2020.July.23
奥多摩から記録があるカミキリムシのうち、幻の存在ともいえる難関種はいくつかいる。アサカミキリもそのひとつだ。
戦前は麻の害虫として有名だったが、麻の栽培禁止とともに全国的に激減し、アザミ食いの個体群が細々と生き残るのみ。奥多摩では2000年代に初めて記録されたが、採集自体は1980年代のもの。生息地はその後消失してしまい、再調査でも発見に至らなかったという。
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この産地は森林内であり、本種としては例外的。ただし、以前その環境を見た限りでは、確かに本種の生息は不思議ではないと感じた。そして、報文は次の言葉で締めくくられていた。
「周辺地域にこのような隠れた産地が存在するかもしれない」
この可能性を信じて、条件が合致する場所を日頃から探していた。そして、昨年とある場所へ密かに下見に行ってきた。この時は天候不順と装備不足で撤退したが、良さそうな環境。今年こそは本格的に探してみよう。天気予報では雨だが、気配に敏感な本種の探索には好都合。装備を整え、奥多摩へと向かった。
10時、奥多摩駅に到着し、バスに乗り込む。空は雲に覆われ、弱い雨が降っている。バスに揺られながら、目的地を目指す。
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目的地に到着。下見の時と同じく、アザミが繁茂している。
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傘を差しながら、点在するアザミ群落を丹念に見ていく。
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葉脈沿いに細い食痕が見えるだろうか。おそらくヘリグロリンゴカミキリの仕業。この天気なので食痕の主の姿は見当たらない。
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こういう、少し太めの食痕も目に付く。
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シラクモゴボウゾウムシ
太めの食痕はこのゾウムシの仕業か。
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しかし、アザカミキリも似たような食痕を残す。食痕の数は多いので、それらの中にはもしかすると...。そう信じながら、ひたすらアザミを見ていく。
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このように頭一つ抜き出ている株もある。晴れている日はこういう株が狙い目かもしれないが、雨の日は逆に目立たないところにいるはず。
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アザミをたくさん見ていると、中にはこのように茎頂部にダメージがある株も見つかる。
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このように明らかに折られているものもある。考えられるのはニホンジカか。
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そして、探索開始から40分が過ぎた頃だった。
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ついに、思い描いた通りの虫影を捉えた。
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見えるだろうか。
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ついに、見つけてしまった。
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でも、ここまで近づいた段階で、気づいてしまった。遠目から逆光で見た時の興奮が、一気に冷める。
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ヒメヒゲナガカミキリ
やはり、そう簡単にはいかないか。フトカミキリ亜科までは合っていたのだが。それにしても、あんなところで雨宿りするとは、実に紛らわしい。
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気を取り直して、探索を続ける。
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それから15分後のこと。ふと、視野の端に触角が見えた気がした。
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たしか、このあたり。
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やはり、いた。今度は順光なので正体はすぐにわかった。
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ヤツメカミキリ
大きさと体形はいい感じだが、明らかに違う。でも、トホシカミキリ族なので先ほどよりは近づいたか。雨を避けて下草まで降りてきたのかもしれない。
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その後も探索を続けるが、すべての株を見終わってしまった。もう一度、最初の場所に戻って同じことを繰り返すが、結果は変わらず。ヒゲナガカミキリ族からトホシカミキリ族まで迫ったので、あと一息だが...。
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以下、ここまでの探索で見かけた数少ない虫たち。
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キクキンウワバ
気配を感じて飛び立とうとして、翅を震わせていた。
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ナキイナゴ
奥多摩では初めて見るかもしれない。ここは本種が住めるような環境ということがわかった。
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2回目の巡回が終わったところで雨が激しくなってきた。明日もあるので、ここで撤収することにしよう。
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バスの車内で今日の探索を振り返っているうちに、当初のイメージと異なる点に気づく。葉脈に見られた太めの食痕はやや古いものばかりだった。もしかして、発生はもう少し早いのかもしれない。来年への課題としよう。