奥多摩:山小屋の最後の夏

2018.Aug.3-4

今年、奥多摩の主要な駅やバス停にはこんなお知らせが出ている。


奥多摩小屋の閉鎖のお知らせ

山小屋なんてずっとその場所にあり続けると思っていたが、終わりの日は突然にやってくる。これまで泊まったのは2008年、2013年の2回だけ。こんなことなら、もっと来て灯火採集をやっておけばよかった。過ぎた時間は戻らない。せめて最後の年にもう一度泊まっておこう。


体力面からいくと、記録的な暑さを避けて早朝のうちになるべく登り切ってしまいたい。太陽が高くなるにつれて花上の虫影は薄くなるので、できれば8時前に稜線上に出たいところ。

ということで、登山口まで最も近づけるように車で出発。奥多摩駅付近で仮眠をとり、夜明けとともに登山口へ。

午前6時、登山開始。

高低差がほとんどない道を黙々と歩いていく。

6時55分、堂所に到着。ここから先は勾配が少しだけきつくなる。

7時30分、七ツ石山直下に到着。この先は登りが続く。

7時40分、七ツ石小屋を通過。

7時45分、水場で一休み。

8時ちょうど、稜線上に出る。


アキアカネ

すでに多数の個体が活動を開始している。

8時7分、七ツ石山の頂上に到着。だいたい予定時間に着いたが、すでに暑い。

休む間もなく、周辺の開花状況をチェック。

ノリウツギは終了、リョウブは盛りを過ぎたくらい。直射日光が当たっていないので、この気温なら虫には良い条件。さっそく掬ってみる。


ミヤマクロハナカミキリ


ヨツスジハナカミキリ

カミキリムシはこの2頭のみ。この先、新たな飛来はあるのだろうか。

続いて、この日当たり抜群のリョウブ。経験上、ハナアブには良いが、甲虫には条件が悪い株。


オオヒメハナカミキリ

多数のハチに混じってカミキリはこの1頭のみ。やはりこの株にはあまり期待しないでおこう。

続いて、半分だけ日が当たるこのリョウブ。株の勢いはあまり良くないが、周辺ではもっとも好条件か。観察しているとハナカミキリが飛んできたので掬ってみる。


ブチヒゲハナカミキリ

なんと、奥多摩自己初採集のカミキリ。2007年にToki氏やペプチドグリカンA氏が採って自分は採れなかったが、ようやくこの手に収めることができた。これで、奥多摩のハナカミキリは残すところあと9種。

状況が確認できたところで、しばらくこの周辺で粘ってみよう。3ヶ所あるリョウブの株を時間間隔をあけて順番に掬っていく。

しかし、真夏の太陽に照らされて気温は急激に上昇。まだ9時にもなっていないのに、虫の飛来状況は良くない。掬っても何も入らないのは明らかな状況では、花を散らさないためにも無駄に掬わない。たまに飛んできた虫をピンポイントで狙って掬う。


フタスジハナカミキリ

いつもならもっと飛んでくるのだが、この1頭だけ。


オオトラフハナムグリ

斑紋変異があり、これは黒っぽいタイプ。


ヤマトヨツスジハナカミキリ♂

これは少ない種なので嬉しい。


スズキナガハナアブ

すでに神戸では採集していたが、東京都では自己初採集。

9時半頃まで粘ったが、暑すぎてこれ以上の飛来は絶望的。さらに、暑さで頭がぼーっとする。とりあえず、先へ進んで日陰のあの花へ行ってみよう。

稜線沿いの道が林内へ入るところにノリウツギがある。

ごくわずかに花が残っている。

「咲かずとも虫を呼び寄せ糊空木」

開花前の蕾の段階でも虫が飛んでくるくらいなので、花がわずかでも残っていれば何かしらカミキリがいるもの。


キヌツヤハナカミキリ

やはり、呼び寄せられているカミキリムシがいた。


オオトラフハナムグリ

これはオスなのにかなり黒い。

残りの花はごくわずかなので、待っていても虫が飛んでくるとは思えない。もう花掬いは諦めて、別の採集へ切り替えることにしよう。

亜高山帯に来たからには針葉樹を攻める。先日の台風襲来で発生した新鮮な倒木や枝折れを期待して、林縁を見ながら進んでいく。

しばらく進むと、緑の並木道に茶色い部分を発見。

台風よりも前に折れたもののようだ。このくらいの鮮度なら虫がいろいろ寄ってきそうだ。気配を消して、そっと近寄る。


クワサビカミキリ

目視で見つけたカミキリはこれだけ。このあと、ビーティングでエゾサビカミキリを追加。シロオビドイカミキリにはまだ時期が早いか。

続いて、折れても幹とつながっている枝を見ていく。

地衣類で白くなったところに虫影を発見。


ミヤマモモブトカミキリ

ようやく見つけた、奥多摩自己初採集。産卵加工をしているところのようだ。あまり縁がない種で、過去には柳沢峠で幼虫採集した1頭のみ。

同じような枯枝を求めて、先へ進む。

途中、去年パキタが飛んできたポイントを通過。ノリウツギは終了、リョウブも終わりに近く、虫影はほとんどない。

11時、奥多摩小屋に到着。

3度目の今回が最後の宿泊。扉を開けて中に入り、手続き。そして、また出発。

斜面を登り切り、これまで来た道を振り返る。ここからは針葉樹林の探索。

シラビソの新しい立ち枯れを発見。近寄って一周見て回る。


シラフヒゲナガカミキリ

久しぶりの再会。初めて見た時はシラビソ倒木にたくさんいたが、その後は数えるほどしか出会っていない。


御神木のコメツガ

まだ時間帯が早いのか、亜高山帯の虎の姿はない。

登山道を進みながら新しい枯木を探す。

これは昨年もあったので古い倒木。

これは先日の台風で折れたばかり。あまりに新しすぎると虫が寄ってこないのか、何もいない。

長い上り坂を延々と歩いて特別保護区ギリギリまで行ったが、これぞという針葉樹の枯木がない。暑さで体力をかなり消耗し、頭がぼーっとする状態で引き返す。

長い下り坂を過ぎて、ようやく緩やかな尾根に戻って来た。少し元気になってきて、立ち枯れを見る余裕が出てくる。


樹皮の脱落が激しい立ち枯れ

遠目でも虫影が確認できたので近寄ってみる。

産卵中で逃げる様子はない。


フタスジハナカミキリ

ちょうど産卵管を差し込んでいるところだった。

登山道に戻ってしばらく歩くと、前方から何か赤い虫が飛んでくる。進路を見定めて、軽く網で掬う。


ブチヒゲハナカミキリ

本日2頭目。午前中の個体より立派な体格なのでメスのようだ。

前胸背には毛がびっしり生えている。良く似たイガブチヒゲハナカミキリは毛がほとんど生えていない。ここを見なくとも上翅の色が違うことで慣れれば簡単に区別できる。

続いて、斜面にある別の立ち枯れ。これはまだ樹皮が残っている。


アカハナカミキリ

遠目にはイガブチヒゲハナカミキリに見えたが、触角を見た瞬間にその期待は消えた。

午前中にシラフヒゲナガカミキリがいた立ち枯れを再び見る。

表面にはカミキリムシの姿はなかったが、樹皮が浮いたところが気になったので調べてみる。


オオクロカミキリ♀

このあたりではよく見かける。オスは珍しいようで、まだ出会ったことがない。メスがいる場所にはオスもいるはずなので、この立ち枯れに簡易のトラップを仕掛けておく。

16時、奥多摩小屋へ戻ってきた。午前中にはなかったテントが設営されている。テント泊ができるのも今シーズン限り。

テントの近くにはタテハチョウが飛んできていた。


キベリタテハ

まだ新鮮な個体で、とても美しい。気配には敏感で、これ以上は近寄れなかった。

17時、奥多摩小屋に入って荷物を置く。西側にも客室があったはずだが、損壊のため立ち入り禁止。

これまで2回しか泊まっていないが、3回目の今日で最後か。

一休みした後、ライトトラップを仕掛けに行く。

飛来した虫が居残るように落葉で隠れ場所を作っておく。

この後、夜中に一度起きて虫の飛来状況を確認するつもりだった。昼間の暑さで体力消耗があるとはいえ、これで最後の灯火採集なので少々無理をするべき。でも、疲れに負けて眠り続けてしまった。


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