2016.Mar.30
関東平野で最大の湿地帯として知られる渡良瀬遊水地。毎年春に行われるヨシ焼きによって植生遷移が食い止められており、そのおかげで湿地に依存する貴重な動植物が数多く生息している。
学生時代から数回ほど訪れてはいるもののすべて冬季だったので、肝心の湿地性の昆虫にはほとんど出会えていない。最近少しずつではあるが環境が変わってきているという話もあるので、早いうちに生息地の状況を見るべく、今回初めてヨシ焼き直後に行ってみることにした。
成田を6時に出発し、現地に到着したのが午前9時過ぎ。こちらの方向はヨシ焼き対象外で、枯れたヨシがどこまでも広がっている。身支度を整えて、ヨシ焼きが行われたエリアへ出発。
・
初めて見るヨシ焼き後の景色。一面焼け野原を想像していたが、意外と燃え残りが多い。
・
さっそくヨシ原に足を踏み入れる。芽吹きにはまだ少し早いようだ。
・
状況を確認したところで探索開始。今日の狙いはアリスアトキリゴミムシ。ただし、本種の有名な生息地なので細かいポイント情報を得てしまっては面白くない。まずは自分の感覚で探してみると決めて、今日はやってきたのだ。カワラケアリの巣の中にいるという変わった生態なので、まずはアリを探すことから始め る。石の下に営巣するということなので、まずは石を探すことを考えていたが、その前に足元でアリが動いているのが目に入ったのでしゃがんでみる。
・
これがカワラケアリなのだろう。よく見ると、低密度ながら見渡す限りその姿が見える。これなら期待が持てそうだ。営巣場所を求めて焼け跡を歩いていく。
・
・
・
まず目に留まったのはこの場所。空き瓶がまとまって捨てられている。空き缶は意外と早く朽ちていくが、ガラスは長期間残る。果たして、この下に巣はあるのだろうか。まず、一つ目の瓶を起こす。
・
・
アリの姿はないが、ゴミムシの姿が見える。
・
他所ではあまりお目にかかれないあのゴミムシに違いない。
・
・
チョウセンゴモクムシ
全国的にも珍しいゴミムシ。もちろん初採集。
・
幸先良いスタートと思っていたのもつかの間、残りの瓶の下には甲虫は1匹もおらず。カワラケアリの集団はいくつか見られたが、アリスアトキリの姿はなし。石起こしは地道な探索方法なので、黙々と続けるしかない。探索ポイントを求めて、焼け跡を歩いていく。
・
・
ヨシ原の中にタイヤが捨ててあるとは・・・。起こしてみたが、カワラケアリがたくさんいたくらいで他は特になし。
・
焼け跡の中を歩いていくと、石はまとまって存在することがだんだんわかってきた。
・
・
そして、石がある場所の法則がわかった。
・
・
「人為あるところ、石あり」
奥多摩では林道建設という人為抜きでカミキリムシを探してきたが、ここでは人の痕跡に頼らないと探索ポイントすら絞り込むことができない。
・
・
・
石を見つけては起こしていくが、カワラケアリの集団はそこそこ見つかるものの、狙いのアリスアトキリはなかなか見つからない。でも、それ以外の甲虫はそこそこ見つかる。
・
・
ニホンカナヘビ
冬眠から覚めて出てくるほど、今日は暖かい。
・
ミズギワアトキリゴミムシ
・
クロモンヒラナガゴミムシ
・
アトボシアオゴミムシ
・
キバネアシブトマキバサシガメ
・
・
・
・
12時を過ぎ、同じような顔ぶればかりでちょっと飽きてきた頃、崖が目に入る。ゴミムシが越冬していそうな場所をピンポイントで選んで、手鍬を一撃。
・
ニホンカナヘビのそばを転がり落ちた虫影を瞬時に見分けてキャッチ。
・
オオヨツボシゴミムシ
ここでは石起こしで採れるという情報もあるが、崖にも潜るらしい。追加を狙って周囲を掘ってみるが、不発に終わった。
・
・
なおも歩き続けると、朽木が倒れているのを発見。とりあえず起こしてみる。
・
チビアオゴミムシ
湿地性のゴミムシで、全国的にも少ない種。かなり久しぶりに見る気がする。
・
・
ルリヒラタゴミムシ
目が覚めるような青さが素晴らしい。
・
・
さらに移動して、倒木が多いエリアで最後の悪あがき。
・
めぼしい虫は、倒木の下にいたオオヨツボシゴミムシくらい。さすが有名な生息地、この状態が続くことを願ってリリースしておく。
・
結局、初めての石起こしでカワラケアリの集団はたくさん見つけることができたものの、肝心のアリスアトキリゴミムシを見つけることはできなかった。有名な生息地で詳細な情報を得て狙い通り採るのは面白くないので、最初はこうやって情報なしで苦戦するくらいがちょうど良い。16時過ぎ、日が傾いて冷え込んできたところで、満開の菜の花を見ながら帰途についた。
・
後日、昆研後輩でゴミムシ屋のNT氏から意外な情報を得る。
「この時期は石の下から消えるんですよ」
どうやら、わざわざ一番厳しい時期に来てしまったらしい。アドバイスもいろいろもらったので、再挑戦が楽しみだ。