2016.May.2
毎年恒例の4月の混沌とした日常を送っているうちに、平地の春は過ぎていく。日本社会の縮図である少子高齢化に加えて常軌を逸した配置換えにより、今年は落ち着く兆しが一向に現れない異常事態だったが、遠く離れた奥多摩への想いだけは常に心に秘めて毎日を過ごしてきた。そして迎えた5月、ようやく奥多摩探索を始める時が来た。15年目の今年は昨年に引き続き早春の原生林歩きから始めることにした。
22時、奥多摩駅に到着。昼間は観光客・登山客でごった返していたのだろうが、今はとても静か。
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いつもの場所で、いつものように蛾像収集。
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ヒロオビウスグロアツバ
今晩もっとも多かったのがこの蛾。目に留める機会は少ないが、よく見ると味わい深い模様をしている。
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ニセミカドアツバ
今晩の新顔はこの美麗種。存在そのものは図鑑で知っていたが、実物の美しさは桁違い。
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5時、起床。薄雲が広がっているが、気圧配置を見る限り天気は持ちこたえるようだ。
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バスの発車時刻まで余裕があるので、もう一度蛾像収集。
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アヤニジュウシトリバ
これも存在は図鑑で知っていたが、見れば見るほど奇妙な姿。南方系の蛾なので奥多摩で出会えるとは思ってもいなかった。
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早起きして良い虫が見られたところで、始発バスに乗っていつもの集落へ。
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バス停から登山口へと向かう。例年通り集落の八重桜は満開。
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山の芽吹きは例年より少し進んでいるようで、冬枯れの部分がいつもより少ない。
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道沿いはすっかり新緑の景色。外灯に蛾はそこそこ来ているが、目新しい種はいない。一番の集虫力を誇る外灯だけはじっくりチェックしようと思っていたが、気づいたら通り過ぎていたので先へ進む。
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谷の様子
いつもより若干緑が濃いかもしれない。
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いつもの登山口から尾根筋を目指して登る。
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30分ほどで尾根に出る。
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日も出てきたところで長竿を準備し、新緑をひと掬い。
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ヒゲボソゾウムシの一種その1
この仲間は似た種が多いので、「日本の昆虫Vol.3」をもとに詳しく観察しないと同定できない。
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ヒゲボソゾウムシの一種その2
おそらく、かつてウスイロヒゲボソゾウムシと呼ばれていた種。
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マルムネチョッキリ
これは結構たくさん網に入った。
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ある程度掬ったところで、新緑の原生林をゆっくりと歩いていく。立ち枯れ、倒木など夏に来た時に立ち寄るポイントを確認しながら、花掬いができそうな場所をもとめてさまよう。なにしろ、このあたり樹高がとても高いので10m竿があっても届かない。
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しばらく歩いていると、なんとなく虫の気配を感じる空間に出る。これまでは同じような景色の繰り返しだが、ここだけ何か違う。
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ほぼ同時に、この空間のある一ヶ所に視線が向く。
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ヒラヤマコブハナカミキリ
八王子周辺に遅れること1ヶ月、奥多摩で見かけるのは毎年この時期。日光浴をしている場面には初めて出会う。
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樹洞がある木は結構あるが、発生木とみられる木はほとんど見たことがない。この広い森のどこかにヒラヤマが湧きかえるほどの楽園があって、このように新天地を求めて飛び回っている個体が他にもたくさんいるのだろう。そんなことを思いながら、再び歩き始める。
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しばらく歩いて、ようやく花掬いができそうな場所を見つける。
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長竿が届くところに咲いているのはチドリノキ(カエデ科)。とりあえず、掬ってみる。
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カバイロコメツキ
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ヨツキボシコメツキ
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クロナガハナゾウムシ
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本当はカミキリムシが入って欲しいところだが、コメツキ、ゾウムシばかり。谷筋の吹き上げのような場所なので、仕方ないか。
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尾根筋に戻り、いつもの場所の様子を確認。大木に変化はないようなので一安心。この先に進むには時間的にも体力的にも厳しいので、周辺をゆっくりと散策することに。
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新緑の間からは満開のヤマザクラがあちこちに見られる。
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林内ではトウゴクミツバツツジが花の盛り。春が一気に訪れている。
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少し離れた橋から木がこすれる音が不自然に続くので目を凝らすと、樹上に大きな黒い塊。どうやら熊さんも活動を始めているようだ。
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倒木や立ち枯れをチェックしながら小規模な尾根を進み、昼食。来た道を引き返し、トラップを仕掛けたりしているうちに時間はあっという間に過ぎていく。
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この間に採った虫といえば、大木の根元でホバリングしていたハナアブくらい。
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ハナアブその1
マルハナバチに良く似ているが飛び方が違うのですぐ見破ることができる。タカオハナアブの仲間だろうか。
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ハナアブその2
こちらはミツバチ風。とりあえず採集しておけば後で種名がわかるかもしれない。
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この後、イヌブナでフジミドリシジミ幼虫を探してみたが不発。
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昨年飼育に失敗したアイノミドリシジミ幼虫を狙ってミズナラも探してみたが、ハマキガ幼虫を得た程度。また来年に挑戦することにしよう。
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14時、尾根筋を後にして下山する。
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30分ほどで舗装道路に戻る。
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バスの時刻まで余裕があるので、道沿いのカエデを掬ってみる。
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ナガバヒメハナカミキリ
花掬いのピークは過ぎても、ピドニアは少ないながら残っていてくれるものだ。
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最後に、今朝見逃した最高の集虫力を誇る外灯をチェックしようと思って歩いていく。いつもは何も考えなくても外灯が目に入るのだが、今朝と同じで気がつくと外灯があるはずの場所を通り過ぎている。
さすがにおかしいと思って、引き返してみると、その理由がわかった。
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外灯がなくなっていた。
道路を挟んで反対側には、古ぼけた照明器具がついた新品の電柱。谷側を向いていたからこそ絶大な威力を発揮していたのに...。たぶん、ここもいずれは全面伐採してコンクリートで固められてしまうのだろう。この少し手前の区間がそうであったように。
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夏の灯火採集への不安材料と、次回のトラップ回収への期待を胸に、帰途についた。