谷津田に眠る赤い星

2018.Jan.6

千葉県成田市に引っ越してきたのは5年前の4月。空港とともに出来たニュータウンの周りには水田地帯が広がる。基盤整備された味気ない圃場が多い中、わずかに昔ながらの湿田が残る。その湿地環境に今も生き残っているという美麗アオゴミムシを求めて、毎年冬になると市内各地の谷戸を怪獣たちと一緒に巡ってきた。コキベリアオゴミムシ、オオキベリアオゴミムシはわりと簡単に見つかったが、残る1種は広く薄く分布しているらしいのだが、なかなか出会えない。

オオサカアオゴミムシ

河川敷、池沼、水田のそばの草地に生息し、千葉・茨城両県では広く薄く分布。「大阪」の名を冠しているが、関東地方に生息地が多い。生息地ではコキベリアオゴミムシと同じ場所で越冬することが多いらしい。

2014年1月に生息地を案内してもらったが、残念ながら発見に至らず。その後も同様な生息環境を求めて各地を巡るが、不発。一体何が足りないのか、わからないまま5回目の冬を迎えた。転勤族なので次の冬はもうないかもしれない。もう一度、案内してもらった生息地へ行って感覚を掴むことにした。怪獣1号、2号、3号とともに、出発。


15時、懐かしい谷戸へ到着。すでに日が傾いており、探索に充てられるのは1時間ほど。

さっそく、車を停めたすぐ近くの崖を掘ってみる。

ササの根が絡んでいて隠れるのには好都合に見える。過去に掘った時にはコキベリアオ止まりだった。今日はどうだろうか。怪獣1号・3号とともに掘り、出てきた虫は回収係の2号へ。


トウホククロナガオサムシ


ムナビロアトボシアオゴミムシ


ヒメキベリアオゴミムシ

アオゴミムシ類もそこそこ出てくるが、狙いの種ではない。そもそも、オオサカアオと同様な環境にいるコキベリアオゴミムシが一切出てこない。顔ぶれをみる限り、水田から離れすぎているのだろうか。

30分ほどで見切りをつけて、別の場所を探す。

次に目をつけたのはこんな場所。水路は片側しかなく、しかも底は田面と同じ高さ。畔は幅広く、緩やかに雑木林の林床へと続いていく。秋の落水後も土壌は干上がることなく、適度な湿気が保たれる。かつてはどこにでもあったはずの、ごく普通の環境なのだろう。

水田の両脇に深い水路を掘ったり、暗渠排水設備を埋めたりして、大型機械の使用を可能にする乾田化が徹底された現在、このような湿田はなかなか見られなくなっており、農薬とともにアキアカネの重要な減少要因となっている。

さて、どこを掘るか。

水田のまわりをざっと見渡して、ある一ヶ所に眼が留まった。雑木林の林床が浅い水路と出会うところに固く締まった土があり、少しだけ亀裂が入っていて、木の根が絡んでいるのが見える。これは、ゴミムシが潜り込むには絶好の場所。

すぐに手鍬で掘ってみると、アオゴミムシの塊が出てくる。突然の襲撃に驚いて四方八方へ逃げていくが、その中に1匹だけ違う虫が混ざっているのを見逃さなかった。


オオサカアオゴミムシ

緑に輝く頭部、鮮やかな前胸、上品な上翅の縁取り。5年目にして、ようやく出会うことができた。

亀裂はさらに奥へ続いているようで、ゴミムシの姿がまだ見える。

ほとんどがアオゴミムシのようだが、明らかに違う色の虫もいる。潰さないように周りから慎重に崩していく。


コキベリアオゴミムシ

オオサカアオと一緒にいるというゴミムシ、やはり同じところで越冬していた。

怪獣1号に続きを掘らせて写真を撮っているうちに、怪獣3号は水路の泥に足を取られて転倒。靴下までドロドロになり、眠気も襲ってきて泣き出す。ここで残念ながら探索は終了。

気づいたら16時、谷戸はほとんど日陰になっていた。1時間の滞在だったが、1匹だけでも見つけることができて良かった。この場所を教えてくれた同僚に感謝しつつ、次はぜひ千葉県内で。

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