2010.Jul. 26-31
6日目 31日(土) 最終日
5時、起床。よりによって、今までで一番爽やかな朝。疲れのことは気にしていられない。トラップを回収するため、山へ。
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山の上はまだ雲に覆われているが、明らかに晴れる兆候が感じ取れる。
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第1、第2ポイントのコップは前日に回収済みなので、第3ポイントのトラップだけ回収すればおしまい。
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昨日増設したとはいえ、人に言えないほど少ないコップ数。たった一晩、それも天気はそれほど良くない状況では、オサムシもそれほど動いていない。
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イシカリクロナガオサムシ
生け捕りにできたのはこれだけ。あとは、ヒメクロオサムシが1匹追加できたくらい。
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昨日最後に見たコップには、今日は何も入っていなかった。
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車に戻る途中、林道のゲート脇に鱗翅目が多く止まっていることに気づく。この上にある外灯、まさかとは思ったが夜には点灯するらしい。とりあえず、蛾像収集に励む。
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シロジマシャチホコ
1日目にも見たが、なんとも言えない渋い魅力がある。
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ハガタエグリシャチホコ
鱗を重ねたような模様をしている。
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ウチキシャチホコ
塗装の禿げた支柱に、うまく同化しているような、いないような。
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標本箱の都合で採集は極力控えているのだが、今回は1匹だけ持ち帰ることにした。
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ジョウザンヒトリ
札幌近郊の有名な観光地「定山渓」の名を冠する。本州にもいて名前も知っていたが、見るのは初めて。
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なかなかオシャレな模様をしている、大型のヒトリガだ。
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そうこうしているうちに雲は晴れ、夏空が広がる。気温が急上昇し、チョウが飛び始めた。
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ベニヒカゲ
そこそこの個体数がいる。
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クジャクチョウ
その鮮やかな模様に、眼を奪われる。
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イタヤカミキリ
羽化脱出直後の、未成熟個体。
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時間は7時半、飛行機までにはまだ十分時間がある。でも、山を登ろうとしても、体がついていかない。無理に登っても、倒れるだけだ。天気だけは仕方がない。そう言い聞かせて、山を降りる。
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もう、斜面を登る気力はない。平地で最後に粘れるところはないものか。いろいろ思案した末に、土場へ行ってみることに。
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第2の土場
カミキリムシの姿は、ない。よく考えれば、産卵は主に午後に行われ、今頃はまだ食事中のはず。
「午前中は花掬い、午後は土場めぐり」
これまでの経験で得た鉄則を忘れるとは、思考回路にも影響が及んできたようだ。
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ひとまず、基本に戻って花を観察。近くにある植栽のノリウツギには、意外と虫が集まっている。夏の日差しが照りつける中、撮影と採集を、同時進行で。
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ヒメアカタテハ
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フタガタハラブトハナアブ♀
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メバエの一種
(ジョウザンメバエ?)
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キイロスズメバチ(北海道亜種)
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他にも多くのマルハナバチ類やハナアブが飛んでいるのだが、気配に敏感で撮影することができない。
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一方、比較的鈍感なカミキリムシは良い被写体となってくれる。
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アカハナカミキリ
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ヨツスジハナカミキリ
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ホソトラカミキリ
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エグリトラカミキリ
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日が高くなるにつれて、甲虫の姿が少なくなり、ハチが増えていく。
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フタスジハナカミキリ
あまりの暑さに、日陰で涼むものも現れる始末。
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でも、そんな状況で次々と飛来するカミキリムシがいた。それは、良く似た種類がいて何度となくぬか喜びをした、未採集種。そっくりさんを先ほど採集していたのだが、その違いは一目瞭然であった。
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クロトラカミキリ
平地で真夏に見られ、前胸の模様からミッキーマウスの愛称がある。民芸品(こけし)からの羽化脱出例があるように、幼虫は乾燥した材を好むという変わりモノ。
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よく似たエグリトラカミキリとの主な識別点はこのとおり。クロトラの方が全体に幅広く、前胸の比率も大きい。
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ハナカミキリ類が撤収した後も、夢中で花粉を食べ続ける。そのほとんどがメス。産卵のために栄養を蓄えるため。
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そして、たまにオスも出会いを求めて飛んでくる。
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体感気温が30℃くらいになった11時頃に切り上げ、昨日のアドバイスを思い出して、あの場所へ急ぐ。
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昨日、大物に逃げられた場所。急いで材を見渡すと、長い触角を発見。すぐに取り押さえた。
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シラフヨツボシヒゲナガカミキリ♂
北海道特産のヒゲナガカミキリ属のひとつ。本州以南にもいるヒゲナガカミキリに似ているが、例えば前胸の横が白くならないなど、一見して違う。
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追加が得られないか粘るには、もうそんなに時間がない。体力が限界を超えている今、空港まで戻るにはかなりの休憩時間を見越しておかねばならないのだ。
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ルリボシカミキリ
斑紋がちょっと変わっている個体を採集。これが、今回の遠征で最後に採集したカミキリムシとなった。
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車に乗って帰途についたが、100mほど走ったところで路上に瀕死のチョウの姿を見つけ、最後の採集とする。
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ミヤマカラスアゲハ♂
胸部から体液が染み出ているところからして、おそらく飛行中に車に激突したのだろう。
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この後、コンビニに何度も立ち寄って休憩をしながら、“長距離”運転をなんとか無事にやり遂げる。距離メーターによれば、通算500kmほど走行したらしい。帰りはぐっすり寝るという電車・バス採集の方が楽なのだが、これからのことを考えると車の運転にももっと慣れておかねば。
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さらば、北の大地。そのうち、また来るからね。
数々の野望を抱いて初めて訪れたものの、残念ながら天気に恵まれなかった。それでも、北海道でしか見られない昆虫もわりと見ることができたし、その生息環境というものを、一部ではあるが実際にこの眼で確認できた。原生林、二次林、公園、田畑も、すべてにおいて本州とは規模が違う。「ユーラシア大陸北部とのつながり」といった大げさなものではないが、今までにない何かを実感できたことが、きっと今回の最大の収穫だろう。