陸奥(みちのく)のスカシバガ

2017.Mar.25-26

透明な翅と腹部の縞模様でハチに似た姿をしているスカシバガ。

果樹の害虫として古くから知られる種も存在する一方で、

平地の里山など身近な環境に生息していたにも関わらず、

長年にわたって虫屋の眼をすり抜けてきた種も多い。

1990年代になるとこの科の分類学的・生態学的研究は加速する。

日本産39種を示した「擬態する蛾スカシバガ」(有田豊・池田真澄, 2000)や、

フェロモンルアーによる採集の普及により、スカシバガ屋さんが急増。

そして、21世紀になっても日本各地で新種発見や日本初記録が続いている。

日本国内で21世紀になって発見されたスカシバガは現在8種。

分布や寄主植物の関係で採集難易度が高いものが多い中、

ひとつだけ自分にも狙えそうなものがあった。

それは2014年に新種記載されたミチノクスカシバNokona michinoku

ブドウスカシバ、ムラサキスカシバによく似るため見逃されてきたようで、

初めてその存在が認識されたのは2009年になってから。

分布は現在までのところ青森県と岩手県に限定されているが、

寄主植物はエビヅルとノブドウで前2種と共通し、穿孔様式もほぼ同じ。

遠征にあたって1ヶ月ほど前から情報収集を開始。

記載論文には採集地点が明記されているので入手して確認すると、

青森県内でも記録がない地域が多いことがわかった。

それならば、行先は敢えて未記録地域にしよう。

エビヅルもノブドウも、人里でごく普通に見られる植物。

広い県内でまだ調査されていないだけで、きっと生息しているはず。

目慣らしとして近所でムラサキスカシバの虫えい採集をして、

必要最低限の道具を手に新宿発の夜行バスに乗り込んだ。


午前7時、夜行バスを降りて青森県初上陸。

心配していた雪はほとんど残っていないように見えたが、

レンタカー屋に向かう途中の田畑はほとんど雪に覆われていた。

それでも長靴でなんとかなる程度だったので一安心。

コンビニで朝食を買って食べ、レンタカー屋さんの営業開始を待つ。

営業開始とともにレンタカーを借りて、一気に北上。

めぼしい場所を見つけたので、眺めが良い駐車場所に車を停める。

目の前に広がるシジミの一大産地を写真に収めてから探索を開始。

今回は虫えい採集なので、まずは寄主植物を探す。

エビヅルもノブドウを簡単に見つけようと思ったら、まずはこういう場所。

蔓性植物はたくさんあるが、エビヅルやノブドウは遠くからでも比較的見つけやすい。

クネクネと折れ曲がる特徴的な蔓の伸び方をするのだ。

ここで見つけたのはノブドウ。

金網に沿ってひととおり見ていくが、不自然に膨らんだ部位はひとつも見つからず。

周囲の環境も悪くないし、関東周辺ではこの立地ならまず間違いなく虫えいがある。

探索時間は限られているので、早々と見切りをつける。

車に乗る直前に見つけたエビヅルの枯蔓(カミキリムシ幼虫入り)だけ確保。

次に目を付けたのはこんな場所。

柵に絡みつくエビヅルが点々と見えた。

近くに車を停めて探索開始。

エビヅルの株数は多いものの、短く刈り込まれていて虫えいは見当たらず。

しかし、反対側に眼を向けると立派なエビヅル群落を発見。

斜面ではフキノトウが満開で、ニホンミツバチの姿も。

春の陽気に汗ばみつつ、低木に絡みつく蔓をじっくりと見ていく。

そして、ようやく1本見つけた。

剪定鋏で割ってみると、虫糞がぎっしり詰まっている。

粒状なのでカミキリムシではなく、鱗翅目幼虫のものと判断できる。

慎重に割っていくが、なかなか幼虫にたどり着かない。

結局、途中で行き止まりになってしまった。

残された脱皮殻からスカシバガの仕業であることはほぼ確定。

ここに生息していることは確認できたので、次に期待しよう。

通常なら1本見つかれば周囲に複数あるのだが、次の1本がなかなか見つからない。

幼虫が穿孔することによるわずかな変化も見逃さないよう感度を上げて、

1度探して見つからなかった場所でも2度、3度と見ていく。

しばらくして、ようやく2本目を引き当てる。

折った部分から食痕が両方向に伸びていた。

まず根元側の太い方を割っていくが、何も出てこないまま行き止まり。

末端側の細い方も割っていくが、糞が途中で途絶えて空洞が続く。

坑道が細いので幼虫がいる気がしないが、可能性はゼロではないので慎重に割っていく。

すると、糞でできた栓が現れ、その先に幼虫の姿を発見。

第8腹節の気門の位置も確認したので、スカシバガ科であることは間違いない。

今回の遠征の目的にようやく出会えてほっとしたが、これで目標達成ではない。

ミチノクなのか、ブドウなのか、羽化するまでわからないからだ。

それに、寄生蜂による途中死亡ということも経験している。

とにかく、ある程度の個体数を確保しなければ。

それにしても、1本目も2本目も、関東で見る虫えいより随分と細かった。

2本目を引き当てた場所を中心に、さらに感度を上げて探していく。

3本目、これはすでに穴が空いており前年に羽化したものとわかった。

4本目、今度は当たり。

穿孔部位は他の部位と大して変わらぬ太さで、

ちょっと見ただけでは虫えいとは気づかないほど。

5本目、鳥に先を越されて食べられていた。

昆虫にとって人間に次ぐ強敵である鳥は、蔓の中にいても常に狙ってくる。

この後、もう少し追加個体を得たので次の場所を求めて移動する。

次は、畑と雑木林の境界。

ゆっくり走っていたのでエビヅルがあるのが目にとまった。

立派な虫えいも見つかったが、残念ながら前年のもの。

幼虫が入っているものはこの株では見つからず。

周辺にも数株あったが、羽脱孔が出来ているものばかり。

しかも、よく見ると枯れているものが多かった。

東北でブドウ類の枯蔓といえば、トウホクトラカミキリ。

可能性を考え、蔓を割ってみる。

幼虫はすぐに出てきた。

ただし、顔はちょっと違う気がする。

おそらくブドウ類枯蔓の常連3種のどれかに化けると思うが、持ち帰ってみる。

このあたりで、お昼の時間。

地元の名物を食べることにしよう。

しじみの汁焼きそば

道の駅で一押しのメニューのようだ。

体力が一気に回復したところで、午後の探索へ出発。

次へ(準備中)

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