ハムシダマシとオオクビボソムシ
いつ頃からか不明であるが、ネット上では「ハムシダマシはオオクビボソムシによく似る」という情報がまことしやかに紹介されている。
ところが、2013年10月25日時点でのGoogle画像検索ではオオクビボソムシとして表示される画像の大半がハムシダマシの誤同定だった。その後、ハムシダマシは和名が改称されてエチゴキバネハムシダマシとなり、2021年1月12日時点でのGoogle画像検索では誤同定にケナガクビボソムシも加わるなど混迷が深まっている。 |
近似種オオメキバネハムシダマシ Lagria
ruficollis
(旧和名はニセハムシダマシ)
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オオクビボソムシ Stereopalpus
gigas
(原色日本甲虫図鑑III より引用)
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このように、両種はまず色彩からして似ていない。なぜこのようなことが起きたのか経緯は不明であるが、次のように推測される。 ・ハムシダマシは都市部でも比較的よく見るのに対し、オオクビボソムシはなかなか見る機会がなく、正確な姿を知るには図鑑を見るくらいしかない。 ・そのため、最初はハムシダマシだけを紹介する人が多かった。 ・ところが、誰かがブログ等に「似ている」情報を発信する。 ・それを見た人が図鑑で検証することをせずに鵜呑みにし、コピペしてブログ等に掲載される。 ・「似ている」情報が誤りと気づいてそれを否定した人もいたかもしれないが、それを上回る速度で「似ている」情報はWeb上で増殖。 ・やがて、検索しても「似ている」情報ばかりがヒットするようになり、既成事実化した。
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和名改称と真の近似種
エチゴキバネハムシダマシとオオメキバネハムシダマシ
ハムシダマシLagria nigricollis と本当に似ている種として、ニセハムシダマシLagria rufipennis という種がいる。この種は原色日本甲虫図鑑3巻にも掲載されていないので、かつては甲虫屋さんでも知っている人しか知らない虫であり、一般の人が知らないのも無理はない。Jung &Kim (2009) では両種の違いが解説されている(リンク先で論文PDFが閲覧可能)。 その後、2016年に「日本産ゴミムシダマシ大図鑑」が出版され、和名の改称が行われた。この図鑑で両種が図示・解説されることにより、一般の人にも違いが理解できるようになった。正確な情報を日本語で知りたい方はこの図鑑を図書館で探してご覧ください。 ハムシダマシ → エチゴキバネハムシダマシ Lagria nigricollis
(原色日本甲虫図鑑3巻にも掲載あり) |
参考文献
秋田勝己・益本仁雄 (2016) 日本産ゴミムシダマシ大図鑑. 月刊むし・昆虫大図鑑シリーズ9. 302 pp. むし社, 東京. Jung, Boo-Hee & Jin-Il Kim. 2009. Taxonomy of the genus Lagria Fabricius (Coleoptera: Tenebrionidae: Lagriinae) in Korea. Korean Journal of Applied Entomology, 48(3): 275-280. Link 黒澤良彦・久松定成・佐々治寛之 編著. 1985. 原色日本甲虫図鑑III. 保育社, 東京. 500pp. |
(2013年10月26日 作成、2021年1月13日 更新)