ナンキセダカコブヤハズカミキリ
累代飼育記録

2010.July 1- 2011.May 26

2010年6月30日、初めてナンキセダカコブヤハズカミキリに出会った。

自力ではオスしか見つけられなかったのだが、

ありがたいことにメスを譲っていただいた。

せっかくなので、累代飼育に挑戦してみることにした。


1.産卵材の選定

ベテラン虫屋さんのアドバイスや野外での採集経験上、

「セダカは菌が回った材が好きらしい」

「樹皮はしっかり残っているものが良い」

「樹皮下は柔らかく朽ちているものを好む」

この条件を満たすことを念頭に置いて、身近なところで産卵材を選んでみた。

サクラの部分枯れ

やや古めの桜並木では、このような部分枯れが必ず見つかる。

キノコが膜のように樹皮を覆っているものを探して、産卵材に使うことにした。

市販のクワガタ用産卵木(コナラの廃ほだ木)

菌がまわっている材といえば、シイタケ菌はどうだろうか。

近くのホームセンターで、樹皮が厚いものを選んで購入してきた。

材箱に残っていたカバノキ科材(ヨツボシナガクチキ羽脱済み)

菌との関係が注目されて久しいナガクチキが穿孔していたものだから、

試す価値があると思い、材箱から出がらしを取り出して使うことに。


 2.飼育容器

容器の底には昆虫マットを敷き詰め、適度に加水してから材を配置。

コブヤハズカミキリ類の幼虫は材の中でも湿度が保たれている部位で発見される。

つまり、メスは湿度の高い部分を選んで産卵するということ。

材の湿度を保つべく、材をマットに1/3ほど埋没させた。

成虫は材の樹皮を食べるので、特別にエサを用意する必要はない。


3.飼育開始

飼育容器が整ったところで、オスとメスを各1匹ずつ投入。

これだけボロボロの個体ならば交尾済みとは思うが、念のため。

交尾が確認された後、オスは別容器に隔離。

メスには産卵に専念してもらうことに。

そして、1週間後のこと・・・・。

サクラ材に産卵痕らしきものを発見。

これは期待が持てそうだ。

採集してから2週間後の7月15日、ナンキの♀は静かに息を引き取った。

最後の数日はボロボロの体で歩くのもやっとの状態だった。

果たして産卵しているかどうか非常に気になるところだが、

小さな若齢幼虫を割り出すのはダメージを加えてしまうリスクが大きい。

マットを定期的に加湿しながら、幼虫がある程度大きくなるのを待つことに。

生息地ではありえない温度条件だが、なんとかなるはず・・・。


4.幼虫の回収

親が旅立ってから2ヶ月が経とうとしていた9月4日、

ふと思い立って、材を確認してみることにした。

幼虫は樹皮下を食い進むので、材部に潜る種類よりも回収は簡単だ。

果たして、次世代は育っているのだろうか。

まずは、サクラ材から。

高湿度条件で菌による腐朽が進み、素手でも容易に崩せるほどになっている。

樹皮下には粗い木屑が詰まった食痕が至るところに走っている。

画像上方の食痕がない一角との差は歴然としている。

確かな手ごたえにも慌てることなく、さらに慎重に樹皮を剥がす。

幼虫が姿を現した。

”顔”も、セダカのものに間違いない。

さらに樹皮を剥いで、幼虫を取り出す。

意外と大きく育っていたのは、温度が高いからか。

あと何匹いるのだろうか、期待しながら残りの樹皮を剥いでいく。

個体差の大きい幼虫が至近距離で見つかった。

これ以降幼虫は見つからず、回収したのは計3匹であった。

食痕の割に個体数が少ないのは、もしかしたら共食いしたのかもしれない。

ちなみに、一緒に入れておいた他の材からは食痕すら見つからなかった。


5.菌糸カップへ投入

回収した幼虫は、中村(2003)と同じく菌糸カップで飼育することに。

これまでもイワワキセダカや摩耶山セダカの飼育で成功している飼育方法だ。

参考:中村裕之(2003)菌糸ビンで飼えるナンキコブヤハズカミキリ. 月刊むしNo.389:33-36.

適当に穴を掘って、幼虫を放り込んで蓋をする。

翌日、幼虫は底面まで坑道を掘り進んでいた。

あとは高温と乾燥に注意しながら安置するだけ。


 6.途中観察その1

これまでの飼育経験からして、幼虫は順調に育つと思っていた。

しかし、一番小さい個体は菌糸の内部に潜りこむことなく1週間以内に死んでしまった。

2番目の個体も底面でじっとしていることが多く、坑道がなかなか進まない。

脱皮前で一時的に食欲が落ちているのだろうと、特に気にせずにいた。

そして、9月中旬のある暑い日、夜勤明けで帰ってきて幼虫を観察した時のことだった。

幼虫はすでに動かなくなっていた。

坑道にも菌糸が進出していることから、2,3日は摂食していなかったらしい。

虫体を観察しても、傷や病斑は特に見当たらない。

幼虫の周りには細かい水滴があり、蒸れか酸欠でやられたようだ。

仮死状態という可能性に賭けて容器から取り出して一晩放置したものの、息を吹き返すことはなかった・・・。

残るは一番大きい幼虫だた1匹のみ。

表面には出てこないので、内部で死んでいるのではと不安になりながら、

菌糸を容器から取り出して割ってみた。

なんとか生きていた。

菌糸を割っていて、これまでの飼育の時と状態が若干違うことに気づく。

「おがくずの密度が高すぎる」

「菌糸の勢いが良すぎる」

今まで使用して成功したのは、若干乾燥気味で菌糸が弱ってきたものや、

菌糸ブロックを砕いて詰め替えたもの(結果的におがくずの密度が低くなる)。

成功例の状態に近づけるべく、ちょっと手を加えてみることに・・・。

菌糸を割って、おがくずを2割ほど取り除いて詰め直す。

これで通気性が改善され、菌糸の勢いも少しは弱まるはず。

あっという間に残り1匹になってしまったが、なんとか成虫までたどりついてほしい。


7.途中観察その2 

菌糸カップに細工を加えてから1ヶ月経った10月16日。

たぶん幼虫は元気だと思うが、一応確認のため菌糸を割ってみる。

元気な姿を見せてくれたので、ひと安心。

もう少し太ってきたら、蛹になるはず。


8.途中観察その3 

さらに1ヶ月が経った11月16日、ふと幼虫の存在が気になり、菌糸を割る。

後ろ姿だけしか見えなかったが、元気なようだ。

一回り大きくなったようだが、まだまだ蛹になる気配なし。

できることなら、さらに大きく育ってほしい。


9.途中観察その4 

年が明け、寒の入りが宣言されて冬真っ盛り。

部屋の環境も夏場とは激変して、低温・低湿度。

気温は15℃を下回るようになり、湿度も約40%が当たり前となった。

2011年1月17日、今年初めての生存確認。

前回から少しだけ大きくなった程度。

温度が低くて成長速度が落ちているようだ。

菌糸カップの中身はほとんど食痕だけ。

このままでも成虫にはなると思うが、新しい菌糸カップに移し替えようかな・・・。


10.途中観察その5

長い冬も終わり、ようやく春がやってきた4月14日、菌糸カップを割ってみる。

前回より若干大きくなったか。

動きが弱々しいのが気になるところだが、このままそっとしておくしかない。

再び菌糸カップに戻しておく。


11.途中観察その6

初夏の陽気になった5月7日、ふと思い出して菌糸カップを割ってみる。

すでに蛹になっていた。

驚いたのは、背中にびっしり付着したダニ。

これは、弱ってしまうかも・・・。

ひとまず、ティッシュペーパーを濡らして人工蛹室を作成。

毎日様子を観察することに。

あと1ヶ月弱、ダニの攻撃を耐えられれば成虫になれるはず。


12.終焉

2週間ほどは、体の着色も進んで順調にいっているように見えた。

でも、ナンキの体力は確実に奪われていた。

徐々に動きがなくなり、体色がどんどん黒くなっていった。

2011年5月26日 死亡確認

あと少しだっただけに、残念でならない。

またいつか機会が巡ってきたら、必ず累代飼育を成功させてみせる。

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