奥多摩:石尾根の春

2016.May.31

梅雨を控え、平地ではクリの花が開花目前で夏のような陽気になる頃、奥多摩の亜高山帯周辺からはミヤマザクラの便りが届き、ようやく春を迎える。これまでで最も早く訪れたのは2007年、その時はすでに初夏。今回は1ヶ月ほど時期を早めてみることにした。

この時期、魅力的な採集地は他にもたくさんあるのだろうが、皆と同じところに行って同じものを採ることはしない。訪れる人が少ない時期だからこそ、新たな発見がたくさんあるのだから。


22時、奥多摩駅に到着。昼間はずっと雨が降っていたが、今は霧雨程度。蛾像収集に行っても成果は期待できないので、体力温存。

4時40分、起床。まだ雲が広がっているが、昼間はしっかり晴れそう。始発バスに乗って登山口を目指す。

6痔20分、鴨沢バス停に到着。寝過ごして終点まで行ってしまったので、歩いて登山口まで戻った。これからの行程を考えれば大した時間ロスではないので、気にせず出発。

6時40分、駐車場前に到着。霧に包まれ、汗がなかなか蒸発しない。


アカシジミ

ふと横のコナラを見るとゼフィルスの姿があった。このあたりはもう初夏になっているようだ。

舗装道路から登山道に入り、霧の中を黙々と歩く。

しばらく歩くと霧は晴れ、エゾハルゼミが鳴き始めた。

尾根筋は晴れて日もよく当たっている。花掬いへの期待を胸に、黙々と歩く。

7時40分、堂所に到着。水分補給をしてから先へ進む。

8時15分、七ツ石山下の分岐に到着。

尾根に出る前に水を補給する。

8時50分、七ツ石山に到着。所要時間は昨年夏と同じだが、今日は全然疲れていない。気温が低くて汗があまり出なかったことがかなり大きいようだ。

消えつつある雲海の向こうに浮かぶ富士山がくっきりと見える。かつて登った南アルプスの山々も見通せたが、カメラではうまく捉えられなかった。


ミヤマハンミョウ

気温が上がり、登山道脇ではたくさんの個体が活動している。

さて、午前中は花掬い。ミヤマザクラとアオダモ類を求めて尾根筋を歩いていく。

道沿いにはトウゴクミツバツツジが色鮮やかに咲き、登山道にまで彩りを添える。この時期に来る者だけ見ることができる光景。

しばらく歩くと、満開のアオダモ類を発見。長竿を伸ばして届く範囲を掬っていく。

ハチやハエは少なく、甲虫がたくさん。

しかし、その95%は同じ種が占めている。


クビナガムシ

低山地の花掬いでも結構たくさん入る普通種。色彩変異があって面白いのだが、とにかくたくさん網に入るので採るのは最初だけ。これ以降の花掬いでも同様にもっとも個体数が多い甲虫なので以後は省略。

無数のクビナガムシの中から、カミキリムシを中心に甲虫を拾い集めていく。


カラカネハナカミキリ

金属光沢が美しく、色彩変異もある美麗種。


ホンドアオバホソハナカミキリ

同じ金属光沢でも、こちらは渋い輝き。


ニセハムシハナカミキリ

ヒナルリハナカミキリかと思って掴んだが、明らかに体型が違うので一目で気づく。マタタビの花のイメージがあるが、今までその花で採ったためしがない。


ヒナルリハナカミキリ

ニセハムシハナと比べると随分とスリムに見える。色合いもちょっと違っていて格調高く感じる。


ヒラタアオコガネ

かつて関東地方では珍しかったのに、こんな高い所まで進出しているとは驚き。

ある程度掬ったところで、もう少し条件が良い花を求めて移動する。

少し歩くと、ミヤマザクラを発見。この木は花つきが悪いようで青葉が目立つ。

もう少し歩くと花つきが良い木を見つけたので、さっそく掬ってみる。


フトエリマキヒメハナカミキリ

久しぶりに見るが、前胸の形が独特なのですぐにわかる。一見すると似ているナガバヒメハナカミキリはこの標高になると生息していない。


ヨツボシヒラタシデムシ

一度に5匹も網に入った。樹上で蛾の幼虫を主に食べているらしい。


フタツメゴミムシ

人目で同定できる特徴的なゴミムシ。

さらに先へ進むが、だんだんと開花状況が悪くなっていく。これ以上標高を上げても難しくなるだけなので、来た道を引き返す。

もっとも良かったアオダモ類の前で昼まで粘ることにしよう。適当に時間間隔を空けながら、ブユを払いのけつつ長竿で掬っていく。そして、大量のクビナガムシの中から別の虫を探し出す。


チビハナカミキリ

似た種にホクチチビハナカミキリがいるが、これはただのチビハナ。


ベニモンツノカメムシの一種

この仲間は似た種が多く、正確な同定には腹部末端節の観察が必要。とりあえず採集してじっくり同定することに。


シロトラカミキリ

個体によって色彩が少し異なり、今日は灰色に近いばかりが網に入る。


ヒナルリハナカミキリ

紫色の金属光沢を帯び、かなり美しい。


テツイロハナカミキリ

これも渋い金属光沢の持ち主。


ムネアカクロハナカミキリ

実はあまり採ったことがないのでうれしい。

12時を過ぎたところで花掬いは終了。狙いの虫は一応あったのだが、まったくかすりもしなかったので来年以降に持ち越し。あとは次回以降の下見も兼ねて、別の場所へ。

しばらく歩くと、有名なツツジ群落に到着。それほど密度は高くないものの、新緑の緑によく映えている。

登山道脇の倒木では越冬明けのヒオドシチョウが日光浴していた。他にはミヤマセセリも飛んでおり、ここはまだまだ春だということを実感する。

帰りの尾根道では立派なズミもあった。来シーズン以降はここも訪れてみる必要がありそう。

下山前に、最後の悪あがき。尾根道のギャップにあったアオダモ類の花に長竿を伸ばす。

時間帯は遅いものの、結構は数の虫が入る。クビナガムシが圧倒的なのは変わらないが。

底の方をよく見ると、ハナムグリが2匹入っている。


ムラサキツヤハナムグリ

上翅に馬蹄形の刻印が見えるので本種と同定。ちなみにもう一方はミヤマオオハナムグリだった。ムラサキが低地、ミヤマが高地にいるとされるが、こうして同じところで採れることも多い。

13時30分、下山開始。

途中、小屋の管理人さんにお願いして薪を見せてもらう。里から運び上げたものと、小屋周辺で拾ったものとが混在しているそうだ。


ホソナガコメツキダマシ

気温が低いためか、甲虫はこの1匹のみ。夏になればもう少しいろんな虫が集まるだろうか。管理人さんにお礼をして、下山を続ける。

14時20分、堂所に到着。水分補給をして先へ進む。

途中でチェックするような立ち枯れや倒木もないので、ひたすら歩く。

15時55分、鴨沢バス停に到着。5分ほどでやってきたバスに乗って帰途についた。


本日の歩行記録

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