奥多摩:林縁に舞う蜂の影

2017.June.4

5月になり、例年なら上旬に奥多摩へ向かっているはずだった。

しかし今年はある出来事に休日をほとんど費やし、

ようやく終わった頃にはもう5月は過ぎ去っていた。

1ヶ月出遅れたと最初は思ったが、考えてみれば好機でもある。

奥多摩探索で出会えていないカミキリムシ約50種のうち、

6月に出現するものが結構多いのだ。

そして迎えた6月最初の休日は「虫の日」。

採集に行かずに蓄えた運を手に、今年最初の奥多摩探索へ。


採集ピークを午後に定め、早朝に自宅を出発。

8時半頃に奥多摩駅に到着すると、休日ということでたくさんの登山客。

第3便の定刻よりもやや早い臨時便に乗りこむ。

9時、終点で下車して集落の中を進んでいく。

モンキシロシャチホコ

電柱から浮き出た鮮やかな翅に感激しながら撮影し、先へ進む。

爽やかな青空と、まぶしい新緑。

雲が広がり始めているが、天気は大きく崩れることはないだろう。

外灯に残った蛾を見ながら歩いていくと、捕虫網を持った青年が挨拶をして追い越していった。

東京近郊の採集地として訪れる人が少しずつ増えてきていることを実感。

谷の様子

2本あるトチノキは完全に花が散って、青葉も色濃くなっている。

今日は原生林の中ではなく、林道沿いを歩く。

狙いのカミキリムシはスウィーピングで得られる種が多いので、

午後に長竿で林縁を徹底的にスウィーピングする計画。

花掬いには時期が合わないので、狙いの樹種が生えている場所を求めて淡々と歩く。

しばらくして、最初の水場ポイントに到着。

5月だとミヤマカラスアゲハが吸水に訪れている場所。

サカハチチョウ

大型アゲハの代わりに1頭だけ吸水していた。

学部生の頃の林道歩きではよく見ていたはずだが、

原生林内では意外と見ないのでとても新鮮に感じられる。

水場をよく見ると、周縁部に鹿糞がたくさん散らばっている。

それを目当てにしているのか、無数のハナアブが集まっている。

何か変わったハナアブはいないか、ゆっくり見ていく。

すると、キイロスズメバチがどこからともなく視界に入ってきた。

水場に着陸しようとしているようだが、どうも飛び方に違和感がある。

そして、着陸して翅を閉じると違和感は確信に変わり、

その瞬間、網を振り抜いた。

チャイロモモブトナガハナアブ

2年前の6月に原生林内で発見して以来、2回目の遭遇。

今度はメスで、これで雌雄が揃った。

いきなり大物が採れてしまい、幸先の良いスタートだ。

しばらく追加個体を待ったが来ないので先へ進むことに。

新緑に包まれた林道を歩きながら、狙いの樹種を探す。

過去の記憶をたどると一応の目的地はあるのだが、

掬いやすい木、集虫力の高そうな木があればそれにこしたことはない。

花掬いが面白い時間帯ではあるが、ミズキはすでに花が終わっている。

アオアシナガハナムグリ

花を求めて移動中だったのか、林道の上を飛んでいるところをネットイン。

夏を感じる大型のハナムグリのひとつだが、

標高の低い林道沿いだとこの時期にも出ているのかもしれない。

しばらく歩くと、さきほど追い越された青年に再会する。

軽装なのでチョウ屋さんかと思っていたが、倒木で何かを探していたりして

話を聞いてみると何でも採っているらしい。

まだ高校生ということでとても驚いた。

ある程度の間隔を空けながら林道を歩いていく。

そろそろウツギが多くなるエリアに入ったので、時々掬いながら進む。

ベッコウハナアブ

遠目からでもわかるほど大型のハナアブ。

個体数も非常に多い。

ウツギの花にはチョウの姿もみられる。

アオバセセリ

それほど新鮮ではないが、久しぶりに見るとその青さがまぶしい。

ウツギは満開でちょうどよい状態なのだが、

晴れているからか、ピドニアはまったく網に入らない。

林道上で採れるピドニアはもうすべて出会っているので深追いせず進む。

しばらく進むと、落石防止柵の向こう側にある朽木に虫影を発見。

ススバネナガハナアブ♀

紫色に輝く翅がとても素敵なハナアブ。

産卵行動も見られたが、網の向こう側なのでうまく撮影できない。

やがてこちらの気配に気づいたのか、遠くへ飛んで行ってしまった。

この林道は舗装区間と未舗装区間を繰り返す。

谷側の斜面が固められている舗装区間は過去に崩落があったことを暗示する。

乾燥度合いが変わるので虫の密度にも差が出るはずだが、

ウツギの花を掬っている限りでは今日はその差はわからない。

何度目の水場ポイントだろうか。

ようやくミヤマカラスアゲハを1頭見る。

撮影しようかと思ったが、別の蝶が縄張りを主張して追い出してしまった。

侵入者を追い払った後は日光浴。

キベリタテハ

越冬明けでボロボロになっているが、判別は容易。

この時期まだ活動していることに驚いた。

しばらく進むと、オオバアサガラがあることに気づく。

ピドニア採集では定番の花のひとつだが、まだ蕾。

花掬いは完全に諦め、午後のスウィーピングに重点をおくことにしよう。

そう思っていた矢先、その計画を狂わせるアクシデントが発生。

長竿を収納する時に無理に縮めたところ、中間部分の柄が縦に裂ける。

先半部は無事だったが、伸ばしてもせいぜい3mくらいにしかならない。

もう、今日は林縁をスウィーピングしてSaperdiniを採ることはできない・・・。

この後どうしようか考えながら歩いていると、谷筋に横たわる朽木に眼が留まる。

なんとなく近寄って見ると、またキイロスズメバチが視界に入ってきた。

凝視しているとやがて着陸し、前脚を上げて頭部の前に伸ばした。

なんと、またもチャイロモモブトハナアブ。

すぐに長竿に手をかけたが、先ほどと違って障害物となる石が多数ある。

振り抜く軌道の計算に手間取っているうちに、ハナアブは離陸。

一か八かで振り抜いたが、網の中には少量の石が入っているだけだった。

「今日はきっとハナアブの日だ」

滅多にお目にかかれない大物に2回も出会ったということは、そうとしか思えない。

長竿も壊れてしまったので、先を急ぐこともない。

ここでしばらく、大物の飛来を待つことにしよう。

朽木から一旦離れて荷物を置き、再び戻ってくると小さいハナアブが飛来していた。

人の気配があると次の個体がなかなか来ないので、採集後は朽木から離れ、

しばらく時間をおいてから戻ってくることを繰り返す。

ムツボシハチモドキハナアブ

ハチの腰のくびれまで再現している、完成度の高い造形。

ススバネナガハナアブ

先ほどは手が出なかったが、ここなら網を使える。

ムツボシハチモドキハナアブの交尾

朽木のそばでじっとしていたので、気配を殺して近寄り撮影。

ハナアブの飛来を待つ間に周囲を見て回ると、

さらに良い物件を発見する。

橋のそばに落ちている朽木

水が近いので水分含量が高く、栄養価が高そうな朽ち方をしている。

橋の上から覗き込むとハナアブが数頭止まっているのが見える。

縄張り争いに夢中なのか、橋の上の人影にはほとんど気づいていない模様。

網をそっと近づけ、狙いを定めて振り抜くと簡単に採集できる。

ニトベナガハナアブ

ススバネナガハナアブに似ているが翅に紫色の輝きはなく、体の斑紋も異なる。

ヒメハチモドキハナアブ

これも腰のくびれがある、かっこいいハナアブ。

不明のナガハナアブ

クロスズメバチに似ている。種名は調査中。

そして、肝心の大物ハナアブは2回のチャンスがあった。

1回目は橋から見下ろせる位置にあるオオバアサガラの葉に止まっていた。

勢いよく網を振って葉と一緒にネットインしたはずだが、入っていなかった。

2回目は橋の周辺の流木を見回っていた時に、ふいに飛び出してきた。

油断していて網を振ることができず、樹冠へ飛び去るのを見送るしかなかった。

昼を過ぎ、雲が空を覆ってきたところで林道を引き返す。

途中、低所のスウィーピングや朽木観察を試みたものの、めぼしい成果はなし。

水場ポイントの周辺で舞うアサギマダラを見ながら歩いていくと、

あっという間に林道入口が近づいてくる。

林道の入口付近に低いシナノキがあるので、それだけ丹念にスウィーピング。

タケウチトゲアワフキ

お馴染みのかっこいい虫はちゃんと網に入ってくれた。

林縁の朽木にハナアブの世界が広がっているとは、

林道を歩いていた学部生時代には全く気づかなかった。

長竿が壊れたことは残念だったが、

そのおかげで「ハナアブの日」を楽しむことができて良かった。

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