奥多摩:新たな尾根

2017.Sep.15

大学での研究室生活が始まった2005年に初めて訪れて以来、季節や天候を変えて何度となく登ってきた奥多摩の原生林の尾根。四季折々の花が咲き、立ち枯れや樹洞も豊富で、長年通うことで多様なカミキリムシに出会うことができた。

しかし、調査エリアには他にもいくつかの尾根がある。昆研の後輩NT氏は別の尾根に通っているが、採ってくる虫の顔ぶれがだいぶ違う。聞くと、樹相が若干異なり、その尾根にしか見られない環境もあるらしい。晩夏の大物を狙う時期も過ぎたので、新規開拓も兼ねて登ってみることにした。


日付が変わる頃、奥多摩駅に到着。

いつものように、蛾像収集へ。


ヤママユ

秋の到来を告げる大型蛾。


クロシデムシ

ようやく東京都産を見つけることができた。鳥獣が多い豊かな環境を住みかとしている。


キスジツマキリヨトウ

今夜の新顔はこれ。道路脇のウツギ類の葉に静止していた。

朝6時過ぎ、起床。体力回復のためいつもより1時間遅く起きた。第2便のバスに乗り、登山口を目指す。

いつもと違うルートから登山開始。

植林の中を黙々と登る。

途中、NT氏から情報を得ていた場所に到着。植林の脇に残された、アカマツ群落。

ここで東京都で1例だけ記録がある秋のカミキリムシを狙うのが今日の最大の目的。しかし、下枝を掬うにも20m竿がないと届かない。

倒木もいくつかあり、ここが植生遷移の過程で取り残された最後の場所という印象。

楕円形の羽化脱出孔はウバタマムシか、クロタマムシか。とにかく、来年は別の方法で狙いの虫に出会うことを考えよう。

最大の目的が早くも達成できなくなったので、あとは下見をするだけ。しばらく登って、広葉樹林に出る。

いつもの尾根と違うのは、林床が石で覆われていること。風が直接当たるため、落葉が吹き飛ばされるのだろう。

風が強いということは、立ち枯れが長持ちせず倒木になりやすいこと。カミキリムシが集まる鮮度の高い倒木も期待できそうだ。今日は腰に不安を抱えているのでこの辺りで引き返す予定だったが、この奥に広がる環境を見てみたい一心で先へ進む。

さらに奥へ進むと、七ツ石山~千本ツツジのような雰囲気が出てきた。ブナの大木が点々と生えているのも良い。

途中、ヤマブドウの手頃な株があったのでちょっと探索。

枯蔓を折ると、材の中心部に食痕。蛹越冬する触角が長いトラカミキリを期待して慎重に割ってみる。

すると、蛹が出てきた。ただし、この時点で複眼が色づいているということはもうじき羽化。触角も通常のトラカミキリ程度。

他に虫はいないか、残りの材を割ってみる。


アカネトラカミキリ

材割りでは久しぶりに遭遇。さきほどの蛹もおそらく本種に化けるだろう。これ以上の深追いはせず、先へ進む。

しばらくすると下層植生が急に豊かになり、湿度が高まってきた。この環境なら、標高も高いのでフジコブがいるはず。

枯葉がないか注意しながら進んでいると、足元にイチゴ類の枯葉が見えた。腰の不安など関係なしに条件反射でしゃがみこみ、ビーティングネットを下にセットし、軽く叩く。

やはり、落ちてきた。


フジコブヤハズカミキリ

奥多摩ではかなり久しぶりに見た気がする。ニホンジカの進出による環境悪化で生息が心配されているが、ここにも生き残っていたようで何より。

さきほどの枯葉をもう一度見ると、食痕がしっかりついていた。

いることがわかったら、目視で探した方が良い。特に、草丈が低い所ではビーティングは非効率的。

成虫が潜んでいそうな空間的配置にある枯葉を優先して見ていく。

だいたい、触角が飛び出しているのですぐにわかる。

運が良ければ体全体が見えることもある。いつもの尾根ではなかなか出会えなくなっているが、ここは健在で良かった。

13時20分、山頂に到着。腰に不安があったが、結局ここまで来てしまったか。休憩後、周辺を軽くビーティング。すると、広葉樹倒木から見覚えのある大きな甲虫が落ちてきた。


ツメボソクビナガムシ

クビナガムシ科では日本最大で、秋に出現する珍種。昆研の先輩が南会津で採集した個体を昔見たので、すぐに種名はわかった。東京都ではどうやら未記録のようで、とても貴重な種。ここまで登ってきた甲斐があった。

来年、また来ることを楽しみにしながら、下山。

16時台のバスに乗って、奥多摩駅へ戻る。奥多摩駅に着いた時点でまだ十分に明るいので、前々から目星をつけていた場所へ向かう。

今年5月から目星をつけていた、ケヤキの大木。

道路沿いに生えているので毎年剪定されるのだが、今年は太い枝が剪定により部分枯れとなった。ここに、産卵に来るはず。

到着早々、すぐに赤い虫が目に飛び込んできた。

光学4倍ズームではこれが限界。急いで長竿に網をセットし、ネットインを試みる。シラビソの幹に止まるキジマトラで簡単にできたことが、たった2m先にいる今日のターゲットにはできず、落下・・・・。

でも、諦めずに推定落下地点を探すと、葉の上に着地していたのを発見。今度は枝ごと掬い取る勢いで網を振り抜く。


アカジマトラカミキリ

野外採集は2014年の奥多摩以来、2回目。赤色の濃い美しい個体だ。これは累代飼育を試みることにしよう。

当初の予定とはだいぶ違った探索になったが、なかなかお目にかかれない秋の虫を見つけられて良かった。現地の情報を快く提供してくれたNT氏に感謝。

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