奥多摩:真夏の尾根

2016.Aug.6

梅雨明けとともに夏らしい暑さとなり、低山ではすでに夏枯れに突入した今日この頃。いつもの原生林でこの時期に密かに活動する珍しいゾウムシを求めて、お世話になっているゾウムシ屋さんを案内することになっていた。しかし、緊急事態により残念ながらキャンセルとなってしまった。来年に備えて発生木を確かめるべく、いつものように一人で行くことにした。


いつもより遅く、23時に奥多摩駅に到着。この時間でも蒸し暑く、蛾がたくさん集まっていそうだ。

蛾像収集のため、いつもの場所へ。

探索を初めると、今までで1,2を争う蛾の多さ。すでに撮影したことがある種がほとんどではあるが、これだけ一度に見られると嬉しい。


カギバアオシャク

夏に現れる大型のアオシャク。新顔のひとつ。


モンシロクルマコヤガ

控えめながらもじっと見入ってしまう美しさ。これも新顔。


セミスジコブヒゲカミキリ♀

カミキリはこの1匹のみ。甲虫がいる晩は蛾の飛来数も多い気がする。

蛾の多さに夢中になってしまい、気づいたら1時間も撮影してしまった。明日は体力次第で亜高山帯に挑戦しようと思っているので、急いで眠りにつく。

しかし、この晩はなぜか体がほてって眠れない。うとうとしていると、首筋に何かが這っているような感覚。手で何気なく取ってみると、小さな黒い塊だった。

「なんだ、綿くずか・・・・。」

ショボショボする眼で確認し、捨てようと思った瞬間、記憶の中で一致する形があった。まさかとは思ったが、明るい場所でもう一度よく見てみる。


トコジラミの一種(幼虫)

南京虫として知られる、吸血性のカメムシ類。幼虫なので種まではわからないが、仮にヒトから吸血する種であれば、現代では狙ってもそう簡単にお目にかかれない珍種であり、喜ぶべきである。

時計を見ると午前2時。さすがにこの状況では喜ぶこともできない。寝袋を見ると、見慣れないダニやアリも入り込んでいる。荷物をまとめ、急いで撤収する。

もう寝袋で寝る気になれないので、学生時代と同様にコンクリートの上で寝ようとする。しかし、どこからかトコジラミが歩いてきそうな気がして、まったく寝付けない。ほとんど一睡もできないまま夜明けを迎えてしまった。

6時を過ぎ、始発バスがやってきた。睡眠不足で亜高山帯に行くのは無謀なので、当初の予定通りにいつもの場所へ。

夜明けに空を覆っていた薄雲はすっかり消えて、今日も暑くなりそうだ。


谷の様子

やや湿度が高いため、遠くが少しかすんで見える。

登山口からいつもの場所へ。

昨夜の出来事で体力を奪われ、尾根に出るのに1時間以上かかってしまう。予定の場所まではなんとか行けそうなので、寄り道しながらゆっくりと歩いていく。

乾燥した尾根筋でブナが目につくたびに眺めていくが、特に何もいない。


ノコギリカミキリ♂

朝になっても落葉に隠れようとせず、幹にしがみついていた。

しばらく歩いて、今日のチェックポイントのひとつに到着。2013年に初めてあのゾウムシを見つけたナツツバキの倒木。

あれから3年、樹皮は黒く変色して剥がれ始めている。多くの個体でにぎわったこの倒木も、居心地が悪くなってしまったようだ。目星をつけておいた別の倒木に期待することにしよう。

次のポイントに向かう途中、ミズナラの立ち枯れをいくつか見て回る。

狙いはネキダリスだが、さすがに時期が遅いか。

立派な樹洞があいたミズナラもあったので、中を観察。これも時期的に遅いが、パキピド狙い。

LEDライトで照らした先には、巨大な影。


ウスバカミキリ♂

集落付近では見たことがあるが、ここでは初めての遭遇。触角も脚もちぎれており、歴戦を生き延びてきたようだ。

しばらく歩いて、次のチェックポイントが近づいてきた。しかし、目星をつけた倒木がなかなか見つからない。疲労と暑さで頭がやられてきているのだろうか。

斜面を徘徊していると、良さそうな物件を発見。直径10cmほどの細いナツツバキだが、良い感じで折れている。

いそうな場所を覗き込むと、細長い虫影。


アカツツホソミツギリゾウムシ

ナツツバキの枯木に集まるという生態が判明したのはつい数年前のこと。ここでは毎年のように見られるが、全国的にはまだまだ珍しい。右の穴の中にいる個体も引っ張り出してみたが、両方ともなかなかの大型個体。これだけで、来た甲斐があった。2個体だけしか見つからなかったが、材の鮮度も良いので来年はもっと多く発生するだろう。

目的も達成したので、周辺を探索。ミズナラの新しい倒木があったので近寄って見る。


チャイロスズメバチ

今年も発生しているようで一安心。それにしても、倒木になっても樹液を出し続けるとはすごい生命力だ。

撮影のために近づきすぎたようで、この後に2匹ともよろよろと飛び立ち、大顎をカチカチと鳴らして威嚇しながら周囲を飛び回る。姿勢を低くして長い間じっとしていても飛び去る気配はなく、むしろ体に着陸する寸前まで近寄ってくる。

巣が近くにあるようでもないのに、この行動はどういうことなのか。このままではやがて刺されると思い、ハチに触れないよう注意しながらゆっくりと立ち去る。幸いにも追ってくることはなく、難を逃れることができた。置き忘れた長竿を取りに戻ると、2匹はまた先ほどと同じように樹液を吸っていた。酔っ払いは怖い...。

暑さが厳しくなってきたが、せっかく来たので周囲を探索。日当たりが良いブナの立ち枯れに近寄ってみる。


ルリボシカミキリ

日向にはブナ林の青い宝石。


ヒゲナガゴマフカミキリ

日陰には渋い碁石模様。

さらに周囲を探索していると、また別のナツツバキが折れているのを発見。こちらは緑の葉をつけており、樹皮下は断絶せずつながっているようだ。

それでも、衰弱していることには変わりはない。森のどこかに発生する弱った木を、虫たちは見逃さない。


アカツツホソミツギリゾウムシ

これもかなりの大型個体。懸命に穴へ頭部を突っ込んでいる。


クロホソコバネカミキリ

さらに、ネキダリスもおまけで発見。

森が広ければ広いほど、毎年途切れることなく衰弱木が現れる確率は高くなる。このあたりは植林がほんの一部ある以外は、ナツツバキが低密度ながらも広範囲に渡って生えている。そして、増加するニホンジカが樹皮をかじることで倒木が発生しやすい状態になっている。こうした条件が揃っているからこそ、このミツギリゾウは今は安定して姿を見せてくれるのだろう。

ただ、心配なのはニホンジカの影響で若木が育っていないこと。今のように普通に見られるのは一時的で、将来的にはまた珍種に戻るかもしれない。

このあたりから暑さと疲労で頭がぼーっとしてきて、めぼしい発見はなし。さすがに危ないと感じて、ゆっくりと下山開始。

前回ちょっと場所を移動させておいた羽毛トラップを確認。

雨露でほどよく腐っており、芳香が漂う。

羽毛にまみれたコブスジコガネは3匹入っていた。前回と同様、すべてヒメコブスジコガネだったが...。

下山路に入る手前で、ミズナラの樹液を吸うオオムラサキを発見。集中力を欠いていたので接近する前に飛び去ってしまったが、その雄姿はしっかりと目に焼き付けることができた。

何度か休憩しながら、ようやく舗装道路に戻ってくる。休日ということもあり、観光客の姿が目立つ。

灼熱の舗装道路を歩いていくと、民家の玄関先に黒い虫が落ちているのを発見。

どうやらコガネムシのようだが、かなり大きい。

なんと、オオチャイロハナムグリだった。樹洞や立ち枯れでは何度か見つけたが、こんなところで拾うとは思ってもいなかった。

今回は蛾像収集とトコジラミ騒動で、体調管理を完全に失敗。次回は万全の状態で亜高山帯へ行くことにしよう。

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