奥多摩:雨雲迫る石尾根

2017.Aug.7

8月上旬、過ぎる夏を追いかけて虫屋は高い山を目指す時期。

今年は2連休を利用して亜高山帯で1泊2日の採集を考えていた。

だが、迷走する台風5号により予定は大きく狂ってしまう。

九州に上陸してから速度がどの程度上がるかによって、

2連休のどのタイミングで奥多摩が豪雨になるかが変わる状況。

1泊2日か、台風襲来前に日帰りか、台風一過に日帰りか。

刻々と変わる天気予報と天気図を見ながら3パターンの準備を進める。

8月に入って続く天候不順は、採集にとってはむしろ絶好のチャンス。

わずかな晴れ間に虫が一斉に活動するので、採集中止だけは避けたい。

そして迎えた2連休の前日。

最新情報をみると、1日目の午前中だけ採集のチャンスがありそうだ。

亜高山帯まで登れば雲の動きはよく見えるので、ギリギリまで粘ることができる。

せっかくのチャンスなので、午前中に賭けてみることにしよう。


少しでも採集時間を稼ぐため、夜のうちに登山口まで移動。

車で行くのは初めてで、4時間ほどかかった。

5時、起床。

新しくできたトイレの外灯には居残った蛾が少々。

爽やかな青空の下、出発。

5時10分、登山口に到着。

今年設置された新しい看板が目立つ。

日本百名山の雲取山の標高と西暦の数字が重なる記念すべき年のため、

関係自治体も盛り上げようと様々な活動をしている模様。

安易な登山者による遭難事故を防ぐための注意看板も新設されていた。

亜高山帯を目指して淡々と進んでいく。

6時10分、堂所に到達。

少しでも早く石尾根に登ろうと早足で進んできたが、ペースが早すぎた。

体への負荷が大きく、ここに到達する前に何度か足が止まった。

6時50分、七ツ石小屋下に到達。

前半での負荷が大きすぎたようで、ここに来て一気に体が重くなる。

ここまでの所要時間は例年と大差ないが、疲労感は今までで一番。

7時0分、七ツ石小屋に到達。

ここまで来れば、あと少し。

水場で首筋を冷やしてから出発。

7時10分、石尾根に到達。

途中でトラップを設置して、山頂へ。

7時30分、七ツ石山山頂に到達。

水分補給をしながら、周囲の状況を確認。

石尾根とその周辺には青空が広がっている。

富士山は今のところはっきりと見える。

しかし、その背後からは雲が迫ってきている。

あの雲が来るまで、どのくらい時間が残されているだろうか。

山頂近くにはノリウツギとリョウブが並んで生えている。

開花状況はどうだろうか。

ノリウツギは花の盛りを過ぎた頃。

リョウブはこれから咲くようだ。

この株でこの開花状態なら、今回目星をつけている株はまだ花が残っているはず。

稜線上でまだ出会っていないハナカミキリに、今日こそは。

雲がやってくる前に花に到達するべく、先へ進む。

しばらく歩いて、目的地に到着。

岩にしがみつくようにして生える、ノリウツギとリョウブ。

開けた場所に生えており、日当たり抜群。

まず、開花状況はどうだろうか。

ノリウツギはほぼ終了で、がく片が残っている程度。

リョウブはほぼ満開。

だいたい、予想通りの開花状況。

長竿に網を取り付けて、準備完了。

掬う前にまずは観察、虫が最もよく集まっている花房を吟味する。

その途中、黒いカミキリムシがどこからともなく飛来。

ノリウツギを素通りして、満開のリョウブの花房に止まった。

飛形も着陸姿勢もジョウカイボンではない。

奥多摩でよく見るヤツボシハナカミキリの黒化型だろうか。

本日最初の一振りということもあり、軽い気持ちでネットイン。

網の中を覗いてみると、信じられない虫に化けていた。

キベリカタビロハナカミキリ

通称 パキタ

2004年の夏に奥秩父のノリウツギで出会って以来、実に13年ぶりの再会。

隣接する大菩薩や奥秩父では車で行ける場所で出会えるものの、

奥多摩で出会うには登山が必須、過去の記録も2例のみ。

時間は8時ちょうど、登山開始から3時間での出来事。

これだけで、今日ここに来た甲斐があった。

網の中にはもう1種のカミキリムシがいたので、それも取り出す。

マルガタハナカミキリ

お馴染みの盛夏のカミキリムシだが、台風の雨雲が迫る今日は

なんだかとても高貴な虫に感じられる。

今日の狙いであるハナカミキリの飛来を待って、しばし待機。

甲虫はほとんど飛んで来ないが、スズメバチの雄が結構飛んでくる。

この時期はホオナガ系のはずなので、狙いを定めて網に入れる。

刺す真似をするが、まったく痛くない。

同定には顔が重要なので撮影。

頭楯の黒紋がこれほど細いのは初めて見るので、おそらく初採集。

何個体か採集して持ち帰る。

(帰宅後の同定結果:シロオビホオナガスズメバチ)

ここで、雲の状況を確認。

さっきまではっきり見えていた富士山はほとんど雲に覆われた。

大菩薩あたりも雲がかかり始めている。

雲の動きは意外と速い。

花のそばで待っていても人の気配で虫が来ないような気がするので、

先にキジマトラの御神木の様子を確認しておこう。

8時30分、奥多摩小屋を通過。

台風さえ来なければ、1泊して灯火採集をする予定だった。

その計画は来年に持ち越し。

コメツガの大木に到着。

昨年と樹勢はほとんど変わらないことを確認。

しばらくは御神木として君臨してくれそうだ。

ここで、雲の進み具合を確認(9時0分)。

西だけでなく南からも雲が近づいてきている。

キジマトラの活動時間である午後には、ここは完全に雲に覆われるだろう。

ノリウツギ・リョウブのポイントまで戻ることにする。

さきほどに比べると日当たりがさらに良くなっている。

直射日光が当たり過ぎるとかえって虫が逃げてしまうので、

もう新たな虫の飛来は期待できないかもしれない。

一通り、長竿で掬ってみる。

ヨツスジハナカミキリ

他個体と激しく闘争したのか、後脚が両方とも欠損している。

マルガタハナカミキリ

またも網に入った。斑紋はよく見ると個体変異がある。

しばらくすると、太陽が雲に隠れてしまった。

涼しい風も吹き始めたので、天気が変わる合図。

ビーティングをしながら、引き返す。

シロオビチビカミキリ

高い場所ではまだ新鮮な個体が多い。

ニホンムネスジダンダラコメツキ

本種と認識して採るのは初めて。

ナガアナアキゾウムシ

東京都側で採るのは初めて。

山頂に到達する前、リョウブの木に眼が留まる。

さきほど通過した時は状況がおもわしくなかったが、急速に開花したようだ。

直射日光は当たっていないので、虫も逃げていないはず。

長竿で一通り掬ってみる。

キヌツヤハナカミキリ

ヨツスジハナカミキリ

フタスジハナカミキリ

マルガタハナカミキリ

ニョウホウホソハナカミキリ

チャイロヒメハナカミキリ

チャボハナカミキリ

種数は多いが、狙いのハナカミキリは入っていない。

もっと開けた、植林ではない針葉樹林が見渡せる場所でないと飛んで来ないか。

山頂付近のノリウツギ・リョウブへ戻ってくると、リョウブがさらに開花。

大きなハナカミキリが止まっているのが見えたので、網で掬う。

ヤマトヨツスジハナカミキリ♀

これも久しぶりに見るカミキリムシ。

マルガタハナとヨツスジハナを足して割ったような姿をしている。

10時50分、七ツ石山山頂に戻って来た。

北を見ると、奥秩父の稜線は完全に雲に覆われてしまった。

西の方には、尋常でない雲が迫ってきている。

ここも、時間の問題。

最後に、倒木をビーティング。

エゾサビカミキリ

新鮮な個体は雰囲気が違って、最初は別種に見えた。

倒木を離れて帰途に就こうとした時、

ツガの幹から何かが地面に落ちた音が聞こえた。

落ちたあたりをじっと見て探す。

ヒゲナガカミキリ♀

灯火採集以外ではなかなかお目にかかれない。

これが、本日最後に採集した虫となった。

11時20分、下山開始。

11時25分、水場に到着。

NT氏にもらったクエン酸ドリンクをここの水で作る。

そして、一気に下山。

11時33分、七ツ石小屋下を通過。

11時55分、堂所を通過。

12時38分、登山口を通過。

すでに小雨が降り始めているので、車まで急ぐ。

本降りになる前に、なんとか車に乗り込む。

奥多摩のパキタに出会えた満足感とともに、

ラジオで豪雨の情報を聞きながら帰途につく。

自宅に到着するまでにかかった時間はなんと6時間。

次回のトラップ回収は電車で来ることにしよう。

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