めぼしいものはなし。

折り返し地点についたところで12時を回る。澄んだ青空を見上げ、林床に届く暖かい日差しを浴びながら昼食。

今日の目的地である山頂まで来たので、来た道とは違うルートで下山。

途中、ちょっとだけ寄り道。クマシデの枝先が不自然に切断されているのが目に留まった。かつての広島での材採集特別講座と同じようにいくだろうか。

まず、1本目。

食痕は樹皮下を進み、やがて幼虫が出現。来シーズンはまだ幼虫で過ごし、その次の年に成虫になるようだ。とりあえず、採集。

2本目、3本目は空振りで、これは4本目。

食痕はやがて材部に入り、蛹が姿を現した。

ちょっと触角が長いような気もするが、とりあえず持ち帰って結果を待つことにしよう。

寄り道は終わりにして、急斜面を下っていく。

舗装道路に戻って来た。日当たりが良く、汗ばむくらい。

電柱にはカメノコテントウの姿もあった。越冬場所を探して移動している途中なのだろう。

一方、集落は日陰になっていて肌寒い。

今年はヒゲブトハナとキジマトラ、奥多摩の夢に2回も出会えて良かった。来シーズンはどんな出会いが待っているだろうか。

奥多摩駅に戻ってくる頃には、すでに暗くなっていた。

せっかくなので、もう一度蛾像収集へ。


マエグロシラオビアカガネヨトウ

今朝と同じ位置にいたので、同じ個体なのだろう。


エサキモンキツノカメムシ

これは今朝見なかった。


ムサシナガゴミムシ

壁際をゆっくり歩いていた。


ミドリアキナミシャク

昼間に集落周辺でも見かけたが、こちらの方が鮮やか。


アケビコノハ

大きな枯葉が動いたと思ったら、黄色い後翅がいきなり見えて驚いた。

やがて落ち着いて翅を閉じる。実は、奥多摩で見るのは初めて。

早朝よりも多くの虫に出会えて、来てみた甲斐があった。来年もまた、新しい顔ぶれに出会えることを期待しつつ、電車に乗って帰途についた。


持ち帰った材から羽化脱出してきた虫たち


ヨコヤマトラカミキリ

2015年12月21日 羽化脱出。クマシデの枝先に潜っていた蛹は狙い通りに化けた。奥多摩では過去2回出会っているが、狙って採れたのは今回が初めて。

以下、続く予定。

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