奥多摩:雲の切れ間

2017.Aug.12

前回の探索では台風の雨雲が迫る石尾根に午前中のみの滞在。5日後にもう一度訪れる予定でトラップを設置して下山した。

台風一過で夏空が戻ってくることを期待していたのだが、残念ながら東京都心では連続降雨記録が止まらないまま、回収当日。トラップさえなければ採集に行かない天気だが、そうも言ってられない。天気が悪い日が続くとはいえ、季節は夏。高いところなら短い時間でも雲の切れ間はあるはずで、その時間帯に虫たちは一斉に活動しているはず。せっかく動けるチャンスなので、前回同様わずかな可能性に賭けてみよう。


車での行き帰りは長時間の運転を伴うことがよくわかったので、今回はいつもの通り前日に電車で奥多摩へ。終点の駅を降りると雨が降っており、蛾像収集は断念。

翌朝、雨は止んでいるが駅の背後の山まで雲がかかっている。山の上の天気は行ってみないとわからないので、一喜一憂することはない。始発バスに乗り、登山口を目指す。

6時45分、鴨沢バス停からスタート。

霧の中を進んでいく。

7時8分、駐車場を通過。

7時12分、登山口を通過。

後半に失速した前回の反省をもとに、ペースを抑えながら進んでいく。

8時9分、堂所に到着。登山口からの所要時間は前回と同じ約60分だが、今日は休憩しなくても良いほど体が軽い。水分補給をした後、出発。

8時37分、七ツ石小屋下を通過。堂所から失速することなく、25分ほどで到着。前回は40分ほどかかっている。

8時45分、七ツ石小屋を通過。

水場で少し休憩してから出発。

9時、石尾根に到着。堂所からの所要時間は50分ほど、前回の60分と大差ないが、ペース配分を変えたおかげで疲れはほとんど感じない。

さっそく、今日の最大の目的であるトラップ回収へ。

かなり適当に設置したトラップのため、1つは大雨でかなり水没。腐肉は残っていたが、幸か不幸か虫が全く入っていなかった。もう1つは獣にひっくり返され、腐肉を持ち去られていた。来年はもう少しまともな構造のものを仕掛けることにしよう。

最大の目的を果たしたので、とりあえず山頂へ。尾根にはまだ薄く霧がかかっているが、消えていきそうな気配。


アサギマダラ

ひらひらと飛んできて、マルバダケブキの花に止まった。

9時12分、七ツ石山山頂に到着。山頂を覆っていた霧が急速に消えていく。

5分後、雲が西へ移動して真夏の太陽が照り付ける。どのくらい持つかわからないが、花掬いの絶好のチャンス。まず、近場の花の状況はどうなっているか。

山頂のすぐ裏にあるリョウブはほぼ満開。遠目に見ても虫は飛んできている。

前回も見たノリウツギ・リョウブのポイントはまだ花が残っている。こちらもホオナガスズメバチを中心に虫が来ている。

前回パキタが来たポイントまで移動するのは時間ロスが大きい。この2ヶ所に賭けよう。

2つの花を往復しながら、飛んでくる虫を網で掬っていく。


マルガタハナカミキリ


チャイロヒメハナカミキリ


チャボハナカミキリ


メスグロカミキリモドキ


フタスジハナカミキリ

前回も狙っていたブチヒゲハナカミキリが飛んできてほしいのだが、網に入るのはいつもの顔ぶれ。

一方、ホオナガスズメバチのオスも結構飛んでくるので、カミキリムシがいない時を見計らってネットイン。


シロオビホオナガスズメバチ

頭楯の斑紋は個体変異が結構あるらしい。


ホオナガスズメバチの一種

種名が確定できない個体が今日も採れた。実は前回も採っている。

時間が経つにつれて、2ヶ所の日当たり具合が変化する。ノリウツギ・リョウブの方は日陰になってしまったので、満開のリョウブの前にいる時間が自然と長くなる。


オオクロカミキリ♀

これまで掬っていない部分を掬ったら入った。花には来ないはずなので偶然止まっていただけか。


ヨツスジハナカミキリ(斑紋変異)

上翅の斑紋が消えかかっている変異個体も網に入った。最初はヤツボシハナカミキリかと思ったが斑紋以外はヨツスジハナそのもの。


コシボソスカシバ

いつの間にか網の中に入っていた。シラカンバ、ダケカンバなどの細枝に幼虫が穿孔する。

スカシバガも花掬いで狙えることを意識した直後だった。リョウブの葉に透明な翅を持つ虫が静止していることに気づく。翅には斑紋があり、ハチではないことはすぐにわかった。その斑紋パターンをじっくり見て、息をのんだ。スカシバガ、しかも今まで採ったことがある種とは明らかに違う。腹部の斑紋は角度の問題ではっきり見えないが、たぶんフトモンコスカシバ。成虫はもちろんのこと、幼虫の採集はほとんど不可能とも思えるほど難しい。これは、網の中で多少ボロボロになったとしても絶対採らなければ。

長竿を握る手に自然と力が入り、どのコースで振り抜くか計算する。その瞬間、殺気が伝わってしまったのだろうか。スカシバガはいきなり離陸。焦って網を振り抜くが、この時点で勝負あり。網の脇をすり抜け、はるか遠くへ飛び去って行った。

再び雲に覆われるまで、残り時間はあまり残されていない。この日一番の大物を手にするチャンスを逃したことを悟った。前回のパキタの時はそれと認識せずに気楽に網で掬うことができたが、今回は事前に認識できたがゆえに失敗してしまった。昆虫採集ではよくあることだが、やはり悔しい。

それでも、わずかな可能性に賭けてリョウブの前で待ってみる。日差しがだんだん弱くなり、ハチの飛来すら急激に減っていく。


ヤマトヨツスジハナカミキリ♂

追加できたのはこのカミキリくらい。

10時16分、再び山頂は雲に覆われてしまう。もう晴れることはないだろう。

せっかくここまで来たので、草地に無数に潜んでいるツトガをいくつか採集。


ウスギンツトガ

ミヤマウスギンツトガに似ていて写真だけでは判別しにくいが、採集して交尾器も後日確認しているので本種で間違いない。


クロスジツトガ

これは斑紋で同定可能。ウスクロスジツトガ、ウスキバネツトガとは斑紋が異なる。

2種を採集した後、尾根沿いで軽くビーティングしてから帰ることにしよう。

尾根を戻ってビーティングをしていくが、虫がほとんどいない。天候不順で気温が低かったのだろう。

さらに歩いていくと、樹上で物音がする。一体何事かと見上げてみて、体が固まった。すぐ隣にある木の地上3階くらいの高さにいたのはツキノワグマ。通算3回目の遭遇、今回は最も距離が近い。私が気づかなければそのまま樹上でやり過ごすつもりだったのか。

とにかく、慌てず騒がず、相手の様子を観察。クマは発見されて相当怖がっている模様で、必死に木を降りようとしている。木登りは速くても降りるのは苦手で時間がかかるはずなので、ゆっくりと後退して木から遠ざかり、クマがどの方向へも逃げられるようにする。不器用な足取りでようやく降りてきたクマは一目散に藪の中へ消えていった。

12時14分、霧もさらに濃くなってきたので下山開始。

クマに遭遇しないよう気をつけながら下っていく。

12時33分、七ツ石小屋下を通過。

12時53分、堂所を通過。標高が下がって雲を抜けたので視界は良好。

13時37分、登山口を通過。下山は体力を使わないので前回も今回も所要時間・疲労度ともに大差ない。

13時40分、駐車場に到着。山頂と違って、山麓は夏の日差しが降り注ぐ。

ここからバス停までちょっと回り道。実は前回の奥多摩探索で、ホイールキャップをどこかで落としてしまったのだ。普通に走っている分にはまず脱落しないので、考えられるのは夜道で受けたあの衝撃。その現場まで歩いて行ってみる。

この林道、舗装の状態はあまり良くなく、所々に大きな穴がある。前回の夜、それに気づかずに突入してしまい、車体に大きな衝撃を受けた。その場所にたどり着くと、すぐに落とし物が見つかった。

奇跡的にガードレールで止まり、斜面に落ちなかった。斜面に落ちていたら探すのが大変だったのでラッキー。

歩いたついでに、1区間先の東京都側のバス停へ。公衆トイレに居残り蛾がいないか期待したが、何もいなかった。

奥多摩駅に戻ってみると花火大会のため混雑していた。明日は盆踊り大会のためもっと混雑するのだろう。

雲の切れ間で巡ってきた大物の虫を採るチャンスは生かせなかったが、トラップとホイールキャップの2つを無事に回収できたのでとりあえず良しとしよう。

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